死んだらどうなる?
死後の世界とはいかなるものなのか。
異世界の記憶だと、三途の川を渡って閻魔大王の裁きを受けて、極楽浄土に行けたり地獄に落とされたりするのか。煉獄で浄化の炎で焼かれるのか。
戦いで散った者は、戦乙女に誘われてヴァルハラ宮殿へと向かい、神々の戦に備えるというのもあるか。
そして、そこからの蘇生となるの更にわけがわからない。
そもそもこの世界において、蘇生は当たり前の事として受け入れられているが、カガミの時のように外傷はあれど姿形を留めているならまだしも、首を切断されてたり、消化吸収されてたりしたらどうなるんだ?
魔法で焼き尽くされたり、細切れにされたり、尋常じゃない遺体もあるはずだ。それをどうやって蘇生する?
それとも蘇生させるのも限界があるのか?
ムカデに食い殺されたって、生き返られるのか?
死体の回収に関しては、確証はないが多分アイラが拾ってくれると思っていた。改めて付けられた首輪には、装着者の居場所を特定できる探査魔法が組み込まれているらしい。
流石に異世界までは探知できないが、ダンジョン内なら問題なく特定できるはずだ。
一応、俺の身分はシャリルの持ち物扱いなので、無益な損失も望まないだろう。
そしてアイラは単独で10階までの地図を作れるほどの実力者。借金はまた増えるかもしれないが、それほど心配はしていなかった。
しかし、どこまでが生き返れるボーダーなのかは考えた事がない。致命的な欠損があったらどうなるんだ。
生き返れるという事で、少し死というものを安易に考えていたが、不明な点が多すぎる。やはり必死に生きなければ。
しかし眼前には大顎、魔法はおろか無詠唱でも間に合わない。手足はしっかりと巻き付いたムカデの胴によって全く動かせず、脱出することはできない。
「行って、カマイタチ!」
聞き覚えのあるその声と共に、目の前のムカデの頭部が小さな竜巻に覆われる。幾つもの斬撃音が連なり、竜巻が晴れた時には無残に切り刻まれた頭部が残されていた。
そして力なく崩れ落ちるムカデ。俺の体もそれに伴い解放される。
ドーンと横倒しになるムカデへと、小さな動物が駆け寄っていく。イタチの前足が鎌状になった不可思議な生き物。ムカデの死体の隣で不思議そうに俺を見上げていた。
警戒する様子はないが、すり寄ってくる気配もない。
「俺のこと忘れたのかよ?」
この世界にはカマイタチという生き物はいない。魔法で召喚された生き物だからだ。
そしてこの世界にはカマイタチという生き物の伝承もない。これを形にできるのは、異世界の日本という国の記憶を持つ者か、その者に知識を与えられたものだけ。
この帝魔でそんな条件に当てはまるのは一人しかいないだろう。
「大丈夫でしたか!?」
散乱した木の壁の破片をまたぐようにして現れたのは、小柄な少女だった。黒髪のおかっぱ頭に、黒の瞳。記憶にある日本人を思い起こさせる姿。
「カガミ、助かったよ」
「……え?」
お互いの姿を確認して俺はやれやれと武器をしまう。それに対してカガミの方が硬直したまま動かなくなっていた。
「カマイタチの奴、俺の事、忘れてるみたいなんだぜ」
霧散するムカデから、魔石を咥えて運ぼうとしているカマイタチは、俺には興味なさそうに作業にいそしんでいる。ある意味、生みの親なんだがなぁ。
俺の出したアイデアによって、カガミが無意識のうちに具現化させた生き物。それがカマイタチだった。召喚魔法という概念が無い中生まれた奇跡の一匹。その戦闘力は、D級魔術師程度ならあっさりと倒せるほどだ。
あれから半年、一回り大きくなったようにも見える。あのムカデを一撃で葬ったのだから、その実力はかなり伸びているだろう。
「れ、レント……さん?」
「ああ? カマイタチだけじゃなくカガミにまで忘れられて……」
自虐的に笑う俺に対して、カガミは大きめの瞳涙を浮かべながら抱きついてきた。
そのまま胸に顔を埋めるようにして泣き始める。そんなカガミに動揺した俺はオロオロと周囲を見渡す。すると駆け込んでくる一団があった。
「貴方がレントさんでしたか」
「あ、ああ」
駆け込んで来たのは、カガミとパーティーを組む一行だった。カマイタチが魔物の気配を察知して駆け出したカガミを、慌てて追いかけて来たらしい。
「一人で飛び出すとか、無茶するなぁ。まあ、おかげで助かったけど」
「まあ、カガミさんは強いですからね。それにいつもの事ですし」
どこか諦めた苦笑いを浮かべながら、前衛を務めてるらしい男子生徒が教えてくれる。
「いつもの事って……おいおい、大丈夫なのか?」
「まあ、僕達もそうやって助けられてきましたから」
パーティーの他のメンバーも頷いて同意を示す。どうやらカガミはダンジョンで死にそうな帝魔生を助けて回っているようだ。
カマイタチは風系統の魔法生物で、遠くの物音を術者に伝える能力がある。警戒や索敵に効果を発揮する能力は、カガミとパーティーを組んでいた時にお世話になったものだ。
「カガミさんがいなければ、僕達はここに居なかったかも知れないんです。そのカガミさんを助けたレントさんは言うなれば、僕達の恩人でもあるんですよ」
「よせよせ、カガミを見つけたのは偶然なんだし……」
「でも助けず見捨てていれば、その先はなかったんです。恥ずかしながら、僕達D級生はどん底の立場。次代は魔力を授からないかもしれない。貴族社会で生き残って行くためには、周りを蹴落とすしかないって思ってたんです」
そういえばカガミも出会った時は、何かに追い立てられるように無茶をしてたんだよな。
「魔物に殺されそうな所をカガミさんに助けられて、心まで救われた感じだったんです。同級生は敵じゃないって教えてくれて」
「そっか……」
当のカガミは俺にしがみついたまま動かない。耳が赤くなっているところを見ると、会話の内容は聞こえているが、顔を上げるタイミングを逸してしまった感じか?
「でもレントさん、生きてらしたんですね。オークの暴走に巻き込まれて死んだって聞きましたよ」
「ああ、そうだな。オークの暴走に巻き込まれはして、帰れない状況に陥っていたんだが、何とか救出されたってところだよ」
すぐに殺されかけたけどなっ。
「そうだったんですね。カガミさんはレントさんを助けられなかったってすごく後悔してたんですよ」
「後悔も何も、あの時はもうパーティーじゃ無かったし」
その言葉に、がばっとカガミの顔が上がった。泣きはらした目は赤く充血していたが、それ以上に顔全体が赤く上気していた。




