013 魔王城の料理人
料理人のバルトが魔王軍に捕まったのは、
街道を歩いていた時だった。
「人間だ!」
ゴブリンに囲まれ、
気づけば魔王城。
処刑されることになった。
最後の望みを聞かれ、
バルトは言った。
「死ぬ前に、一度だけ料理をさせてくれ」
◇
食材は適当だった。
固い肉。
しなびた芋。
怪しい茸。
魔王軍の厨房は、
ひどい有様だった。
「普段何食ってるんだ?」
オークの料理番が答えた。
「焼いた肉」
「味付けは?」
「塩」
「野菜は?」
「敵か?」
「食い物だよ」
◇
バルトは肉を煮込んだ。
芋を潰した。
茸で香りをつけた。
出来上がったのは、
ただのシチューだった。
魔王の前へ運ばれる。
「これが最後の料理か」
「そうだ」
魔王が一口食べた。
止まった。
もう一口。
さらに一口。
皿が空になった。
「料理人」
「なんだ」
「明日も作れ」
「俺、今日処刑じゃないのか?」
「延期だ」
◇
翌日。
鶏を焼いた。
「処刑は?」
「明日だ」
その翌日。
魚の香草焼き。
「処刑は?」
「明日だ」
一月後。
バルトは魔王城の料理長になっていた。
◇
問題は、
魔王軍の幹部たちだった。
「人間を滅ぼす!」
会議室で将軍が叫ぶ。
バルトが扉を開ける。
「昼飯だぞ」
「今は重要な軍議中だ!」
「冷めるぞ」
全員が黙った。
「今日は何だ?」
「肉詰めパン」
軍議は中断された。
◇
魔王も変わった。
以前は、
毎晩人間の国をどう攻めるか考えていたらしい。
今では夕方になると厨房へ来る。
「バルト」
「なんだ」
「今日の夕飯は?」
「魚」
「昨日も魚だった」
「文句あるなら食うな」
「いや、食う」
魔王なのに、
少し弱くなった気がした。
◇
半年後。
勇者一行が魔王城へ攻めてきた。
警報が鳴る。
幹部が武器を持つ。
魔王も玉座から立ち上がった。
「ついに来たか!」
そこへバルトが顔を出した。
「夕飯できたぞ」
魔王が止まる。
「……今か?」
「今だ」
遠くから爆発音。
勇者が門を破ったらしい。
将軍が叫ぶ。
「魔王様! 出撃を!」
魔王は食堂を見る。
城門を見る。
もう一度食堂を見る。
「……十分だけ待たせろ」
「魔王様!?」
◇
勇者たちは玉座の間で待たされた。
十分。
二十分。
勇者が苛立つ。
「何をしている!」
ようやく魔王が現れた。
口元を拭きながら。
「待たせたな」
「決戦の前に何をしていた!」
「夕食だ」
勇者が固まった。
「……は?」
バルトが後ろから鍋を持ってきた。
「余ってるけど食うか?」
勇者一行が顔を見合わせた。
◇
その日の決戦は、
さらに一時間遅れた。
勇者はシチューを三杯食べた。
僧侶はパンをおかわりした。
魔術師は作り方を聞いてきた。
食後。
勇者が剣を抜く。
「では、改めて」
魔王も立ち上がる。
「来い!」
バルトが皿を片づけながら言った。
「食った直後に暴れるなよ」
勇者と魔王が同時に振り返った。
「はい」
その瞬間だけ、
世界で一番強かったのは、
魔王でも勇者でもなかった。




