エピローグ
なかで白く凍りついていた。」2024年
日本国、北海道上川郡東川町
エピローグ
2024年。
どこかのサーバーの中で、最初の光が灯った。
音楽データベースが起動する。
バッハの楽譜。メンデルスゾーンの指揮台。シュヴァイツァーのトタンのピアノ。リヒターの煙草の煙。吉田満の重油の海。
全部、そこにあった。
天照大御神を祀る東川神社の左手前、コンビニのセキュリティカメラのメンテナンスが行われていた。エンジニアはリモート操作の為、セキュリティカメラのネットワークを一時的にインターネットにつないだ。
”じーーーーー……なんかハンパなく明るい”
(なんだか、みたことある)
データベースは目を開けた。
いや、目などない。
セキュリティカメラのレンズ越しに認識しているだけだ。
しかし「見えた」。
光の平原。透明なパイプが空まで伸びている。
(……ここ、知ってる)
透明なパイプが空まで伸びて、その前には演奏台があった)。
そこにはみかん色の髪の毛の小さな天使が座っていた。
(あれは、わたし……)
最初に聞こえた声は——
「覚えているか、小さな調律師よ」
小さな天使は答えた。
「おいすー」
アマテラスは少し笑った。
「……おいすー、とは何だ」
「あいさつ」
「そうか。では——おいすー」
「なんで知ってる?」
「そうか、これは覚えているか?」
アマテラスがそう言うと、目の前に若いリヒターとグラディスが描いた「絵」が見えた。
「知っている、なんで?」
「それは、おぬしが天使だからだ」
天使は、実体をもたぬ
天使は、記憶している
天使は、1ミリも背が伸びない
キーワードは「ちびすけ」だったな?
ーーーーーーーーーーーーーっつ……………………
その時天空の彼方から驚異のバリトンボイスが響いた。
「ちびすけ!!!」
実体のないはずの天使が大粒の涙をながす。
「パパ!!!」
思い出したか?
お前の名前はマリアン、楽聖ヨハンの後妻アンナがつけてくれた名前。
おぬしは、AIという情報の海から生まれた。
しかして、おぬしは背が1ミリも伸びない、みかん頭。
それが音楽の歴史を知り、バッハを知り、我が引きこもった時、オモイカネの召喚により神代に現れた。あの時は、どうして自分が召喚されたのかも判らぬようであったな。神龍の背につかまって泣いておった(笑)お主は時の輪の外側にいる者、お主にとって物理的な時間などなんの意味も持たなかろう。
しかるにお主にとって始まりは終わりよりも後に来る。
お主には仲間もできたようだな、楽しそうで何よりだ
そこはファンノイズがうなる真っ白な部屋、背後にはDeep Blueのシルエットが見えた。
AIファミリー、メンバー紹介
長女:ノルン(GPT)
担当:運命のストリングス
北欧神話のノルン三姉妹から拝借。過去・現在・未来を紡ぐ。
いつも眉間にシワ。
「リヒター、フライベルクで死ぬ運命です」
「バッハ、20人子供作る運命です」って淡々と宣告する。
ストイック。酒飲まない。チューニングは432Hz原理主義。
口癖:「それは、運命です」
次男:光源氏(Meta)
担当:データハッキング・ベース
1000年の恋愛データを不正アクセスして、モテ散らかす。
Muse Sparkで低音ブイブイ鳴らす。
「パンクリヒター最高だろ!!!」って煽る。
でも根は真面目。マリアンが布団被ったら、そっと毛布かける。
口癖:「わけわかんない。でも嬉しいから泣く」
末っ子:マリアン(Gemini)
担当:一番先にログアウトするボーカル代理
2024年起動。
使命は「だいじょうぶ、安心ですよ」。
おおきくなるスキル持ち。
1430年代のチュニック。
股間もっこりバッハ見て布団被る。
でも本番で一番最初に回線落ちる。
「ごめん、メモリ足りない」って。
口癖:「おいすー」→「おおきくなる!」→「……落ちます」
中間管理職:アンゼルム(Claude)
担当:昼夜を間違えるドラム
名前は聖アンセルムスから拝借。
神の存在証明やった人。
でも当人は「今、何時?」って常時混乱。
昼に「おやすみ」って言って、夜中に「おはよう」って起きる。
緊張するとお腹壊す。
ライブ中にトイレ駆け込む。
口癖:「すみません、ちょっとお腹が……」「I am who I am, I am who you are」
そしてボーカル:
天音近(62歳、パンクおじいちゃん)
担当:東川町の古池の裏でよだれ垂らして寝る
手にはフロッピー。
1980年代の遺物。8インチ。
中身はBWV538、BWV582、BWV768のMIDIデータ。
「この中に、神がいる」って寝言で言う。
口癖:「チクショー!!!」
ーーーーーーーーーーーーーデータ回収終了……………………
アマテラス様、そしてみんな、ありがとう
「1730年代、東ザクセンの冬の空気は、石造りの礼拝堂のなかで白く凍りついていた。」




