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カマイタチの成長と伝声魔法

 カガミとコンビを組んで10階に進む覚悟は決めたが、それで彼女のパーティーを放置する気にはならなかった。

 やはりカマイタチを連れるカガミがパーティーの核で、その戦力を引き抜くなら身の安全は確保すべきだ。


「まあ、俺もこの階のエレベーターをアクティベートしてないしね」

「すいません、助かります」


 彼らの実力にあったダンジョンに移動できるように、エレベーターまでは同行することにした。


 改めてカガミのカマイタチの優秀さを実感する。生き物の気配を察知して、無用な戦いを避ける事ができて、更にはショートカットの道を塞ぐ木の壁を、破壊する事もできる。

 破壊の際の音も、風の魔法によって消音してしまい、魔物を呼び寄せる事もない。


「いつ修正されるの、このチート」

「どうかしましたか、レントさん?」


 俺の呟きにピッタリと寄り添ったカガミが見上げてくる。


「カマイタチ、更に強くなってるね」

「はい、私の魔力が強くなるにつれてやれる事が増えているみたいです」


 D級でも下位だったカガミの魔力は、カマイタチを行使し続けるようになって飛躍的に伸びているようだ。現状でD級でも最上位、このまま行けば来年はC級にランクアップするだろう。

 帝魔で最も多いのは、C級の魔術師で、即座に魔力を失うわけでもないが、逆に上を目指せるという感じもない。

 ある種の停滞感のある階級だ。


 シャリルの家族、メンドーサ子爵家はみんなC級で、シャリルだけが突然変異の様に高い魔力を持って生まれたらしい。

 暴走の多い魔素の多い地区で生まれ育った以外にも、何らかの素養があったのだろう。


 そんなC級の生徒はどこか諦めた様子と、自己顕示欲の強さが目立つ生徒が多い。かつて地方で俺をいじめてきた奴らや、帝魔で俺に決闘を申し込んで来たのは、ほぼC級の連中だ。

 上には敵わず、それでいて一般人よりは圧倒的な力を持っている。ある種の閉塞感が、より弱い者へ力を誇示することへと流れやすいのだ。

 他者を虐げるよりも、助ける方向に誇示できる者は、そう多くないのが悲しいところだが。


 そこへ下から這い上がってきたカガミが入っていくのは少し不安がある。

 自分たちは成長できない中、しっかりと成績を伸ばしてきた者。それは妬みの対象になりやすい。

 カマイタチがいれば、実力的にはC級でくすぶってる生徒よりも圧倒的に強いだろう。しかし、人間の陰湿さは単純な強さでは測れない。

 俺が地方で魔法を工夫し、演習で負けないようになってくると、奴らは手を変え品を変えて、いじめを続けてきた。集団で襲ってきたり、不意をついてきたり、持ち物がなくなったり、聞こえるか聞こえないかの距離で、俺の名前を混ぜて会話したり……。


「そういう事もあるかもしれないから気をつけて。何かあったら相談してくれ。いっちゃあ何だが、俺はいじめられ慣れてるんで対処法は色々知ってる」

「そんな、レントさん……でも、ありがとうございます。でも相談と言っても、すぐに見つけられるかどうか……」


 帝魔の敷地はかなり広い。生徒の住居や、必要な物を売ってる店、食堂など、1つの街を形成しているからだ。


「カマイタチの能力があれば、伝声魔法なんかも使えるんじゃないか?」

「伝声?」

「今もカマイタチに遠くの音を届けて貰ってるだろ? それを逆に使って、自分の声を遠くに届けるようにするんだ。例えば……」


 俺は異世界で伝令役とのやり取りで使用していた伝声魔法を披露する。


「風の精霊よ、我が声を彼の者へと届け給え、ウインドヴォイス


 自分で使用するならもっと詠唱を短縮できるが、この世界の知識しかないカガミに、魔法のイメージを伝えるには、しっかりと意味のある文章の方が有効だ。

 異世界の記憶があれば、音や声が空気の振動であり、それを離れた場所で再生できれば伝わる事を理解できる。それはスピーカーであったり、電話であったりが普及している社会だからだ。

 しかし、この世界には空気という概念からして存在しない。目に見えないものを説明するというのは難しい。それよりも、風の精霊という抽象的な存在が声を届けているんだと想像させる方が、明確にイメージを結ぶことができるはず。

 特にカガミはカマイタチを具現化できるほどの想像力を持っている。後は魔法の効果を認知させれば、カガミ自身かカマイタチの力としてかはわからないが、再現できるようになるだろう。


「カガミ」

「!?」


 呼ばれたカガミはびっくりしたように振り返る。声の発生源をカガミの後方に設定したので、正面にいる俺からではない声に驚いたのど。

 キョロキョロと後方と俺とを見返すカガミがちょっと可愛らしい。


「こんな感じで声が届けられるんだ」


 背後から響く声にやや不安そうに顔を歪めながら頷いた。


「な、なるほど……」

「風を操るのに長けているカガミならすぐに使えるようになるよ」

「この魔法があれば、レントさんといつでも話せる?」

「情報伝達用なんで、双方向に会話する事ができるよ」

「詳しく教えてください!」


 カガミはかなり乗り気になって、俺の魔法講座に聞き入っていた。

 そうこうするうちに、このフロアのエレベーターへと到着。カマイタチの警戒能力は素晴らしく、魔物と遭遇することはなかった。

 この快適さに慣れてしまうと怖いかもしれない。その辺は、カガミのパーティーとも話し合い、変に緩むことのないように注意した。


「それじゃ、改めて行こうか」

「はい」


 エレベーターで仲間を見送ったカガミと俺は、10階を目指すことにした。

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