55:”無法”の体現者(17)
荒金靖樹ことラクォーツは、悪人街の元締めである「ゲダム」を探し出す為、”悪人街”の防衛戦へと参加した。
そして紆余曲折を経て、ファイブ・スターズの一人を撃破し、戦況を五分五分か、それ以上のものへと持ち込む事に成功する。しかし、急激に主戦場となっていた商業区が静寂に包まれ、その原因を調べる内に、悪人街の人間達が別の第三勢力によって壊滅させられてしまった事を知った。
絶望に包まれるラク達だったが、ふとしたきっかけから、敵の狙いはエクスクモであるのではないか、との推理を行う。ここへと仕掛けられてきた攻撃は、最初から政府とその傘下にある賞金稼ぎ達のトップ、つまりはエクスクモを
なんらかの形で失脚させるのが狙いではないか、と。
そしてレーダー・マップから恐らくはエクスクモらしき反応と、彼を確保に向かっている敵らしい反応を確認し、ラク、サイモン、ストロング。そして合流したじゃがいも、滝沢の5人は、彼を確保する為に商業区の北西にある商店街の広がる地域へと向かうのだった―――
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現在の戦況の絶望的さを確認した後、5人はビルから降りた。
そしてエクスクモを探す為、商業区の北西へと向かっていた。
駆けながら、サイモンがラクへと訊ねる。
「そういや、向かってた奴らの数はわかってるのか?」
「確か”3つ”でした。見えた限りでは」
「ゴゴフゴゴ」
ラクが言うとストロングも”そうだ”と言う。
商業区の人間は大方集め終わっていたらしく、あのレーダーには弱弱しいエクスクモらしき反応が一つと、他は間違いなく3つの表示のみだった。
だから敵は3名と言う事になる。
「恐らくはジャグスとニクロムの野郎に、あと一人って所か。数だけならこっちの方が上だな」
(……一体どんなヤツなんだろうか?)
ラクは目的の場所へと向かっている最中、ずっと考えていた。
”この騒ぎを画策した人間はどういう相手なのか”という事についてだ。
相手は大人数か? 単体か? そしてそれは有名な奴なのか?
政府の人間がそのまま直に来ているのか、それとも悪人街の誰かが手を貸してこのような状態になっているのか。
まだまだ不明な事ばかりだったが、ひとつだけわかっている事がある。
それは―――
(とにかく”強い”。これだけは間違いない)
プリミアとの戦闘のため、ビルの上部に登っている時間はそう長い時間ではなかった。せいぜい20分~30分程度だ。
プリミアと戦って、それで地上へと降りた時には、廃墟のようになっていた。
今回の”事”を引き起こした相手は、その30分の間に商業区のほぼ全てを掌握した事になる。
とてつもないスピード攻撃である。
(みんな……本当にみんなを倒してるんだからなぁ……)
集まってきていたマスター達や、あれだけ集まっていたプレイヤー達。
そして最強の二人である匂坂とエクスクモの戦闘に割って入り、更には匂坂を倒して捕縛までしてしまっている。
恐らくはエクスクモの方も、反応が薄かった事から相当な深手を負っているに違いない。
そんな事を、あんな短時間で行えるような相手達である。
恐ろしく統率の取れた、まさに”本物の軍隊”とも言うべき者達なのは想像に難くないだろう。
(まぁ、考えてる場合じゃないか……)
走り始めて、もう10分ほど経ち、目的地が近付いてくると突然、サイモンは足を止めた。そして、後ろを着いてきていたラク達に向かって言った。
「おい、おみぃら。もうちょっとで問題の場所だが……持ってる攻撃アイテムを新入りに渡せ」
「えっ? 何だよサイ、いきなりどうしたんだ?」
理由をじゃがいもが訊ねると、サイモンは言う。
「今思い出したんだが……コイツ、攻撃アイテムが無くなってるんだよ。オリらはこのまま行ってもいいんだが、もし何かあってこの新入りだけ手が空いてた、って状況になった時に空手じゃ終わりだからな」
「なるほど。少しでも勝利の確率を上げるためですか」
「そういう事だ。アイテム持ってりゃ、砲台役か時間稼ぎぐらいにはなる。だからおみぃらの持ってるもんで、余裕があったら渡せ。ただ……余裕が無ければいい。コイツに無理に分けるよりは、レベルが上のおみぃらが万全の状態の方がまだいいからな」
「いえ、そういう事ならいくつか予備があるんで渡しときましょう」
「俺ィも使ってないのがあるから、この際持ってけや」
「フゴゴ、フゴッ!」
「あ、ありがとうございます!」
「礼はいいから、それよりも集中しとけよ。例えエクスクモを確保できても、これからどうなるか全くわからねぇんだからな」
嬉しい誤算だった。こんな何も無い場所だったが、道具の補給を受ける機会ができたのだった。
じゃがいもは薬品アイテムばかりを大量に、滝沢は手投げ型の閃光弾と手榴弾を少々、ストロングはフィジカル重視型のプレイヤーだからか、回復薬を沢山もらえた。
正直、そこまで一気に戦況を変えられるものは無いが、補助としては助かるものばかりだ。
「あと、これもおみぃに預けとく」
「え、これ……アクア・サーバ・セイバーじゃ……?」
サイモンから差し出された手には、鞘に修められた武器があった。
鞘には、銀色の月桂樹が複雑に絡みつく紋様が描かれている。
これは、一度彼に取られてしまったあの「アクア・サーバ・セイバー」だ。
「オリはあんまこういう小細工の効く道具はうまくつかえねぇから、渡しとく。これで少しは戦えるだろ。足手まといにはなるんじゃねぇぞ」
「す、すみません……」
「一時的に貸すだけだからな。後で返せよ。それと、お前が危なくなったら、相手に取られる前にまた容赦なく取っていくからな」
自分の戦闘力を少しだけ補完できた事に感謝し、ラク達5名は、レーダーにて確認した”問題の地点”へと足を踏み入れていった。
■
反応が現れている商業区北西は”商店街”が広がっている地域だった。
昔の町並みを活かしつつ、現代的に作られた活気ある場所である。
戦闘地域からは外れていたからか、そこまでは戦火が及んでいないようで、余り建物が壊れている感じはしなかった。
「反応が見えてきました。もう300メートルほど北ですね」
距離を詰めた為、レーダーにも表示が現れ始めていく。
じゃがいもがレーダーウィンドウを開いて確認を行いつつ、周辺に隠れている人間などが居ないか探しながら進んでいく。
レーダーには動いている人間は映りやすいが、停止していると、反応しづらくなるからだ。FPSゲームなどに採用されている方式である。
元々感度の高いクラスだと余り意味は無いが……。
「なんというか、隠れるには最適な場所って感じですね」
ラクが周囲を見ながら呟く。
いつもならば、ここにはNPCが運営する電想世界上の仮想店舗が並んでいるはずだが、戦闘地域と化してしまった為、お客もいなければNPCも消えてしまっており、さながらゴーストタウンのような場所となっていた。
サイモンも念のため、レーダーを確認しながら進んでいた。
「そもそも……エクスクモのヤツなのか? レーダーに映ってたのは。別人の可能性もあるだろ?」
「それらしい反応はこの辺りに見えたものだけでした。もし、逃げているなら間違いないはずです」
「逃げてる、か……想像できねぇな。あのクソ強いスターズのリーダーが……相手は一体どんなヤツらなんだ?」
サイモンが呟くように言うと、じゃがいも達も言った。
「自分らもその辺は気になりますね。いくら大勢とは言え、どうやってあの二人を同時に倒したのか……」
「弱った所を一気にィ攻めたんじゃねィか? 戦闘も終わり頃だっただろィ」
「BL、いくらなんでも雑魚ばかりじゃ、あの二人を倒せないでしょう。シエラさんが居たとして、最低もう一人ぐらいは強力なプレイヤーが居ないと」
(もう一人、か……)
確かにじゃがいもの言う通りだった。
いくら消耗しているとは言っても、匂坂のエクスクモも強力な上級クラス、いやもはや準高級クラスといってもいいプレイヤーだ。
そこまでの相手だと、広範囲をほぼ消費無しで攻撃するスキルを持っている為、数では押せない。
ある程度の強いプレイヤーでなければ、トドメは刺せないはずなのだ。
だからシエラだけではなく、最低でも”もう一人”は強力なプレイヤーが居るはず。
それが誰かを、出来るなら戦闘に臨む前に特定しておきたい。
「しかし一体誰なんだ? もう一人いるとしたら……って、思いつかねぇぞ。そんなの」
「あの場に居た奴らじゃないって事は、掃除屋の人間じゃないですよね。シエラさん以外のマスターもいたし、自分も思いつかないです」
サイモンとラクが言うとじゃがいもも言う。
「ニクロムとジャグスの二人で掛かったんじゃ?」
「それだと一発で輪切りにされてる。あの二人はそんな甘くねぇよ」
「う~ん……」
「まぁ……確かに弱ってたってのもあるから、匂坂を片方を姐さんがやって、スパイダーの方をその二人で狙ったから取り逃がした、ってのが大方、予想できる範囲だな。運よくやられはしなかったが……倒せもしなかった、って所だろ」
「そんな所ですかねぇ?」
(……なんか腑に落ちないなぁ)
話してはみるものの、結論は出なかった。
他には思い当たる部分が全く無かったからだ。
外部から有名プレイヤーを取り込むわけにも行かない為、どうしても他の選択肢が思いつかない。
(何人か口の堅いハンターを引き入れる……いやそれだとダメだな。悪人街の人間以外を排除する必要があるだから)
ラクが逡巡を重ねていると―――爆発音が響いた。
「ッ、今のは……!」
同時に、建物が崩れるような音も聞こえてきた。
どうやら、先に相手がエクスクモの方と接触したようだ。
「あっちだ! 行くぞ!!」
5人は、崩れ落ちる音の響き渡る元へと駆け出していった。
■
満身創痍の状態で、エクスクモは剣を自分へと向かってくる相手へと向けていた。
「はぁ……はーっ……」
「流石にリーダーだけあって隙がねぇなぁ~。ちょっと尊敬しちゃうぜ。その瀕死の状態で、ってのによ」
「黙れ……クズの犯罪者どもが……ッ!」
剣の切っ先の方向に居るのは、ジャグスとニクロムの二人だった。
やはり予想通り、エクスクモを捕縛する為に出撃していたようだ。
弱りきっているエクスクモは、もはや眼中にはないようで、ニクロムが面倒くさそうに言った。
「流石にさぁ、いい加減に死んでくれよ。見てるだけで気の毒になってくるんだからさ」
エクスクモは全身ボロボロの状態となっていた。
HPのゲージも1割どころか、ほぼゼロ寸前の状態だった。
身体中が痛む為、普通のプレイヤーなら意識すら保てず、とても立っている事などできなかっただろう。
「居たっ!」
「オラッ! 待ちやがれ裏切り野郎共ッ!!」
これから最後の攻撃が掛けられようとしていたまさにその時、ラク達5人は彼らが対峙している場所へと到着した。
そして着くなり、ラクはエクスクモの姿を見て驚愕した。
(なっ!? なんだアレ……!?)
ラクが驚くのも無理はなかった。
何故なら、彼は―――まさに”死ぬ一歩手前”と言うしかないような状態だったからだ。
HPゲージはほぼゼロ寸前で、戦闘不能一歩手前。
装備は大半が破壊されており、いつも身につけていたマントや簡素な肩当てなどは無く、上半身のコートもボロボロで半分ほどとなっていた。
全身の至る所には欠損表現が張り付いており、右腕に至っては、もはや動かせそうにはない。
そして―――剣が折れ曲がっている。
ただ折れているだけではなく、いつも使用しているものではなくなっている。
(ほ、本当にエクスクモ……なのか?)
”メタル・イーター”が消えてなくなっていたのだった。
かろうじて、被っているウェスタンハットがある事で彼であるとわかるが、そうでなければ、あのファイブ・スターズのリーダーだと言われてもわからなかったかもしれない。
「クソ、新手、か……っ!」
「それじゃあ一気に……」
ニクロムとジャグスを排除するべく、攻撃をかけようとしていたじゃがいも、滝沢の両名だったが―――サイモンが手を突き出し、それを止めた。
「待て」
一気に5人で畳み掛ければ、充分に勝てそうだが、”ある事”に気づいたからだった。
「なんだ? サイ。どうしたんだ」
「あいつら”二人”しかいねぇぞ。反応は”三人”じゃなかったのか?」
「そう言えば……」
「クソッ!!」
こちらの姿を確認すると、エクスクモはフラついている身体を引き摺るようにして、わき道の路地へと逃走した。
弱っているところで、挟撃を受けては危険だと判断したのだろう。
ジャグスとニクロムの二人は、それを追いかけようとはしなかった。
恐らくは”三人目”の人間に捕縛を任せて、ここでこちらを足止めするつもりなのだろう。
「どうする? サイ。一気に5人であいつらを片付けるか?」
じゃがいもがサイモンに訊ねる。
「いや……それはまじぃな。足止めするだけなら一人でいい。普通なら、あいつを捕縛する方が面倒だから二手に別れるはずだ。もう一人に任せてるって事は……そっちのやつの方がつええって事だ」
「じゃあ、振り分けは……」
サイモンは僅かに考えていたが、考えるまでもなく作戦はすぐに決まったようで、それを4人へと告げた。
「じゃがいも、滝沢。おみぃら2人でスパイダーを追いかけろ。こっちはオリと新入り、ストロングの三人でなるべく早くコイツらを始末して追いかける」
「了解。でもスパイダーの方は捕獲までやった方がいいんですかね?」
「いや、追跡するだけにしろ。で、”三人目”が出てきたら、スパイダーのヤツに加勢しろ。あくまでも……おみぃらの方が時間稼ぎだ。無理には相手するんじゃねぇ」
「わあったぜぇぃ」
サイモンが指示を出すと、エクスクモを追いかけ、じゃがいもと滝沢の両名は同じく路地のほうへと消えていった。
「って事は……あの二人を如何に早く倒すか、って所ですね。こっちの問題は」
二人がエクスクモを追うために離れ、残った三人が改めて向き直ると、ジャグスが言った。
「あれ? こっちに三人って事は俺らを先に片付ける気? 甘く見られたもんだね」
「おみぃら含め甘く見てねぇから三人にしてるんだよ。相変わらず戦術眼ってものがねぇな」
武器を構え、両陣営は戦闘態勢へと入っていく。
緊張が急速に高まっていく中、サイモンが二人へと言った。
「いいか、新入り、ストロング。オリがニクロムの野郎の相手をする。その間に、なるべく早くジャグスの野郎を撃破しろ。あいつぁ攻撃力は高いが、耐久がそんなじゃねぇから、何かクリティカルの一撃が決まれば沈められるはずだ」
そして数拍の間の後、付け加えるように言った。
「もう―――仲間とは思うな。裏切り者のクソだ! 容赦なく始末しろ!」
ニクロムが声を張り上げると、戦闘は開始された。
一気にサイモンは距離を詰め、ニクロムとの接近戦に移行していく。
「ハッ! オレの相手は盗賊ギルドの幹部様かい……!!」
空中から飛び掛ってきたサイモンの刃をニクロムは持っていた刀で受け止めた。
鍔迫り合いのような形になるが、パワーはニクロムの方が上回っているようで、彼は余裕の表情で言った。
「オリもおみぃみてーなヤツの相手はしたくねーが、適性的にしかたねーからな……!」
ニクロムがサイモンを跳ね飛ばすと、宙返りをするように回転してサイモンは着地。そのまま肉薄すると、斬り合いとなっていった。
対して、ストロングとラクの二人側も、攻撃に入っていた。
「フゴゴッ!!」
ジャグスの巨大な中華包丁が振り下ろされた後、丸太のような腕でのラリアットが、ジャグスへと向けて飛んだ。
彼は上半身を仰け反らせ、そのまま起き上がるのと同時にストロングを切りつけた。
「でりゃぁっ!!」
ストロングは咄嗟に攻撃を回避するが、武器のリーチが長い為、完全にはかわせず、僅かにボディへと包丁が命中した。
しかし体力値が高い為、さほどHPは減っていなかった。
巨大な武器を持っているにしては、中々に身軽な動きだ。
「ストロング……できればお前とは戦いたくなかったんだけどな」
寂しげにジャグスは言った。
ストロングもそれは同じらしく、戦意がそれほどでもないように見えた。
(なるべく早くカタをつけないとだけど……どうするかな)
ジャグスの攻撃はどれもかなり大振りである。
巨大な肉斬り包丁が迫ってくる様は圧巻で、確かにアレを食らうと、いくらタフネス重視となっているキャラでも危ないだろう。
その上、見た目と反して攻撃スピードもかなりのものである。
余り長く接近戦での勝負を行うわけにはいかない。
しかし、かと言って遠隔での攻撃も何度も行えるわけではない。
(ジャグスはかなり素早かったからな……)
適当に毒針弾でも撃ってみようものなら、すぐに距離を詰められ、両断されて終了である。
爆弾型アイテムでも使えば別だが……それでは接近しているストロングも巻き込んでしまう事になるだろう。
なんとか、彼が気を引いてくれている間にジャグスを倒す策を考えなければならない。
(一番手っ取り早そうなのは……攻撃アイテム以外ならやっぱりこれか)
ラクは、ふと手に持っている空色に輝いているナイフを見た。
サイモンから返してもらった「アクア・サーバ・セイバー」だ。
あらゆる水に関しての事象を司る水型剣アイテムの特性。
それらの殆どを内包する能力を持つ、強力なアーティファクト装備である。
今持っているあらゆる手段の中で、やはり一番簡単に相手を撃破できそうなのは、このアイテムを使った戦法だろう。
(とはいえこいつは……強力なのは”耐性”が必要になるからなぁ)
このナイフは、酸の刃だとか液体窒素の剣だとか、猛毒のナイフだとか様々な形態へと変化させることが出来る。
無論、強力なものにするには源子の操作技術が不可欠だが、慣れればかなり汎用性の高い武器となる。
しかし、この武器は水分が手首の下辺りまでを覆うようになっているため、例えば酸の刃だとかを使うとなると”酸耐性”が必要となる。
もし無い状態で使用すると、その性質によるダメージをモロに喰らってしまうのだ。
酸ならば、手が溶けてしまったり、液体窒素なら凍りついてガラスが割れるように手首から砕け散ってしまう。
だから、耐性など何も無い今の状態では、強力な性質変化を使う事はできない。
(せいぜい、前使ってたアルコールの剣だとか、補助で使うようなものが少し出来る程度か……)
大した事は出来ないが、それでも手段が増えるのはありがたい。
今のままだと消耗の大きい魔法攻撃か、接近してダメージ覚悟の斬り合いぐらいしか出来ないのだから。
(もしくは……こっちだな)
道具を収めている袋型のアイテムをさすりながら、ラクはもう一つの手を考えた。
この中には―――先程、じゃがいも達から貰った道具のほかに、まだ残っているものがある。
ウェンファス姉妹から頂いた最後の”ボム・ダーツ”である。
恐ろしく強力かつ、決定打になるアイテムだが、なるべくなら使用は控えたい。戦闘はこれから、まだ何度かは確実にこなしていかなければならないのだから。
「フゴゴッ!」
ストロングはジャグスが大振りになった隙を突き、強烈なタックルを放った。
突き上げを喰らい、ジャグスが吹き飛ばされると、ストロングは倒れた彼の足を掴み、そのまま回転を始めた。
(ジャイアントスイングだ!)
プロレス技の一つ。それは相手をハンマー投げの要領で振り回して投げつける技だ。投げて叩き付けるだけでなく、そのまま何かにぶつけるだけでも、相手に大きくダメージを与える事ができる。
「フゴッ!」
ストロングが回転後にジャグスを投げつけると、彼の身体は大きく投げ飛ばされ、商店街にあったとある店の看板へと叩き付けられた。
ジャグスのHPが一気に減少し、体力が7割程度にまで落ち込んでいく。
「くっ……」
かなりの衝撃を受けたはずだが、流石に接近戦クラスだけはあり、すぐさま立ち上がると、持っていた包丁を振り被った。
そしてフルスイングすると共にスキル・コールを行う。
「大切断Ⅳ!」
ジャグスが巨大包丁でのスイングを行うと、周囲に風が巻き起こると同時に、斬撃の波がいくつも生まれた。
まるで三日月のような形状のそれは、周囲にばら撒かれ、ストロングにも迫っていった。
「ストロングさん、危ない!」
周りの建物にいくつも亀裂が入っていく中、斬撃はストロングにも到達し、一気に彼のHPを2割ほど削った。
いつもなら、攻撃を受けても余り体力が減らなかったが、流石に減少量が大きい。”スーパーアーマー”のスキルのおかげで、欠損ダメージは受けていないようだが、その代わりに多段ヒットの技がモロに全て命中するようになっているからだろう。
(まずいな……ストロングさんも、余り長くは持たないぞ……!)
こちらにも攻撃が追加で飛んでくるが、攻撃がストロングの方に集中されているおかげで、回避するのは容易だった。
ただ、このままでは間違いなくストロングの方が先に倒されてしまうだろう。
距離を取ってジャグスはこのまま攻撃を続けるつもりのようで、そうなったら攻撃リーチの差で、ストロングの方が明らかに不利だからだ。
(やっぱり、遠隔で一気に倒すしかないか……考えてる場合じゃない)
ラクは最終戦まで取っておこうかと思っていた”ボム・ダーツ”を懐から取り出した。
楕円を半分に切ったような部分に、いくつかの触手が生えているような形状の特別製爆弾。
射撃して放てば、この触手部分が相手へと食い込み、限りなく密着してから大爆発を引き起こす強力な爆弾である。
「ストロングさん! 相手を引きつけて、自分が合図したら離れてください!」
ラクがジャグスから見えないように武器を構えて言うと、ストロングは僅かに顔を向け、小さく親指を上げた。
(よし! それなら……)
ラクは二人から少しだけ離れ、近付いていくストロングとそれを迎え撃とうとするジャグスの両方を確認できるように位置を陣取った。
そして、ジャグスに気付かれないように彼に照準を合わせる。
「フゴゴゴゴ!!」
ストロングは身軽な動きで接近し、パンチでの牽制をしつつ、技を出す瞬間をうかがった。
実際には、相手の隙が出来るのを陽動している攻撃だがジャグスはその事にはまだ気付いていないはずだ。
このまま、距離を離すために飛びのいた瞬間か、何かしらの攻撃を放った後一気に仕掛ければ、勝てるはず。
「でやぁっ!!」
ジャグスは振りかぶり、横に薙ぐ一撃を放つと、そのまま駒の様に回転を始めた。そして―――そのままの姿勢で、ストロングの方へと突進していった。
「スパイラルブレイバー!!」
(うわっ……!)
くるくると回転しながら、まるで自身が巨大な丸ノコにでもなったかのように攻撃を仕掛けていく。
切れ味は凄まじく、触れただけで車やらビルの壁やらが、触れた片っ端からえぐられるように無くなっていく。
どうやら、彼が持っている中でもかなり強力なスキルのようだった。
ストロングは回避の為、距離を離していくが、それに反応してジャグスは執拗に距離を詰めていく。
「逃げられないってのっ!!」
かなりのスピードで回転しながら攻撃している為、周囲を確認できているように思えないが、彼はストロングが逃げる方向へと的確に距離をつめていった。
やがて、地面の瓦礫に僅かに足を取られたストロングが、距離を取るのに失敗した。
「フゴッ!?」
「貰ったぁーッ!!」
接近してきたジャグスから逃げ切れず、ストロングは跳ね飛ばされ、大きく宙を舞った。
同時に大ダメージを受け、HPが一気に3割程度にまで落ち込む。
(な、なんて威力だ……!)
ラクはここまでストロングが一気に大ダメージを受けた所を見た事がなかった。
何度か攻撃を喰らったことこそあるものの、それらで体力値が一気に減少する事は無く、戦闘終了後に半分を切っている事こそあったものの、一撃でおよそ半分ほどを持っていかれる所など、見た事がない。
当然、あんなものをこちらが喰らったら、即死なのは間違いない。
だが―――反動も大きいようだった。
「さ、て……トド、メだ……!」
回転を停止させると、ジャグスは倒れ込んでいるストロングの方へと歩み寄った。
どうやらあのスキルは長い間発動させている事はできないらしい。
凄まじい速さで回転するため、平衡感覚が狂ってしまうようだった。
その証拠に、ジャグスは身体をふらつかせており、まっすぐに歩けない状態となっていた。
(今だ……ッ!!)
この機を逃して他にはない。
ラクはそう判断してアイテムカノンを構え、ボム・ダーツを放った。
一直線に弾丸はジャグスへと向かっていく。彼はそれに全く気付いていない。
このまま行けば、胴体へと命中し、このまま撃破できるだろう。
そう―――思っていた。
「ふんッ!!」
ダーツが目前まで迫った瞬間、ジャグスは中華包丁でダーツを叩き落し、同時に爆発が巻き起こった。
「ッ、何……!?」
爆煙が晴れていく中、小さな溜息が漏れてくる。
聞こえてきたのは、ジャグスの声だった。
「ふー……やれやれ、やっと最後の1発を使ってくれたな」
その言葉を聞いた時、ラクは息を飲んだ。
こちらの持っているアイテムが、何故かバレている為だ。
「な、何でそれを……!」
「二人さぁ、な~んか外部から入ってきた奴らが混じってたみたいで、そいつらを捕まえた後に聞いたのさ」
「あの二人……? ウェンファス姉妹か?」
「ああ。賞金稼ぎの人間が何で来てるのか、ってな」
(あいつら、逃げ損ねたのか……)
「なぁ~んかさ~、”姉さんには手を出さないで”とか言って、べらべら話してくれたらしいぜ~?」
子供特有の悪戯っぽい笑みで、ニヤニヤしながらジャグスは話す。
悪気はなかったのかもしれないが―――なんとなく、ラクは”カチン”と来た。
「……脅したって事か?」
「そうなんじゃないの。俺は知らないよ。弱いやつの事なんか一々構ってられないしさ」
「……」
ウェンファス姉妹の二人は、どうやら逃げる事に失敗したようだった。
そして、ゲーム中であるので拷問まではやられていないだろうが、どうやらそれにかなり近い事を行われ、情報を聞き出されたらしい。
こんな所へとやってきたので、協力した人間が居ないのか、と疑われたのだろう。
その様を想像すると、何となく腹が立ってきた。
遠隔から何とか有利なうちに相手を倒そう、と言う事でラクは今まで考えていたが―――
「……なんか気が変わった。ジャグス。お前は……接近戦で倒す」
「はぁ? 何言ってんだ?」
「なんとなく、イラッと来たんだよ。だから……目の前の相手で、八つ当たりでもしてやろうと思ってな」
ラクが言うと、ジャグスは”まんざらでもない”と言う感じに口元を吊り上げた。
「いいねぇ、いいねぇっ! そういうの、大好きさぁっ!!」
ラクは元々持っていたナイフと、アクア・サーバ・セイバーを持ち、二刀流となってジャグスへと向かって行った。




