星と月はまだ遠い9 理央語り
カミシロセイラ――――それは、私が苦手だった私の憧れの人の名前。歪みのない真っ直ぐな黒髪。強い意志を感じる綺麗な蒼い瞳。凛と佇む背中。誰にでも向けられる笑顔。右耳に光る紫のピアス。
それが、彼女を構成している要素だった。初めにあった時は確か…7歳だったかな。すごく綺麗な娘だと思った。自分と3歳しか離れていなかったけれどすごく輝いて見えた。
そしてその横にいたのは彼女とそっくりな男の子。彼女と対称的な髪型。彼女と同じ綺麗な黒髪。紫の瞳。左耳に光る蒼いピアス。
彼もやっぱり輝いて見えた。よく見ると2人の手は固く繋がれていた。納得した。2人の間には強い絆があるのだと。それが、こんな場所に来ても輝いている要因なのだと。
ボスから2人の教育を頼まれてからずっと寝食を共にした。その生活が崩れるなんて思ってもみなかった。
それが起こったのは2人が来てから3ヶ月後。
裏切ったのは彼女。理由はただ一つ。弟をここには置いておけない。
それを聞いた時、私は今まで感じたことの無い気持ちだった。どう言葉にしていいのか未だにわからない。この気持ちは誰にも説明出来ない、と思う。
彼女は彼を組織から逃がすためにずっと準備をしていたようだった。ずっと一緒にいたはずなのに私は全く気付けなかった。
彼女は手っ取り早くアジトを爆破した。アジトと言っても同じ場所に長居はしないから本拠地とも言えない場所だった。混乱に乗じて彼女は彼を逃がした。どうやら親戚の家に逃がしたらしいけど、本当のことはわからない。彼女は全てを彼に託した。一緒にいるという選択肢を捨て、彼を太陽の下に戻すことを決意したのだ。
その後、彼女に待っていた仕打ちは思い出したくもない。教育係を任されていたことから、私は彼女たちを家族のように思っていた。家族のいない私に初めてこんな感情が芽生えたのだ。
彼を逃がした彼女は自由を失った。任務に逆らってもすぐに殺されることは無い。しかし待っているのは非人道的な拷問だった。それでも彼女の瞳から光か消えることは無かった。意味が分からなかった。彼女の強い意思は彼がいてこそだったのではないのか。彼がいないのに何故―――。
彼女のそういう部分が苦手だった。どんな環境でも光を失わない所。でも、そんな彼女に憧れる出来事があった。
爆破事件があってから少しした頃。彼女の仕打ちは少し緩和されたものの続いていた。私は彼女の動きに気づかなかったのにも関わらず、相変わらず彼女の教育係だった。もしかしたらそれが私への罰だったのかもしれない。
傷が目立つ彼女と一緒に食事をしていた時だった。
「何でこんな目に会わなきゃいけないの…」
聞き間違いかと思った。あんなに弱々しい彼女の姿を見たのは初めてだった。大きな目に涙を浮かべていた。涙は今にも流れそうで、私が驚いている間に静かに流れていった。
その後私が何を言ったのか覚えていない。でも、私の言葉の後に彼女が満面の笑みを浮かべたことだけははっきりと覚えている。
その時に決めたんだ。私が守ろうと。その時にはもう彼女は訓練を積んでいたから諜報を得意とする私よりもはるかに強かった。でも、どんなに肉体を傷つけられても、彼女の心だけは絶対に守ろうと思った。そして、どんなことをしてでも彼女を彼に会わせると決めたんだ。




