鍛冶通り
門番さんに教えてもらった鍛冶通りは、それはもうすごい熱気だ。至るところからトンテンカンと小気味良い音が聞こえてきて、炎の熱気が伝わってくる。
ここは見習いが技術を磨く場所であり、武器や防具を売る場所。そして、新人冒険者が自身に合った装備を見つける場所でもあるらしい。
「お嬢ちゃん異世界人だろ!俺の打ったナイフ買わねぇか!?」
「そのちっこい身体ならレザーアーマーはどうだ!ここらの魔物の攻撃だったら防げるぜ!!」
「俺の武器買ってけクソガキー!!買わねぇと後悔するぞっ!?」
あー、怖い怖い。
まだプレイヤーが少ないのもあると思うけど、私を逃がすまいと必死になって声をかけてくる。
悪いけど、私の中でどういう戦闘をしたいのかはだいたい固まってるんだ。だからあなたたちの武器は買わないよ。
最後の人は買ってもらう気があるのか怪しいところだけど。
声をかけてくる人たちを振り切り、仮設の工房の間をすり抜けるようにして奥へと進んでいく。
さっき声をかけてきた人たちは武器や防具を売ろうと必死になっている人たち。その奥には売ることよりも、ひたすら鉄を打つことに熱中している人たちが数え切れないほどいる。
いろいろな人の作業を見ながら、私が求める武器を探していく。ナイフ、大剣、ハルバード。
……うん。武器の善し悪しを見抜けるほど詳しくないんだよね。
しばらくぶらぶらしていると、少し変わった一角に出る。ここでは鉄を打つ音があまり聞こえない。
ちょうど曇ってきたのもあると思うけど、どんよりとした雰囲気が漂っている。
試しにいくつかの工房を覗いてみると、そこに並んでいるのは一般的な武器ではなかった。まきびし、吹き矢、仕込杖などの一風変わった武器から、用途の分からないものまで。
私はマンドレイクになった時点で、正面戦闘は諦めている。やろうと思えばできるけど、それよりも楽しい戦い方があるからね。
遠くからチクチク完封勝利。
でも、これをするには一般的な武器よりもここにあるものが必要になってくる。奇襲用に足止め用、ただの嫌がらせだったりいろいろと。もちろん、そのためのスキルを取ることも。
お目当ての場所を見つけた私は上機嫌になり、まきびしを作っていた職人に声をかけてみる。ま、文字を見せるんだけどね!
『まきびしいいよね、いやらしくて。他には何の武器を作っているの?』
「他のもんは作っちゃいねぇよ。文字読むのめんどくさいから喋れよ」
ハズレに声掛けちゃった。まきびしだけ作る変人に用はない。
「ばーか」
「!?」
耳元で小さく囁いてあげると、彼は途端に震えだした。手に持っていたまきびしが、床にカラカラと落ちていく。
ざまぁないね。
「ね、ねえ……今、な、なにしたの?」
「うひゃあ!」
いきなり後ろから声かけないでよ!びっくりして叫んじゃったじゃん!
慌てて振り返ると、長身でやせ細った男が佇んでいた。髪は長く、肩甲骨まで伸びている。猫背になってるけど、そうじゃなければ2メートルは超えていそう。
「い、今のは?ど……ど、鈍足に、なったけど……。他のなにかは抵抗し、しちゃった……」
低い声でしどろもどろな話し方。どこからどう見ても研究室で怪しいことをしていそうなマッドサイエンティストみたいな人が、なんでこんなところにいるの?
私の悲鳴が聞こえたのか周りの人たちは震えているのに、この人には効いていないみたい。やっぱり状態異常にも耐性があるってことなんだろうね。
鈍足しか効かないのなら、少しくらい喋っても大丈夫かな?
「私マンドレイクだから、声を出すといろんな状態異常を振りまいちゃうんだ」
「ひひっ……いっ、異世界人は、不思議だなあ……。ぼ、僕の工房……に、来ない、来ないかい?」
絶対に怪しい。
絶対に怪しいけど、こういう人が面白そうなものを作ってたりするんだよね?それに、三割は当たる私の直感が、行ってみろと背中を押してくる。
「……行く」
「ふふっ、おいでおいで……」
そう言われて、この人の後ろをついていく。鍛冶通りは通りというにはあまりに広く、奥に行くにつれ、喧騒がだんだんと鳴りを潜めていく。
そして案内されたのは、鍛冶通りの隅の隅。誰の目にもつかないような場所にある、小さな工房だった。ここにいる人たちは禍々しい武器や変な防具を作っていて、商売する気なんかなさそうだ。
「かじ、鍛冶師っていうのは、いっ、一人前の武器を打て、打てる……ようになって初めて、エンチャントや魔法陣、つっ……追加効果を加えていくんだ……」
男は工房の中に入ると、床、もといゴミ山を物色していく。
「でも、ここにいる人たちは、そっ、そんなの無視して、自分の好きなように打ちたいものを……打つんだよ」
ふーん、なるほど。
普通は武器としての完成度を高めてから特殊な効果を付け加えるけど、ここの人たちは初めからそっちを重視しているんだね。
だったら何を作っているのか聞こうとしたら、男は人差し指を口に当てた。黙れってことらしい。
「鈍足、ちょっとめん、めんどくさいから、少し待ってて……」
あ、そういうことね。
言われた通り黙って待っていると、ゴミ山の中からいくつかの武器や防具を持ってきて、テーブルの上に並べ始めた。
「ぼっ……僕は、こんなものを作っている……よ。【鑑定】は……使える?」
こくりと頷く。
【鑑定】を使って見てみろってことだろうね。
(【鑑定】)
『腐食のカットラス』
耐久値:11/12
追加効果:腐食(2)
ロウが作製した武器。腐食液を使用し作製されたため腐食効果を持っているが、カットラスの刃はボロボロになり耐久値が大きく減少している。この武器で切りつけた場合、確率で腐食(2)を付与する。
他の武器を見たことがないから分からないけど、耐久値がものすごく低い。腐食効果が付いているけどステータスの上昇もないね。
品質やレアリティが表示されてないけど、今考えたって分からないし、いったん置いて次の武器を見よう。
『トキシック・ブーツ』
耐久値:60/60
追加効果:毒(1)
ロウが作製した防具。毒液に漬け込まれていたため、かなり傷んでいる。この防具と接触した場合、確率で毒(1)が付与される。装備するとVIT+1、AGI+1。
『ロウの閃光玉』
耐久値:10/10
追加効果:火傷(1)
ロウが作製した武器。栓を抜くことで耐久値が減少し、強い光を放つ。しかし、少量の火薬を詰めたことで火傷の効果を得た。周囲に固定ダメージ(1)を与え、火傷(1)を付与する。
ふーん面白そうじゃん。普通の武器とは違って癖のあるものばかり。閃光玉なんて、効果はほとんど火炎玉だし。
「あなたはロウさん?」
「うん。よ、よろしく」
ロウさんはニカッと笑ったつもりなんだろうけど、子供が見たらトラウマになるくらい不気味だよ。
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