農業による国興し
エトランゼ様の居城は大海にせり出す半島にある。砂浜はなく、断崖絶壁。僻地ではあるが、その分、背後を気にせず守りやすい土地だ。
城からなだらかな坂を下っていくと、防衛に使った2つの岩山とその脇を抜ける道がある。
農業を興すにあたって、まずは半島の緩やかな下り坂の部分に畑を作ることにした。面積としてはそれほど広くはないが、試験的に作物を育てるには十分だ。
坂にはほとんど植物は無く、土も固くて、とてもそのまま畑にはできそうにない。まずは土壌づくりから始めなければならなかった。
この世界は魔素が濃く、それ自体が肥やしの代わりにもなってくれるようだが、それでもやはり植物は根を張り、土から養分を吸い上げるのか妥当だろう。
幸いにして人狼の持ち込んだ糧食が肥料の一部として使えそうだ。宴に使われた残りと切れ端などのゴミを集めて、有機肥料として寝かしておく。
発酵するまでの時間で土地を耕していくことにする。といって農業の概念もない世界。農具の一つもありはしない。農機具を作るにもそれなりの設備が必要だ。木製だとどうしても痛みやすく、固い地盤に歯が立たない可能性も高かった。
それを解消したのは、現地の魔物だ。元々魔物は人間よりも力が強い。畑にする地にある大きな石などを退けていくのに、牛や馬を使う必要も無く、オーガやオークといった怪力の魔物が手伝ってくれた。
そんな彼らでも固い地面を爪で掘るとなると、無理がある。そこで目をつけたのは、ジャイアントモール。巨大な1mほどのモグラは、固い地盤でも容易に掘り進んでくれる。
農作業をする上で作物を食い荒らし、土地に穴を開けて邪魔をする厄介者のジャイアントモール。それが農作業を手伝ってくれるという状況に、農村で育った俺は少し複雑な心境だ。
ジャイアントモールはそこまで知能は高くなく、動物とさほど変わらない。会話は成立しないのだが、そこは同じように洞窟や炭鉱に住み着くコボルトが、飼いならしていて、上手く使ってくれた。
そうした魔物達の協力もあって思った以上に早く、土壌を整えることができた。
次に問題となるのは種だ。育てたい作物の種を入手する方法がない。これは野生種から採ってくるしかなかった。
半島部分には大した植物は育っておらず、食用に向くものは無い。少し遠出をして種を探す事になった。
そこで役に立ったのはオークだ。元々食欲旺盛な彼らの嗅覚は土に埋もれた芋などを的確に探し当ててくれた。その場で食べたがっていたが、増やすからという説得に何とか同意を得ることができた。これで栽培に失敗したらと思うと肝が冷えるな。
魔素の濃い地域での栽培は、思った以上に発育に影響を与えていた。質が良いとは言えない種芋、土壌なのに、俺の想定よりも3倍以上の速度で育成が進み、ひと月ほどで最初の収穫を迎えた。
更にその実の大きさも通常よりも大きい。オークとの約束を果たす事ができたと胸をなでおろす。
そして最初の収穫が思った以上の成果をあげたことで、周囲の魔物達の労働意欲も大きく上がった。試験的に開いた畑は、どんどんと拡張が進み、半島を埋め尽くす程に。
できた作物により、食料事情も改善されて、ほとんど魔素のみで命を繋いでいた魔物達の肉付きも良くなっていく。
それによって集団としての戦力も充実していく事になった。
半年もする頃には俺が流れ着いた頃のどこかくたびれた雰囲気はなくなり、皆が汗水流して働く理想的な環境に変化していた。
それと共に種族を隔てた交流はますます進み、役割を分担しての各方面の技術進歩も促していく。
ゴブリンの鍛冶師は、精度ではドワーフには劣るものの、しっかりとした作業で農機具を生産できるようになり、農業の効率を上げてくれた。
オーク、オーガの怪力で建築も進められ、ジャイアントボアやチャージブルといった大型の獣型魔物を使った流通が行われるようになり、農地の広がりを助けてくれている。
人狼を返り討ちにした三叉路を超えて農地を増やしつつ、簡易ながら砦の建設も行われ、防衛力も充実していく。
異世界の知識にあるRTSと呼ばれるゲームの知識を活かしつつ、国力の増進を行っていった。
そうした躍進は当然、他の種族、勢力を刺激することにつながっていく。
豊かな土地と、美しいエトランゼ様を求めて、オークの軍勢が宣戦布告してくる事態となった。




