第1話:ワープのできるトイレ
「ひまだわー」
私、七星ひかりは超豪華な和室でゴロゴロ転がっている。
いや、つもりでしかないけどね。
ここはVRゲームの中、しかも江戸時代の江戸城内、将軍のお部屋。
私は第十四代将軍の徳川家茂プレイをしている。
このゲーム、困ったことにキャラクター補正がかかる。
つまり、将軍様がやりそうなことしかできないのだ。
言葉遣いも「私は」と言ったつもりでも「余は」になっちゃう。
畳の上でゴロゴロしようとしても、体を横にしようとしただけで斜め四十五度から強引に将軍らしい座り方に修正されてしまうんだよねー。
この目の前の菓子膳に乗っかっている和菓子も、美味しいんだけど自分で選べない。
もっとこう、いろいろなお菓子をビュッフェみたいに食べまくれると期待して、将軍プレイを選んだわけなんだけどね。
このゲーム。
【幕末アルカディア〜千の人生を自由に生きろ〜】
は、約一千種類のキャラクターのプレイができるVRソロプレイゲームとして売り出している。
それなりに手の込んだ仕組みになっていて、五感はしっかり再現できているし、RPG要素もきちんと作り込まれている。
問題は史実に忠実すぎるということ。
武士はお役目を果たしながらのプレイ、浪人は色々できるけど収入がない。商人は競争が激しいのと武士の横暴に泣かされる。
そして私がやっている将軍様は立ち居振る舞いすら自由でないと来た。
だれがこんなゲーム、好き好んでやるんかい!
だいたいさ、ゲームのレビュー評価がおかしいんだよ。
「新選組でストレス解消できました」
とか
「代官の俺、上州屋との「お主も悪よのう」プレイ、最高!」
とか
「龍馬で海賊プレイ面白かった」
とか。
自由があるゲームと勘違いしてしまったじゃない。
だからさ。
一番身分が高いキャラだったら、色々自由があると思ってはじめたわけよ。
私の一年分のお給料、返せー!
という不満を親友の、伊乃莉ちゃんにぶつけたら「ちょうどそのゲームのMOD作ったんだ。試す?」なんていう返事が返ってきた。
「非合法じゃないよね」
「ノンノン。安心安全第一です」
いや、MODということだけでも十分怪しいのだけど、伊乃莉ちゃんの牛乳瓶の底を通して見える、真摯な眼差しを信じてそのデータを送ってもらったんだ。
「さて、では真の自由な幕末へGOー!」
私はMODで改変された世界へ飛び込んでいった。
◇◇◇◇
「おおー、ごろごろできる。すげー」
いつものお座敷。
私は自由を満喫しています。
ただ、やっぱり視線が痛いわー。
いつもお側にいる役目の人。
何ていうんだっけ?
側用人じゃなくて、なんかそんな感じの名前の人。
いつも三人は最低でもいる。
《ねえ、君たちさ。たまには休暇取ろうよ》
と言ったつもりが
「その方ら、暇を取らす」
と言語化していた。
なんか三人とも一斉に顔面蒼白になっちゃったよ。
「上様のご不興に気が付かず。某め等、一生の不覚。ここで腹かっさばいて!」
《何言っちゃっているのさ!》
「痴れ者。そうではない」
《そう簡単に死ぬ死ぬ言わないの》
「その方らの腹、無下には切らせぬ」
《命は大事にしようね》
「その方らは余の大事な家臣である」
「「「ははー!」」」
御小姓さん?の一人なんか、畳に額こすりつけて感激している。
やめてよ。
私はただ、誰も見ていないところでさ、自由に幕末を満喫したい、ただそれだけなんだよね。
《もういいからさ、一人にしてよね》
「よい。人払いじゃ」
「「「はっ!」」」
ふー、やっと行ってくれたよ。
一人になるだけでこれだけ大変とは。
伊乃莉ちゃん、MOD、中途半端だねー。
体の自由は手にしたけど、言語翻訳はなくなっていないじゃん。
だけど。
一番の仕様変更は期待してまっせ。
私はひとしきり開放感を味わってから、すっくと立ち上がり、とある場所へ向かう。
でもやっぱ、ついて来るんだよね。
御小姓さんともう一人のお侍さん。
人払いは部屋からいなくなるだけなんだと、がっくしした。
御小姓の一人は将軍様の刀捧げ持っているし。
簡易版、大名行列です。
だが私には、MADな伊乃莉が作ったMODの仕組みがあるのだ。
《ちょっと待っててねー》
「しばし待て」
「はっ、皆のもの。上様、只今より憚りにて。用意いたせ」
将軍様専用のお手洗い。
ここにワープ機能を持たせているらしいんだよね。
どこでもトイレ。
じゃない。
どこでもワープできるトイレだよ。
さーて。
手始めに、どこに出かけようかなー?
よろしくお願いいたします
好評であったら長編化します。
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