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魔物との初バトル

 最初は同じように採掘に励む学生かと思ったが、すぐに違うと気づいた。

 やや小柄な身長に2つの尖った耳が頭上に。全身を毛に覆われていて、前にせり出した鼻。低い唸り声を発しながら、犬歯をむき出しにこちらを睨むソレは、明らかに魔物だ。


 直立する犬のような獣人コボルト。もう一人の記憶にあるゲームではザコとして、初心者の糧になる存在だ。そしてこの世界でもその認識は同じだった。

 最下級の魔物として第一階層に現れるポピュラーな魔物だ。


 しかし、農民にとっては厄介な魔物でもある。畑を荒らし作物を奪っていく被害の他、その土壌を汚染して不作な土地へと変えてしまう。

 また繁殖力が旺盛で、村に現れる時は数で攻めてくる。

 小柄ながらに成人男性に負けぬ力を持ち、それなりに俊敏。野生の動物にはない知恵を持ち、武器を構えた農民には投石で攻撃するなど、単純に駆除する事もできない。


 コボルトの姿を見かけた時に対処するのは魔力を持つ者、貴族や騎士の仕事だ。

 一般庶民の数倍の力を持ち、魔法による攻撃は、遠距離からその戦力を削ぐ。探知魔法で隠れた魔物を見つけ、巣穴ごと滅する。

 そうやって魔物から農村を守る力を持つからこそ、貴族は支配者層として、農村から税を集める事ができるのだ。



 魔力が最低ランクの俺でも、コボルトが一匹なら遅れを取ることはない。


「焔矢よ、敵を貫け。ファイアアロー


 一度しか使えない魔法陣は温存して、短い詠唱の呪文で魔法を放つ。俺の右手から放たれた炎で形どられた矢が、狙い通りにコボルトへと突き刺さる。

 毛が焦げる臭いを撒き散らしながら、コボルトが向かってくる。コボルトの基本的な攻撃は爪や牙、素早いがリーチは短い。

 俺はつるはしを手にそれを迎え討つ。コボルトはダンジョンの壁を蹴るようにして、立体的に襲ってくる。

 数多の魔法をぶつけられ、動体視力を鍛えられた俺は、その動きを正確に捉えていた。


「おらっ」


 左上方から噛み付こうと飛びかかるコボルトの顎を、つるはしで下からかち上げる。魔力で強化された筋力は、多少バランスの悪いつるはしでもそれなりに振るう事を許容する。

 的確に喉元を捉え、引っ掛けて振り回すように地面へと叩きつけた。


「ギャウンッ!」


 一声鳴いてコボルトの輪郭がぼやけて、コロンと魔石が転がり落ちる。

 ダンジョンの魔物は魔石を核にした幻影のような物らしい。倒すとその強さに応じた魔石を残して肉体は消失する。

 その他に素材となるアイテムは残るので、もう一人の記憶のゲームにかなり近い。この自然の摂理とは違うシステムから、神々が試練の為に作った地下迷宮だとの説が流れているのだ。


「ふむ、やっぱりコボルトじゃ魔石は小さいな」


 つるはしで掘るのと変わらぬサイズの石に、戦闘する危険を考えたら採掘で稼ぐほうが効率的だと判断する。

 その後もダンジョンを巡り、小さな魔石を掘り集めていった。




「お帰りなさい」

「これ返却です。あと魔石の買い取りをお願いします」

「はいよ」


 借りていた採掘セットを返し、集めておいた魔石を渡す。袋の中身を確認した係の人は、袋を秤に開けてその重量を測る。


「銅貨20枚ってとこだね。いいかい?」

「はい、それでお願いします」


 4時間ほど掘って20枚。食事代程度はでるが、貯金を増やすと言うには程遠い。やはり稼ごうと思ったら、もっと下層へと潜らなければならないだろう。


「まあ、装備を整えてからか」


 戦闘をするにも防具も無く、つるはしやシャベルで戦っているようでは、倒せる敵は限られてくる。

 最低限の防具と武器を揃えてからだな。幸いにして帝魔では、先人の使わなくなった武具が中古で出回る事も多いのだ。


「まだしばらくは魔石掘りだな」




 家へと帰る途中、アパート側にある大衆食堂に寄って晩御飯を食べる事にした。やはりそれなりに労働するとお腹が減るのだ。


「いらっしゃい」


 カウンター越しに給仕のおばちゃんが、明るい声で迎えてくれた。


「定食で」

「あいよっ」


 銅貨5枚で出してくれる格安定食。野菜タップリの塩味のスープに少し固めの黒パン。それにカリカリに焼かれたベーコンが付いている。

 キャベツに人参、玉ねぎにピーマンと具沢山のスープは、塩だけの味付けだが、野菜の旨みが染み出ていた。


(……あれ?)


 しかし、物足りなさを感じてしまう。黒く見えるライ麦のパンをスープに浸してから食べてみても、格安の割には美味しいと感じていた定食が、どこか物足りなく感じてしまっていた。

 カリカリに焼かれたベーコンをアクセントに囓って口を整えようとするが、塩味だけが強くて肉の旨味が感じられない。


(どうしたんだ俺は……あっ)


 昼に食べた至高のハンバーグ。その絶品の旨味が口の中に残っていた。あんな贅沢品などもう食べることはないだろう。すっぱりと忘れるんだ。

 そう意識すればするほど脳裏には甘辛いソースと、ほとばしる肉汁。口内に広がる旨味が思い出され、味気ない塩スープの物足りなさが強調される。


「おばちゃん、唐揚げ追加で」

「あいよっ、大きいトコサービスしとくよ」


 追加で鶏の唐揚げを注文して、少しでも味の寂しさを緩和しようとしてしまった。銅貨3枚の追加出費だ。

 これもまたお嬢様の罠だろうか……。

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