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10階へと到達

 カマイタチの索敵、警戒能力をもってすれば、9階のエレベーターホールから10階への階段まで、魔物に遭うことなくたどり着く事ができた。


 そしてそのまま10階へと足を踏み入れる。

 10階はここしばらく続いていたバラエティ富んだ迷宮から、シンプルな石造りのダンジョンへと戻っていた。

 ヒカリゴケの1種が照らすダンジョンは、十分な明るさとは言い難い。


「闇夜に潜む猫の瞳、その見通す世界を我が物に。ナイトビジョン


 2人で暗視魔法を唱えて、視界を確保する。灯りを生み出す魔法もあるが、光源を作ると魔物に見つかりやすくなるはず。


「カガミはこの階まで来たことは?」

「まだ数回ですが一応。ただ、この階の魔物は、カマイタチさんでも感知できない事があるので、深くは入ってないです」

「感知できない?」

「はい、気配を消すのが上手い魔物らしくて……」


 この階に出てくる敵は、半獣人らしい。特に肉食系の狼男やワータイガーなど俊敏で気配を消すのが上手い奴がいるようだ。

 カマイタチが気配を察する事ができないのは、そうした特性からなのか、純粋にレベル差によるものなのか。

 とにかくカマイタチの警戒能力にあぐらをかいていてはいけないようだ。


「なら俺も警戒しておくかな」


 9階で使っていた風の結界を張り直す。索敵範囲は低いものの、何かが結界に触れれば感知することができる。

 後はフレイルを手に構えて、臨戦態勢で探索を開始した。



 石造りのダンジョンでも思ったほど足音が響かない。これは帝魔内で流通しているゴム製の靴底を持つブーツのおかげだ。帝魔以外ではまだ鉄鋲が打たれたブーツなどが一般的で、農夫達はサンダル履き。

 スニーカーが流通すれば色々と快適になるだろうが、今のところまだ素材が希少らしい。ダンジョン内で取れる分では国民に行き渡るほどの量は稼げない。

 ゴムをドロップするラバースライムは、弾性が強く、剣が効きにくく、炎が弱点ではあるのだが、炎で倒すとゴムが役にたたなくなる。逆に凍らせても変質したりして採取が難しいらしい。

 今のところは、ハンマー系の武器で叩き潰すのが最も傷めずに倒せる方法だった。画期的な討伐方法があれば、稼ぐチャンスではあるんだが……。

 などと要らないことを考えていると、風の結界に何かが触れる。



「カガミ、来るぞ」

「は、はい……っ」


 警告の声にカガミが少しビクッとなるが、カマイタチの方はすぐさまに周囲の警戒を強める。

 するとパン、パン、パンと何かが弾ける音が近づいてきた。


「何だ?」

「この音は、ワーラビットです!」


 ダンジョンの石壁がパンパンと鳴って方向が混乱する。風の流れも乱れてしまって、近づいて来るのはわかるのだが、姿も確認できない。


「どこだ!?」

「動きが速いので、姿を捉えるのも難しいんです」


 と、カマイタチが空中に跳ねた。鎌状に変化した前足が、空中で打ち鳴らされる。何かを迎撃したらしい。

 ワーラビット。

 その名前の通り、半獣人のウサギバージョンだ。発達した足が普通の人間の3倍はあるだろうか。その蹴りをカマイタチが迎え撃ったらしい。

 カマイタチが空中を足場に真っ向から受け止めたが、体格的にはかなり劣る。弾き飛ばされる形で2体が分かれた。


「うらっ」


 一瞬の停滞を逃さないように、フレイルで殴り掛かる。しかし、棍の部分を受け止め、重りの部分で大打撃を受ける昆虫のような愚は冒さなかった。棍の部分を蹴り飛ばし、重りの部分をしっかりと避けて体勢を立て直す。

 ライカンスロープと呼ばれる半獣人の知性は、人間と変わらない。その上で獣の身体能力を持つがゆえに、この10階というそれなりの階層の敵なのだ。

 まだ草食獣がベースであるワーラビットは、戦闘能力という意味では弱い部類。肉食獣相手だと、鋭い爪や牙を機敏な動作で繰り出してくる。その一撃は、生半可な受け方では一気に致命傷となってしまうだろう。

 ワーラビットの武器は、その強靭な後ろ足。俊敏に飛び跳ね、強烈な蹴りを見舞ってくるとはいえ、一撃で致命傷とまではいかないはずだ。

 ただ壁を蹴り、空中を舞って、迫り来る。それは軌道を読みにくく、攻守に厄介な動きであった。


「カガミはカマイタチにしっかり守ってもらえ。こいつは俺が捕まえる」

「だいじょ……わかりました!」


 一瞬、不安そうな声が漏れそうになったが、歯切れのよい返事へと変わった。それは俺への信頼の証。かつてはカガミの戦闘力に守られる側だった俺。そんな俺を信じてくれるカガミの度量に、応えないわけにはいかなかった。


 バン、バン、バン!


 再び壁を蹴りながら加速するワーラビット。グレーの体毛も相まって、薄暗いダンジョンにその姿が溶け込んでしまう。

 目で追っていたのでは、到底捉えきれない。

 俺は風の結界に意識を集中し、タイミングを図る。制空圏に相手を呼び込み、その動きを風で感じ、捉える。一瞬が勝負を分けるだろう。

 意識を凝らす俺に、その気配が感じられた瞬間、俺は準備していた魔法を解き放つ。


泥人形マッドドール


 魔法を唱えた直後、みぞおち辺りに、鋭い蹴りがめり込んできた。くの字になりながらもその足を抱え込むように丸くなる。しっかりと足を抱えられたワーラビットは、身動きが取れなくなった。

 そこへ横からフレイルで殴り掛かる。

 片足が固定された状況では避けることは敵わず、足に比べるとかなり貧弱な腕でその一撃を受け止めるしかない。ワーラビットは、しっかりと威力の高い重りの部分から身を守ろうと腕を上げるが、それで防がれては武器の意味がない。


 ボグゥ。


 鈍い打撃音と共にワーラビットの腕が砕け、更に連なってやってくる重りを防ぐことはできなかった。頭部を中心に幾つもの鉄球に痛打を受けたワーラビットは、動きを止めて霧となって散っていった。

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