メイドマッサージ
貧血気味に倒れた俺に、メイド服の小柄な少女、アイラが駆け寄ってきた。
寝ている時は見る余裕がなかったが、童顔で小柄な割になかなかに良い物をお持ちなようだ。
そんな彼女が心配そうに俺の身体を支えてくれた。
「身体が萎えていますから、すぐに動くのは危険ですよ」
「あ、う……」
「3日ほど寝たきりで筋肉が固まってますから、少しマッサージを施しますね」
「え、そ、そんなに……」
「お嬢様もかなり心配されてましたよ」
「そりゃ、殺人者にはなりたくないからだろ」
「ふふっ、貴方も素直じゃなさそうですね」
少し表情をほころばせながら、彼女は俺へと手を伸ばす。そして俺に巻かれていた包帯が少しずつ解かれていく。
「え、あれ、ちょっと待って!?」
可憐な少女に包帯を解かれている状況、身体を締め付けていた圧迫が解放される心地よさと共に、気恥ずかしさが強くなる。
「今更ですよ。この3日、看護してきましたから。包帯を取り替えるのも、もう何度目でしょうか」
「ひうっ」
こちらの考えたことを見透かすようにアイラは微笑み、その手を動かし続けた。そして一糸纏わぬ姿にされると、皮膚に残る火傷用の軟膏を濡らした手ぬぐいで拭いていってくれる。
そうしながら、彼女は話し始めた。
「お嬢様はあんな感じですけど、それは周りからの期待に押しつぶされない為の鎧なんです」
「え……?」
「レント様を魔法で打ちのめしたのも、貴族社会での魔力序列を明確にする『仕事』の一環。本当は心優しい方です。ご安心下さい」
「ど、どうだかな……」
他人をペットにしたがる女など信用できるか。
「ふふっ、レント様はその態度を続けて下さった方が、お嬢様も嬉しいでしょうけど」
「それってどあいうえぉっ」
全身を清め終わった彼女の指が、俺の肌へと食い込んできた。ゴリゴリと骨まで届くように激痛が走る。
「筋肉を刺激しますから、もうしばらくリラックスしていて下さい」
「でも、痛いよ、いだっだだだっ」
「は〜い、良い子ですから、少し黙りましょうか」
タオルを口へとねじ込まれ、満足に動かない身体へと少女の指が這っていく。しかし、艶っぽいことなど何もなく、小柄な体躯に似合わぬ力強さで全身をひねり、ねじり、えぐられ続けた。
少女が密着しながら、柔らかな物が押し付けられているはずなのに、痛みで全く感じられない。
地獄のような時間が続いた。
「それでは一晩、お休み下さい」
「……」
永遠と思えるような時間は、ほんの小一時間ほどだったらしい。
全身へのマッサージを終えると、深々と頭を下げて出ていく彼女。返事する事もできぬくらい憔悴しきっていた。
俺、生きていけるんだろうか……。
夜半過ぎ、身体の自由を取り戻した俺は、身体を起こして周囲を見渡す。室内というより倉庫のような小屋の中、風通しは良い感じで埃っぽさもない。ある程度掃除は行き届いているようだ。
何枚か重ねられた布の上に寝かされていた。
明かりは無いが月明かりが入ってきていて、思ったよりは物が見える。部屋の片隅には布の塊があった。まだ見慣れたとは言えない帝魔の制服。そういえばと身体をみると下着は付けられている。寝ている間に履かされたのか。
愛らしい顔立ちのメイド、アイラの顔が浮かび羞恥心に苛まれる。彼女にとっては単なる作業に過ぎないんだろうなと思う事にして脳裏から振り払う。
「うぉっ、黒焦げじゃねぇか」
元々が黒と赤のブレザーで見た目は分かりにくいが、色んな所に穴が空いていた。それでも慌てて身にまとい、納屋の出口へと迎う。
「え、開いてる?」
納屋の扉には鍵が掛けられておらず、押すとすんなりと開いた。俺がまだ起きられないと思ったのだろうか。
「何にせよチャンスだな」
まだまだ深夜の時間帯、寝静まった住宅街へと抜け出す。まだ土地に不案内で、どこにいるかも分からないので、迷いながらも大通りに向かって進む。
そうすると道路標識が立っていて、何とか場所を確認。何とか自宅のアパートへと戻った時には、空が白みかけていた。




