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魔法の勉強

 いよいよ魔法の授業が始まった。領主が用意した館に、男子10人、女子7人で授業を受ける。

 講師は騎士団の隊長らしく、かなり厳ついおっさんだ。

 授業自体も大雑把。習うより慣れろの精神で、呪文を暗記して発動を試すといったもの。


 この世界の魔法は、呪文の詠唱とイメージ、そして魔力で決まる。色々な呪文を唱えて自分に合った系統の魔法を見つけることから始まるらしい。

 得意な系統というのは、イメージしやすさが影響してくるようで、馬を走らせるのが得意な者は風の魔法。料理が得意なものは火の魔法。畑を耕す者は土の魔法といった具合だ。


 そんな中で俺はというと特色が出なかった。もう一人の記憶が持っている『科学』の知識が、それぞれの属性に必要な情報を具体的にイメージするのに役立ったのだ。

 ただ魔力が低いために教師陣には、特色がでるほど魔法が使えないと思われたようだが。


 得意な魔法が決まると、後は本当に反復練習だ。いかに間違えずにしっかりと呪文を唱えられるか。局面に応じた魔法を使えるか。

 数をこなして身体で覚える。それが騎士団隊長の経験から来る教育法だった。


 俺としてはもう一人の記憶もあって、もっと理論的な勉強がしたい。イメージが魔力を練るのに直結するように、呪文もまた詳しく知ることで魔法の精度に関わる気がしたのだ。

 その上、俺は魔力量が少なくて何発か魔法を発動させたら魔力が尽きる。

 他の生徒が反復練習をする中、ただただ暗唱を繰り返すのに飽きたのだ。


 本で勉強したい旨を教師に伝えると、鼻で笑われた後だが館の書庫の場所を教えてはくれた。


「魔法は使えば使うほど身に付く。それから逃げる者は好きにしろ」


 それが隊長の方針だったのだ。

 ただその考えは俺にとってはありがたい。他の生徒が練習する間、書庫へとやってくる事ができた。




「何者じゃ?」


 司書を務める初老の男が、書庫に入ってきた俺の姿を見咎める。魔法についての知識が欲しいことを伝えると、その老人は柔和な笑みを浮かべて頷いた。


「最近は座学を軽んじる者が多いが良い心がけじゃ。何でも質問するが良いぞ」


 いかにも文系の老教師と言った雰囲気で、体育会系の訓練を抜け出してきた俺の勉強を、快く手伝ってくれた。

 書庫は領主の館だけあって、かなりの蔵書を誇っていた。それを1から必要な本を探していては、膨大な時間がかかる。そこを司書の老人が案内してくれた。

 そのお陰で知りたい知識へとショートカットできる。



 まずは魔法の基礎知識だ。

 魔法というのは大きく分けて4元素の地水火風。それに光と闇を加えた6つの属性と、身体強化などの付与魔術とに分けられていた。

 属性魔法にはそれぞれに精霊が守護していて、それらから力を借りているという事らしい。

 ただ俺が魔法を使った感じだと、精霊と交信している気はしない。あくまで呪文とイメージが大事な気がした。

 あるいは精霊というものをイメージした方が、この世界の者にとっては魔法を使いやすいのかもしれない。



 次に呪文をひたすらに眺める。魔法を発動するのに必要な呪文。それらを眺めるうちにふと気づく事があった。

 それはこの世界の言葉で書かれているはずなのに、頭の中ではもう一人の記憶が持つ日本語や英語に翻訳されて見える事だ。

 特に呪文部分は日本語で、発動部分は英語といった感じで統一されている。これは何か意味がありそうだ。


 呪文に使われる言葉を並べて意味と言い回しを分類していく。するとプログラマーとしての経験に引っかかる物が出始めた。

 プログラムというのは、言語によって機械を動かす技術。そこには明確なルールがあって、方法を間違えると上手く動かない。

 逆に迂遠な計算をするくらいなら、具体的な数値を当てはめた方がスムーズに動く場合もある。

 そうした厳格なルールとショートカット、呪文の言葉選びと言い回し。それらに共通するナニかがありそうだと予測できた。


 それからは騎士団隊長の訓練を早々に切り上げて、書庫へと通う日々が始まる。

 他の生徒の練習が終われば、掃除や洗濯といった雑事が押し付けられるので、魔術書から写した呪文を脳裏で分解しながら作業に没頭する。

 意外と他の用事をしている時に、アイデアが進む事があるのをもう一人の記憶が知っていた。




「それは何をしておるんじゃ?」

「呪文の言葉を分類しているんです」


 頭ごなしにこちらを見下す貴族や騎士達と違い、書庫の司書は俺を対等の魔術師として迎え入れてくれていた。

 それに対して俺も年長者への敬意を持って接するようになっている。


「しかし、ゴッカン、キョクゲン、キワメシ、タイキョクとは、何の分類じゃ?」

「同じ字が使われているでしょう?」

「むむ……全く違う文字ではないかな」

「え?」


 そう指摘されて気づいたのは、この世界でそれなりの魔法学を身につけた者でも、呪文を漢字では認識していない事だった。

 極めしなどの訓読みはまだしも、極寒、極限、対極といった音読みの言葉は、全く別の言葉として認識しているらしい。

 呪文を編み出した者から、意味が抜け落ちて伝わっている呪文が思ったよりも多いようだ。



 では意味から呪文を分解してみたらと考え、次のステップ。呪文を音読みにして、圧縮する方法を試してみた。


「土の壁よ、形を成せ。土壁ストーンウォール

土塀どべい、形成。土壁ストーンウォール


 この詠唱が成功し、かなり呪文が短くする事ができるとわかった。

 他にも『氷の塊』を『氷塊ひょうかい』と読み替えたり、『水の雫』を『水滴』としたりする事で短縮できる詠唱を見つけた。



「ふむ……古代の言葉の意味をすんなり理解するとは。魔法学に新たな風を吹き込んでくれそうじゃ」

「昔、旅の商人から買ったという難しい本で暇つぶししてたから……」


 多少の嘘を混ぜつつも、司書の爺様との魔法の研究は楽しかった。

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