エトランゼの変化
「エトランゼ様、守る!」
風の伝声魔法に声が届いた。
「やめろ、レヴェリー。無茶だ!」
見上げると米粒のように浮かぶ黒い点に、高速で近づく姿が見えた。
攻撃魔法を放ったその魔術師、俺はある種の直感から“誰”であるのかに気づいていたらしい。もしかするとエトランゼ様でも外せなかった首輪から、何らかの魔力が伝わっていたのか。俺は“彼女”を確信していた。
それは様々な記憶とともに警鐘を鳴らす。
魔術師はその魔力を体内に巡らせ、その能力が高められている。強力な魔術師は接近戦も強い。
ただそんな魔術師であっても強力な魔法を撃った直後は動きが鈍る。対魔術師戦でそこを攻めるのはセオリーで、空を高速で飛べる有翼人種のレヴェリーは、地上を見下ろしていた魔術師にとって死角にいた。
攻撃したくなるのは分かるが、俺の視界が捉えたソレが“彼女”であるなら、死角になっていないはず。
「レヴェリー! そいつの背中にはっ」
それを伝えようとする前に、魔術師から高速で何かが投じられた。いや、正確にはその背中に乗っていた小柄な戦士が投じたものだろう。回転しながら飛ぶソレをレヴェリーは辛うじて回避する。しかし、下から見ていた俺は飛行物体が空中でピタリと止まり、巻き戻されるのが見て取れた。
それは異世界のヨーヨーの様に来た道を戻っていく。
「レヴェリー、避けろ!」
「エトランゼ様、頼む」
俺の声にそう返したレヴェリーは、死の刃が迫っているのを分かっていたのかもしれない。しかし魔術師を倒すためには、強力な魔法を使った直後の今しかないと思ったのだろう。
手にした槍を構えて一直線に空中の魔術師へと突っ込む。ただ無情にも彼が魔術師に届くよりも早く、投じられた刃が戻ってきてしまった。
背中への一撃で濡れたような艶のある黒き翼の片方が切り飛ばされ、バランスを大きく乱す。それでもギリギリまで槍を伸ばして相手を突こうとした。ただそれもまた背中に乗る戦士によって防がれてしまう。
行き違った所で浮力を失い、弧を描きながらレヴェリーは墜落していく。体勢を立て直すことなく頭から地面へと。
その時には既に事切れていたのかもしれなかった。
一部始終を見届けた俺は、空に浮かぶ魔術師を睨むように見上げる。そして彼女もまた巨大な防御陣を張った魔力を追って、俺の位置を特定しただろう。
「エトランゼ様、早く逃げてください」
「今更何を言うのかしら。この地を守ると約束したはずではなくて?」
「オークからなら守れますが、アレは予想外です」
「ふむ、何やら知り合いのようですわね。確かに並ならぬ魔力を持ってはいるのかしら」
「この半年でどれだけ化けてるかもわかりません」
「で、貴方はどうするのかしら?」
「アレの狙いは俺である可能性が高いです。殺しに来たか、下僕にしに来たかは分かりませんが、エトランゼ様を狙うことはないでしょう」
「因縁浅からぬようですわね……ならば尚の事、1人で逃げるわけにはいきませんわ」
「なっ!?」
「これ以上、仲間を失うのを見過ごすわけにはいきませんわ」
初めてあった頃は、自らの下に集う者達をどこか覚めた目で、所有物のように見ている節のあったエトランゼ様。
しかし、俺が農業を始めてから好奇心からかついて回るようになっていた。そして自然と他の魔物達とも一緒に過ごす時間が増えていく。それが彼女の“仲間”意識を目覚めさせたのなら、俺としては嬉しいのだけど、逆に今はそれが災いになる。
「まだ中央や右翼砦には仲間が残っています。エトランゼ様さえ無事ならやり直せます」
「それでは意味がありませんの。貴方は私を侮り過ぎていませんかしら。あの程度の小物など、私が倒して見せますわ」
「あら、言ってくれるじゃない。その駄ペット、返してもらいましょうか」
エトランゼ様と押し問答している間に、彼女が空から降りてきてしまった。




