生徒用の宿舎
埃まみれの倉庫を何とか片付けて、古い天幕を使った簡易ベッドへと寝転がる。
掃除をしている間に見つけた先住者のテキストをパラパラとめくり、魔力の基礎知識を仕入れていく。
そして改めて自分の名前が書かれた身分証を取り出して確認すると、魔力の欄に3と記されていた。俺がここにいる意味であり、俺の立場を示す数値でもある。
この世界において魔力を持つ者は人口の1%ほど。その殆どは貴族や騎士といった支配階級となる。
これは魔力を持つものと、持たないもので戦闘能力が格段に違うからだ。
魔力を使って身体能力を高めた騎士は、一騎当千の働きをし、高い魔力を持つ貴族の魔法は、地形をも変えるほどの威力を誇った。
元来は魔物などの外敵から人々を守る立場で、その庇護下に入るものをまとめる事で支配層となっていく。
やがて時代が進み、それらの支配者層が貴族として敬われるようになっていった。
軍事力=魔力というのが、この世界の理と言える。
そしてこの魔力は遺伝により継承された。魔力を持つもの同士ならかなりの確率で、子供も魔力を得て、片方が魔力を持たないと魔力を得る可能性は半分以下。
魔力を持たぬ者同士であれば、魔力を得る可能性は万に一人といった割合だ。
さらにその魔力の強さは、より代を重ねた者の方が高くなる傾向があり、高い魔力を持つ者は上級貴族へと名を連ねる事になる。
つまりは農家に生まれた俺は、魔力こそ認められたものの、その力は弱く、農民から見れば殿上人と言っても、貴族からしたら最底辺というのが現状だ。
魔力自体は個人の努力によっても多少の向上は見られる。少しでも上に上がるには、己の魔力を磨くしかなかった。
さて、そこで俺の魔力は3という数値で表されている。50未満はEランク、100未満でD、200未満でC、500未満でB、1000未満でAランクと大まかに分類されている。
その上のSランク以上は、皇族といった長く魔力を濃縮してきた血筋にのみ顕現すると言われていて、その数は極めて稀。現在知られているSランクの魔力保有者は、現皇帝ブリードリヒ四世陛下一人である。
魔力3というのは、最低ランクのEの中でも、更に最低の部類。城門の衞士が帰れと言ったのも頷けなくもない。
それでも農民よりも強く、皆を守る事ができるなら、魔法を覚えてから凱旋帰郷しようと決意していた。
俺が領主の館の倉庫に入居してから数日が過ぎる。すると同じ建物に入居する生徒たちが徐々に増えていた。
しっかりと仕立てられた服を着る彼らは騎士や貴族の子供だろう。ここは男子寮のようなもので、同年代の男の子が集まっている。
もちろん、それらの生徒たちは部屋を与えられて、それなりに快適に過ごしていた。
その廊下の端、倉庫と思われた小部屋から廊下へと出てきた俺は、すぐに目を付けられる。
「なんだ? 下働きの下男か?」
「俺も魔力を認められた生徒だ」
「はっ、農民上がりなんぞ、下男だろうが」
「なんだと!?」
周りは貴族だらけ。農民から魔力を認められて入学を許されるのは何年かに1人いるかどうか。埃にまみれた倉庫がそれを物語っていた。
ということは周りに味方はいない。安易に侮られては今後の生活に支障をきたす。
倉庫に押し込められている時点で軽んじられているのだ、これ以上立場を落としてはいけない。
「おいおい、農民。今なら部屋の掃除くらいで勘弁してやるぞ。大人しく言うことを聞いておけ」
「馬鹿にするなっ」
俺は村の期待を背負って来ている。舐められる訳にはいかなかった。
「ホント、弱いんだから、いきがんなよ」
「げふっごふっ」
「じゃぁ、とりあえず掃除しとけよ。後は洗濯と食事の準備な」
魔力の強さは戦闘力。貴族の子供たちは、身体能力を魔力で引き上げて戦うことができる。
こちらが殴れば、殴った拳の方が痛み、相手の一撃は俺を壁へと叩きつける。大人と子供以上の力の差。一瞬にしてボコボコにされて転がされていた。
「く……そ……」
思えば幼い頃から農作業を手伝えたのは、多少なりと魔力があって身体能力が引き上げられていた結果らしい。
そしてこの宿舎での俺は最低の魔力しか持っていない。最底辺を這うことが実感させられた瞬間だった。
あれから本格的に授業が始まる1週間のうちに、宿舎での雑務は俺に押し付けるのが当たり前になっていた。
最底辺を脱するには魔力を上げるしか無いが、貴族や騎士の子供達は最低でもDランク。俺がその域に這い上がるのにどれだけの時間が必要かはわからなかった。




