53.大きくなりました!
とある休日。
寮を出た所にある、外の広場を歩いていたら、突然声をかけられた。
「あ、トーマ様。こんにちは!」
にこりと笑うリラに、僕は言葉を失った。
すぐ隣にいたカイルが声を上げる。
「はぁ~!? リラちゃん!めちゃくちゃデカいじゃん!!!」
「はい!大きくなりました!!」
頷く彼女を見上げる僕ら。
文字通り、彼女はものすごく大きくなっていた。
たぶん二メートルは越えている。
すぐ近くに生えている小さめの木と、そんなに変わらない高さだ。
リラの隣にいるアイナがとんでもなく小さく見えるけれど、彼女はおそらく普通サイズのはずだ。
「……また何か飲んだの?」
「はい!背を伸ばす薬に再チャレンジしたんです!以前は縮んじゃったんですけど、今回はちゃんと伸びました!」
「でも伸びすぎじゃない?」
「そうですね、思った以上に大きくなってしまいました!要調整です!!」
頷くリラに、念のため聞いてみる。
「……そう。オーウェン?」
「です!!オーウェン様好みの背の高い女になろうと研究中なんです」
やっぱり。
「俺より背の高い女子って初めてだなぁ!」
カイルが楽しそうに笑っている。
確かに、お前より大きい女性はなかなかいないだろうな。
アイナが不安そうな顔で、リラを見上げている。
彼女のまともな反応に、思わずほっとしてしまう。
「リラちゃん、それいつ元に戻るの?大丈夫??」
「そうですね、計算上だと三時間くらいで薬の効き目は切れるはずです」
こちらの心配などお構いなしで、リラはのん気にそんなことを言った。
そしてさらにのん気なセリフを、カイルが続ける。
「なーなー、それだけでかいとなんか違う??」
「違いますね、まず見える景色がまるで違います。それから、なんかおなかすきます」
「あははっ!おもしろ!!俺が飲んだら、もっとデカくなるのかな?」
「そうですね、私でこのサイズですから、カイル君が飲んだら巨人になりますね」
「こわいからやめてね、カイル」
僕は心の底からそう言った。
「さすがの俺も、怪しい薬は飲めません」とカイルが笑う。
そんな僕らのやりとりに気づく様子もなく、リラが言った。
「でも、こう大きくなると、皆さんを守れそうな気がしてきますね!!」
「なんで?」
「ほら、小さいものを守ろうっていう気がしてくるというか……わかりませんか?」
「わかるような気もするけど……」
なにから守ってくれるというのだろうか。
すると、カイルが張り合うように言った。
「大きいだけじゃ俺には勝てないぜ、リラちゃん!」
「……確かにこのサイズでも、カイル君には負ける気がします」
彼らの変な会話に思わずため息が出てしまう。
リラの行動と、それに伴うおかしな出来事に慣れ過ぎているせいだろう。
「縮むまで、部屋でおとなしくしてた方がいいんじゃない?」
「せっかくだから、ロイ君にもこの身長を見せたいです!この薬が売れるか聞いてみましょうか」
「売れるとは思えないけど……」
「トーマ様わかってませんね、いつだってニッチな需要があるもんなんですよ!ロイ君が言ってました」
リラはそう言うと、男子寮に向かって歩き出す。
あまりに普通に歩いていくので、僕もアイナもぼんやりとその後ろ姿を見てしまっていた。
そんな中、カイルがはっとしたように声を出す。
「いや、リラちゃん。いくら二メートル越えでも女子は女子だから!!」
「あ、ダメですかねやっぱり」
「だめでしょ」
呆れる僕に、アイナがさらにこう続けた。
「リラちゃん。その理論だと小さい男子は、女子寮オッケーになっちゃうよ」
「そっか!それはまずいですね。じゃあロイ君呼んできてもらえますか?」
断ったらたぶんその辺の男子生徒に、ロイの呼び出しを頼みそうな勢いだ。
仕方なく僕はちらりと隣を見た。
「カイル」
「わかりました!あいつの反応たのしみ!!」
そう言うと、カイルはパッと男子寮へと走っていった。
やって来たロイはリラを見て「散歩効果、すごいじゃん!」と大笑いし、リラは「違いますよ!薬ですってば!」と大真面目に訂正していた。
彼らのやり取りをぼんやりと見ていたら、隣のアイナがそっと切り出した。
「……私ね、自分が普通過ぎるなって最近悩んでたんだけど……」
「うん」
突然の悩み告白に、驚きつつも頷く。
僕の相槌に、アイナは少しほっとしたように、ちらりとこちらを見た。
「……もしかしてリラちゃんが極端なのかな?」
あぁ、アイナの基準が揺らいでいる……。
これはきちんと伝えてあげないといけない。
「うん、そうだと思う。アイナが自分に悩む必要は全然ないよ」
「ありがとう。トーマ君にそう言ってもらえると、少し気がラクになるよ」
なぜかそこから、アイナの人生相談に乗ることになった僕だった。




