ワールドアナウンス
コボルトでは手に入るお金も経験値も少ないため、次の狩場としてグリーンハウンドのいる草原へ向かっている。すると、視界の端にシステムメッセージが浮かび上がった。
《 E-1エリアボス『アーマード・センチピード』が、田中・ぶん(( 'ω' 三 'ω' ))ぶん・ブラ企オザウルス・BANANA!の4名によって発見されました》
いわゆるワールドアナウンスってやつかな。どうやらエリアボスを見つけたらしい。
正直こういうのは羨ましい。人より先に進んでいる、特別なことをしているっていう愉悦に浸りたい。そして掲示板でエゴサーチして、ニマニマしたい!
……東の第1エリアのボスが見つかったってことは、おそらく他の三方向にもエリアボスがいるということ。北のエリアボスは私が見つけてワールドアナウンスを流したいところだ。
それにしてもまだサービスが始まって……あれ、半日も経っているのか。空を見上げると、じきに日が落ちそうな気配がある。
いろいろと情報を集めるために、歩きながら掲示板を覗いていく。やはりというかなんというか、ワールドアナウンスに関するスレッドがいくつも立てられている。
どうやら発見されたエリアボスはLv15。田中って人がSSを載せていたけど、今の私では傷一つつけられなさそうだった。
さらに驚くべきは発見した場所。なんとファストリアから20キロは離れた位置にいたらしい。
さすがにワールドアナウンスは諦めよっか。おそらく私よりも先に進んでいる人たちが、躍起になってエリアボスを探し始めることだろう。
いつかはワールドアナウンスで私の名前を流したいけど、今は大人しくレベル上げとお金稼ぎかな。
さて、だんだんと茂みもなくなり歩きやすくなってきた。代わりに草が膝下辺りまで伸びていて、草原に近づいていることを教えてくれる。まあ、マップを見る感じそろそろ着くはずなんだけど。
───ゴリュッ。
「キャインッ!!」
「わっ!!」
寝ていたと思われるグリーンハウンドが、悲鳴をあげて飛び起きた。足裏になんとも言えない感触が伝わってきたけど、グリーンハウンドの尻尾だったみたい。
草原にいるのを見たからといって、森にいないとは限らないか。
グリーンハウンドは状況を理解するやいなや、私に向かって飛びかかってきた。私も足を踏まれて起こされたら多分そうする。ごめん。
慌てて横に転がり、怒りの一噛みをなんとか回避する。追撃を仕掛けてくるけれど、思いのほか遅かったため冷静に距離をとる。多分鈍足が入ってる。
(【鑑定】)
──────────────────
グリーンハウンド Lv:5
HP:78/78
MP:2/2
スキル:なし
状態:混乱(1)鈍足(1)
──────────────────
思った通り、私の悲鳴で状態異常になっている。恐怖はレジストしたみたいだけど、鈍足になってくれたらこっちのもんだね。
グリーンハウンドは足を思うように動かせないことに気を取られているため、私は吹き矢を取り出して狙いを定める。
矢は見事、グリーンハウンドに命中した。けれど、麻痺にはならず、続けて二本、三本と撃ち込んでいく。
そして四本目を撃ち込んだところで、ようやく動かなくなった。鈍足が切れる前に動けなくしたかったから、本当にギリギリだった。
動けなくなったグリーンハウンドに近づき、喉元にナイフを振り下ろす。グリーンハウンドはポリゴンに変わると、30センチ四方の毛皮を落としていった。
『グリーンハウンドの毛皮』(Common)
品質:E-
グリーンハウンドから入手できる毛皮。臭いを取るのに手間はかかるが加工がしやすく、防具や装飾の素材として利用される。
これで作る防具なんてたかが知れているし、価値はコボルトと大差なさそう。
それにしてもほとんど一撃で倒せたけど、このゲームは急所の倍率がすごい高いんだろうな。PvPイベがあったらみんな狙うだろうし、私も気をつけないと。
毛皮をインベントリにしまい北へ進むと、ようやく森を抜けることができた。草原へ出ると、少し日が落ち始めていることに気づく。
さっき来た時とは違って、いくつかのパーティが戦っている様子が見える。ソロの姿もチラホラと。
彼らを観察していると、戦っている最中に周りにいるグリーンハウンドを引き付けてしまい、息つく間もなく連戦を強いられている。ちょうどソロのプレイヤーが一人やられたところだ。
1vs1ならさっきみたいに【魔根の悲鳴】と麻痺の組み合わせで安定して倒せると思う。
けれど身を隠せる場所が少ない。ちょくちょくある低木くらいしか遮蔽物がないから、森にいる時よりも奇襲がしにくい。
いっそ思い切り叫んで、全員に鈍足をつけてから戦おうか……。いや、でもさっきMPKしちゃった時は効いていない魔物もいたしなー。
できるところまで1vs1を繰り返して、複数体に見つかったら叫べばいっか。
やってダメならその時はその時で。
しっかり周りに人がいないところまで移動して───
「キャウンッ!?」
グリーンハウンドはおしりに矢が刺さったまま、辺りを見回して警戒している。
一発目では麻痺にならなかったみたい。草むらに伏せて警戒が解けるのを待つ。
………。
………………。
まだ警戒していそうだけど、少しずつ落ち着いてきたように見える。背を向けているから撃っちゃおうか。
「キャフッ……」
グリーンハウンドは矢が刺さったおしりの様子を見たいのか、その場でクルクルと回っている。またまた麻痺にはならなかったみたい。麻痺になる確率ってかなり低め?
「アオォォォン───ッ!!」
突然、グリーンハウンドが大きな遠吠えをあげた。それに応えるように、近くにいるグリーンハウンドが集まってくる。
それは聞いてないって。
私の後方からも二頭のグリーンハウンドがやってくる。奇襲をかけたつもりが、どうしてこんなことになっているんだろう。
これを全部相手にするのはさすがに無理がある。どうやってやり過ごそうか。
「…………」
「あ……」
横を見ると、すぐ目の前にグリーンハウンドが。
君、あまりにも来るのが早くない?もしかして低木の裏にいたりした?近くで見ると目が赤いし、なんだか迫力あるね。
「イヤァアアアアアア─────ッ!!」
大声で叫びながら、目の前のグリーンハウンドの首にナイフを突き刺す。私の声に驚いたのか、ほとんど無抵抗だった。
ちなみに意図的な悲鳴だ。びっくりしたとか怖かったとかじゃない。
……うん。
3秒ほど経ったところで叫ぶのをやめ、すぐに後方の様子を伺う。グリーンハウンドたちは鈍足になってくれたみたいで、明らかなペースダウンをしていた。
すぐさま吹き矢を構え、一本ずつ撃ち込む。しかし、どちらの動きも止まらない。さすがに確率に嫌われているとしか思えない。
隣でポリゴンになったグリーンハウンドがアイテムを落とさなかったのを確認すると、両手にナイフを握り直し二頭の元へ突っ込んでいく。
そうして私が物陰から姿を現した瞬間、
「アオォォォン───ッ!!」
「アオォォォォォオンッ!!」
「キャオォォォォン────ッ!!」
(やっばいねー)
周りで状態異常になっているグリーンハウンドたちが一斉に遠吠えをあげ始めた。それに反応して、さらに遠くの方から何頭も向かってきているのが見える。
ダメだこれ、【魔根の悲鳴】を使ってたらあっという間にMPがなくなる。さっさと倒して離脱しないと。
気を取り直して、片方のグリーンハウンドに真正面から突っ込んでいく。
そんな私を見て、グリーンハウンドは身体を投げ出すようにして噛み付いてくるが、すんでのところで急停止。ガキンと口を閉じたグリーンハウンドと見つめ合う。
「えへっ」
目の前に差し出された鼻っ柱を蹴り上げる。たまらずグリーンハウンドの身体は跳ね上がるが、それはあまりにも無防備だ。
身体を回転させて勢いをつけ、逆手に持ったナイフを喉元に突き刺した。
勢いそのまま、もう一頭の背後へ回る。グリーンハウンドも後ろを取らせたくなさそうにしているが、思った以上に鈍足の影響が大きいらしい。
グリーンハウンドが動くたびに位置を修正し、背後からナイフを投げていく。動きながらではあったが、一本も外すことはなかった。二、三本とナイフが刺さると、少しずつ私から意識が逸れ始める。
(────今っ!)
その隙を見逃さずグリーンハウンドの背中へ飛び乗ると、両側から首を切り裂いた。少しして、身体がポリゴンへと変化していく。
あ、牙がドロップした。回収、回収。
<称号『首切り』を獲得しました>
シンプルに首切りね。MPK常習犯より物騒な称号だ。あとで確認しとこ。
追加で集まってきたグリーンハウンドの動きを止めるため、もう一度叫ぶ。
「キャーー!」
逃げるためだから2スタックで十分でしょ。それにもう声を出したらMP切れになっちゃうし。【自然回復】でも取った方がいいかな。
さて、撤退撤退〜。
……いや、待って?
こっちに走ってくるやつが一頭だけいる。聞こえなかったのか、効かなかったのか。少しだけ身体が大きい気もする。
(【鑑定】)
──────────────────
グリーンハウンド Lv:9
HP:201/201
MP:15/15
スキル:【威嚇】
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え、まだ草原に入ったばかりなんだけど。こんなにレベル高いの出てきちゃダメでしょ。
「ガウッ!!」
──────っ!!
グリーンハウンドが吠えた瞬間、身体がわずかに震え出す。上手く力が入らず、身体を動かしにくい。【威嚇】の効果だと思うけど、なんの状態異常だ?
そんなことを考えている間にも、既に目の前まで迫ってきている。
タイミングを見極め、身体を横へ投げ出し回避する。しかし───
(───っ!!)
足に力が入らず避けきれなかった。グリーンハウンドの牙が下半身に食い込み、そのまま身体を引っ張り上げられる。
それによってバランスを崩した私は、顔から地面に突っ込んだ。
「ふべっ」
魔力枯渇状態にならないよう声を出さず、抵抗する余地を残していた。けれど、今のでお釈迦だ。MP切れのダルさが身体を襲う。
……詰んだー!!
身体を数回ガジガジされ、私はファストリアにリスポーンした。
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