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上級生からの申し出

「改めて名乗ろう、俺はアレックス・フォン・ロンダー男爵。D級魔術師の3年だ」

「俺……私は、カニエ村のレント。E級魔術師」

「それはもちろん、知っているよ」

「3年……だったんですね」

「ああ、この時期に決闘を申し込むのはマナー違反だと思ったが、ちゃんと確認しておきたくてね」


 アレックスは爽やかな笑みを浮かべる。いかにも体育会系といった雰囲気で、スポーツマンといったところだ。体つきは逞しく、短く刈り込んだ茶色の髪、日に焼けた肌をしている。

 ダンジョンに潜ってては焼けないから、日頃から鍛錬しているって事だろう。


「確認……ですか?」

「ああ。C級を返り討ちにした話は上級生にも伝わっている。まあ、大半は喧嘩慣れしてないボンボンが負けただけだろうと、歯牙にも掛けていないがね」

「はぁ」

「でも戦ってみてわかったよ。君は才能がある。もちろん、魔力ではなくね。戦う事を知っているというべきか……」


 この世界の人間は、その魔力、魔法によって、自分より強い者と戦う経験が少ない。実力差のありすぎる決闘は成立しないし、魔物と生死を掛けるような戦い方もしない。

 その為、俺のように身を守るためには工夫するしかない人間というのは、あまり出てこないのだ。



「俺達は今、13階を探索しているところなんだが、少し行き詰まっていてね。新たな戦力を求めている。君のように戦い方を知っている後輩には、期待しているんだよ」

「でも俺……私は、魔力が低いですし」

「その分、戦い方に工夫していて、精度も高いだろう? 流石に今すぐは無理だが、半年もすれば連れていけると思う」

「だ、ダンジョンの深層へですか?」

「ああ。無理にとは言わないが、君のように魔力の低い者は実績がないと将来が辛いだろう。少し深い階層で経験を積むことで、君はもっと伸びる事ができるだろう」

「は、はぁ……」


 彼はD級、そして貴族。つまりは、カガミと同じく下降線にある家の出だ。自らの、家の将来の為には、多少無理をしてでも実績を重ねる必要がある。

 そして俺は最低限の魔力しか持たない庶民。その魔力量で爵位が決まるような世界では、少しでも魔力をあげる努力が必要だ。

 魔素の濃度が高い深層での探索は、パワーレベリングのようなものか。それで魔力が伸びるならありがたいが、アレックスの狙いは何なのだろう。


「君は全体を見る目と、咄嗟の判断力を持っているようだ。それは俺達のパーティに欲しい戦力なのだよ。いわば司令塔だね」

「そんなっ、1年の俺にそんな事、無理、ですよ」


 経験も魔力の低い俺に指揮を任せようというのか。その真意がよくわからない。


「ま、すぐにどうこうという話でもない。半年ほどダンジョンに潜っていれば、俺の言いたいことも分かってくるだろう。その時を楽しみにしている」


 彼はニカッと白い歯を見せて笑うと、約束の銀貨を渡してくれた。


「それではまた会おう」

「は、はい」


 上級生からのスカウトに戸惑いつつも、深層に潜って戦えるのはありがたいとも思う。

 ただ現状では死にに行くようなもの。魔力が低く、身体強化が弱い俺は、魔物が放つ攻撃の余波でも簡単に死ねそうだ。


「防御を重点的に鍛えるか……」


 それは今までと変わらないなと思いながらダンジョンへと向かった。




 1階で探索を行うと、今までカガミが索敵、撃退をしてくれていたありがたさをすぐに実感した。

 つるはしで音を立てると、どうしても敵が寄ってくる。ナイトビジョンで視覚を強化しても、洞窟内は死角も多い。どうしたって音が頼りになるが、自分で音を立ててるので判断するには動作を止めざるを得ない。

 3回掘って耳を澄まし、気配がなければまた掘って……という繰り返しで、掘るスピードが3分の1ぐらいに落ちてしまう。

 そして掘れる魔石も微サイズで、更に稼ぎは減ってしまっていた。


「アレックスから銀貨をもらっていて良かったが、このままでは稼げないな」


 1階から2階に降りても結果は変わらない。敵が強い分、更に掘るのが難しくなる。魔石のサイズも微サイズばかり。



「本気で3階に降りる決心をしないと駄目か」


 アレックスに認められるには、より戦闘の経験を積むことが求められるのだろう。採掘で稼ぐよりも、敵を倒して魔石を集める方にシフトする方が良さそうだ。

 しかし、ソロになった俺は無茶もできない。しばらくは2階で戦闘を組み立て直す必要があるだろう。


 図書館で仕入れた新しい魔法陣や、補助の強化魔法。短縮詠唱にナタの使い方。それらを使って、ソロで戦うシステムを組み上げていく。


 結局、その日の稼ぎは銅貨で15枚ほどとかなり少ない。その代わりに3階に降りるために戦闘力をあげる研究はできた。

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