3階での戦闘
翌日、昼食からの散歩というノルマをこなし、ダンジョンの3階を目指す。
1階、2階共に入口からほど近い所に下への階段があるので、3階に降りるのには入口から5分も掛かっていない。
「ここが3階か……」
3階からがダンジョンの本番と言われる。その1つ目の理由は造りだ。
1階、2階は、鉱山を思わせる土壁で、どこでもつるはしで掘れそうな造りだった。
しかし、3階への階段を降りると石造りの迷宮へと姿を変える。青白い光を放つ不思議な苔が所々に生えていて、それなりの明るさがあり、壁はおろか床も石が敷き詰められている。
ややヒンヤリとして少し湿っぽい空気は、地下水が流れ込んでいるのだろうか。
「いよいよって感じだな」
俺はブーツの紐を確認し、ベルト、ナタ、手袋に胸当てと、装備品を一通り確認する。ここからは常に臨戦態勢で。
カガミが3階をきっかけにパーティを解散したのには、3階から難易度が大きく変わるという理由もあった。
強さを増した魔物だけでなく、様々な罠も追加されていく。魔術師である帝魔生徒にとって、不意をついてくる罠は、対処を間違うとかなり痛い目に遭う。細心の注意が必要だった。
俺は木の板に貼り付けた方眼紙を取り出し、左手に持つとマッピングを開始。
石造りで方形なダンジョンは、マップを描くのは楽に感じる。先を尖らせた木炭で、コシコシと線を引きながら奥へと歩き始めた。
3階に出てくる魔物は、リザードマンにオオトカゲだ。リザードマンは立ち上がったトカゲで鱗に覆われた身体に、意外と器用な手で槍を振るってくる。
オオトカゲは外見こそイグアナに近いが獰猛な肉食で、自分より大きな家畜を食い荒らす。ワニほど大きな口は持っていないが、鋭い牙に強い顎の力は人の骨でも容易に噛み砕く。
「魔力で強化されてなければ、相手にしたくない魔物だよな」
全身の鱗は革鎧よりも硬く、魔力を持たない人間では傷つける事すら難しい。
「氷縛陣」
魔法陣を消費して魔法を唱える。リザードマンとオオトカゲ1匹ずつのコンビを纏めて、氷によって足止めにした。
爬虫類などの変温動物は、冷やすと動けなくなると思われがちだが、実際はそこまで動けなくなるわけではない。
筋肉が動くと熱を発するため、戦闘態勢に入っていると特に動けなくなる事はなかった。
ただそれでも手足が氷で物理的に止められると、かじかんで鈍くはなる。
「てりゃっ」
そこへナタで斬りかかる。まずは直立するリザードマンへ。相手も槍を掲げて受け止めにくるが、1mちょいの短槍で、柄の部分は木。ナタを受け止めるには、少しやわかったようだ。3度ほどナタを叩きつけた所で2つに斬れ、そのままナタの刃がリザードマンへと届く。
「ギシャア!」
血が吹き出しながらも、一撃では倒れず、2つになった槍を両手で振り回しはじめる。俺はととっと距離を取ると、魔法を唱えた。
「血の巡りを阻害せし闇の力よ。彼の者のうちに潜みて牙となせ。蛇の毒牙」
出血を遡り血液へと毒を流し込む。即死はしないが、徐々に体力を奪っていくだろう。
その間に、氷による拘束を脱したオオトカゲが迫ってきていた。全長2mはあるトカゲが、威嚇するように口を開けて迫ってくるのは、なかなかに迫力がある。
「大気に隠れし氷の精よ、塊となりて敵を穿て。氷の弾丸」
その開いた口目掛けて氷の塊を撃ち込む。んがんんっと口を閉じて少し仰け反るオオトカゲ。しかし、俺の魔力じゃそこまでの威力もない。すぐにこちらへと突進してくる。動くと冷気による多少の強ばりも解けたのか、一気に加速。そのまま頭突きをされそうになった。
革のバックラーで直撃は避けるが、俺の身体は大きく押される。2歩、3歩と下がりながらバランスを立て直し、転倒は免れるが、すぐにオオトカゲが迫ってくる。
「くそっ、氷槍」
迫りくるオオトカゲにとっておきの中級魔法を使ってしまう。これで終わらなければ、魔力が枯渇した状況で戦わなければならない。そうなると、魔力による身体強化も弱まってくるのでジリ貧だ。
しかし、そこまでの事態に陥る事無く、氷槍に貫かれたオオトカゲはそこで動きを止めて、黒い霧となって消えてくれた。
「まずいなぁ……初戦でいきなり魔力が尽きるか」
リザードマンは毒が回ってそのまま倒れたらしい。オオトカゲを倒してそちらを見ると、魔石が転がっていた。
「しかも魔石はまだ微サイズとか……」
階段近くの敵という事で、まだ魔素をそれほど蓄えてなかったらしい。個体として強いので、1階の敵に比べると一回り大きいが、まだまだクズ石の領域を出る大きさではない。
魔力が尽きても、数分ほど安静にしていたら魔力は回復していく。しかし、1戦ごとに休憩を挟んでいては稼ぐというには程遠い。
「蓄えがあるうちに効率的な戦い方を見つけなきゃな」
階段側の安全地帯で休憩を取り、魔力を回復させてから探索を継続する。
「戦闘しないなら楽なんだがなぁ」
補助魔法にあった気配を消したり、姿を隠す魔法を駆使すれば、リザードマン達の知覚をすり抜けて進むことは可能だった。しかし、それではこの先で戦闘していく事は叶わない。知識も増えない。そして何より稼げない。
まだ多少の蓄えはあるが、借金を背負う身でもあるので、稼げないと未来はない。
金貨1枚ではなく、ミノタウロスの肉を入手するにも戦闘力は必要だ。
「その為に必要なのは魔力かぁ……お?」
学生証代わりの名札を見ると、魔力が5から6に上がっていた。3階で戦闘してきた事が、成長に繋がったか。
これをわずか1の上昇と見るか、2割の成長と見るか……ここは前向きにやれる事が増えると見るべきだろう。
魔法陣のおかげで人よりも効率的に魔力を使えるので、2割の成長はそれなりのボトムアップになるはずだ。
その日の稼ぎは銅貨で10枚と散々だったが、立ち止まる事無く進むしか無かった。




