自分の道と明日への備え
「自分の道か」
カガミの手紙にあった言葉が思い浮かぶ。俺が目指す道。それは魔力を得たことで農家よりもいい給金を貰って、メリイを迎えることが。
何にも分かってなかった時は、帝魔で就職とか考えていたけど、魔力を得たばかりで貴族にもなれない俺には、その道は無かった。
あるのは主に軍役だ。
街中の衞士だったり、農村を襲う魔物を倒す仕事だ。
一応、隣国との戦争も可能性としてはゼロではないが、帝国の大きさから仕掛けてくる国はないだろう。
それに戦争は魔物を呼ぶ。多くの死が撒き散らされる戦争には、死肉を漁る屍肉喰いや死霊といった魔物が集まり、互いの国に甚大なる被害をもたらすのだ。
その為にこの世界では人間同士の戦争というのは、まず起こらない。
「どうせだったらカニエ村を守れる衞士になりたいが……」
そうなると上司となるのは、領主の館で俺をいじめていた領主の息子のシェスターノになるだろう。
さすがに大人になってまでいじめは無いだろうが、過酷な任務を押し付けられる可能性はある。
「広域巡回士が理想か」
地方領主の軍が、農村に襲撃してくる敵の迎撃が任務とすれば、広域巡回士は帝国直属の偵察兵だ。
国内を回って魔物襲撃の気配がないかを調査して回る。旅から旅の任務は定住を望めないが、定期的に村に戻ることはできる。
上司は帝国なので、地方領主からのちょっかいを受けることもない。
ただ危険を伴う任務だし、求められる能力は高い。
「まずは帝魔で認められる事かな」
先日はC級生徒を退ける事ができたが、彼らはあまりにも戦いを知らなかった。こちらが何をできるかも知らず、闇雲に突っ込んでくるだけ。
『敵を知り、己を知れば百戦危うからず』の教えの通り、まずは敵を知る事が大事なのだ。
広域巡回士にとっての敵は魔物。その敵を知るためには、ダンジョンを攻略するのが求められる。
少なくとも10階には到達しないと、巡回士になる資格は得られない。
ミノタウロスの肉の件もあるし、当面の目標はダンジョン10階だな。
俺はそれを確認して、今後に向けた準備をする事にした。
「遅いよ、何をしてたんだい」
図書館へ行くと、司書の青年に問い詰められた。俺に言われて資料を探していたのに、全くやって来ないのでかなり待っていたようだ。
「すいません、借金返済に追われてたんで」
「そうか、E級だと最初が大変そうだね」
まあ返す借金はカガミのだったけどな。俺のは半ば強制イベントで返済不可な部類だし。
「何とか片付いたんで、魔法陣について調べに来ました」
「うん、資料は揃えてあるよ」
図書室にある個室に資料が運び込まれていた。勝手に占有していいのかと思ったが、利用者がすくないのでガラガラなんだそうだ。
「タトゥーかぁ」
魔法陣で俺が一番気にしているのは、複数回使用できる方法だった。紙に書いた魔法陣だと1回しか使えないので、前もっての準備が必須で、種が切れると自前の魔法を使うしか無い。
魔法陣だと消費する魔力も少ないので、少ない魔力量しかない俺にとっては、そっちの節約も大事だった。
魔法陣に魔力を流すと、回路の役割をする線が焼き切れてしまうので、1回しか使えないのだが、タトゥーとして身体に刻んでしまえば、焼き切れる事はないらしい。
短時間で何度も使うと火傷のような症状になるらしいが……。
「ただタトゥーだと、一度刻んでしまうと変更できないよなぁ」
「そうだね。しかも平らな部分が少ないから、描ける魔法陣も限られる。更に言うと間違ったら修正がきかない」
それが最も怖いな。折角描いていっても、どこかにミスがあると魔法は発動しないし、やり直す事もできない。
「高位の蘇生魔法なら、タトゥーを消すこともできるらしいけどね」
「貧乏学生には厳しいなぁ」
それに発動する魔法の幅で耐えている面も多いので、タトゥーを刻んでそれを優先させようとすると、バランスが崩れるかもしれない。
「まだしばらくは今のままで、幅を広げる事をメインに勉強します」
「なるほどね」
司書の青年が用意してくれた魔導書を確認して、使える魔法陣を新たに覚えていく。同じ効果の物を並べて共通項をさがしたり、簡素化できそうな場所を考えたり、やる事は多かった。
「そういえば、召喚魔法って知ってますか?」
「召喚? 何ですかそれは」
「魔力を糧に、精霊などを使役する魔法です」
「魔獣を操るタイプとは違うのかい?」
「そうですね、操ると言うよりは魔法の延長のようなもので……」
カガミが使うカマイタチについて、その概念を伝えた所、青年の記憶には無いそうだ。
カガミの才能はかなり稀有らしい。
「常時魔法を発動している感じで、細かく指示を出せる……それは凄い魔法だと思うよ」
「俺では真似ができないんですよ。根本的に魔力が足りないみたいで」
カガミ自身は意識していないが、常に魔力を消費しているらしい。その為か、この1週間でカガミの魔力は52から57まで上がっていた。
俺はカマイタチよりも小さな動物でも出せないかと、色々と試したがネズミ1匹出すことはできていない。
「ふうむ、私も少し試してはみるが、かなり特殊な部類だと思うから、才能が必要かもしれないね」
魔法を扱うには、魔力量とは別に才能の有無もある。大きな所でいうなら、身体強化しか使えない者達もある種の才能とされる。
アイラのような異種族にその傾向が強いようだ。エルフなどだと、炎系の魔法はからきしだが風の魔法が強かったり、植物操作に優れていたりするらしい。
カガミの場合も、イメージを具現化する才能に恵まれているのかもしれなかった。
それが認められたらD級であっても重宝されるかもしれない。それ以前に、独力でC級へ上がれるかもしれないが。
新たな魔法陣の知識を整理した俺は、図書館を後にする。俺も自分の将来に向けて、本格的にダンジョン攻略に挑む決心を固めていた。
馴染みとなりつつある中古ショップで、革の丸盾バックラーを購入する。左腕に括り付け、さらに左手の所にもグリップがあり固定する。
直径40cmほどの小さな物だが、相手の攻撃を打ち払うようにして使えた。
その後、アパート近くの空き地で戦闘訓練を行う。領主の館では木の棒を振るう程度だったが、今では自分の装備がある。
これで戦う所を想定しながら素振りを行った。
ナタというのは武器ではない。枝を打ち払ったり、薪を割ったりと静止物を叩き切る、叩き割るような道具だ。
その為に重心はやや先端部に寄っていて、振り下ろすには向いているが、水平に振るったり、途中で軌道を変えたりというのには向いていない。
どちらかと言うと斧に近い動きになる。
まずは愚直に上から下へと振り下ろす動きを練習した。振り下ろすより、振り上げる方が疲れるが、それだとダメだ。
あくまで攻撃する時は上から下、振り下ろす時に力を込めなければならない。
それを意識に置いて、何度も何度も素振りを行い、明日からのダンジョン攻略に備えた。




