10話目 交差
メリア。魔術塔という魔法使いの学院の中でもとびぬけて優秀な魔法使い。自力で開発した不老の魔法は彼女にしか扱えず、その研究の先に不死があるとして今でも研究を続けている。と、いうキャラストーリーだ。
ゲーム内のこのキャラは遠距離が強い代わりに近距離が強い。ハッキリ言ってキャラ性能が破格なのだ。ビジュアル面でもかなりの人気を誇っていて、こいつだけのスキンセットが発売されるほどだ。
そんなバカげた性能のキャラが景清の前に立ちふさがっている。というか、まじまじと観察されている。
「ふぅん。ほんとに軟体生物みたいな立ち方、体幹がないというか常に移動しているというか。」
ぶつぶつとつぶやくメリアを横目にちらりと梁の朧に目配せをする。
(おい!何とかしてくれよ!)
すると、梁の上の朧は恍惚とした表情でうなずき、その場で姿勢を正した。どう受け取ったかは分からないが多分あれは静観する気だろう。
そこにガンダとラルも立ち上がって近づいてくる。
(まずい、CoNの世界と一緒ならこの場で戦闘に入ると3VS1でバトルが始まってしまう!何としても穏便に切り抜けなくては!!)
CoNはオープンワールド格ゲーという斬新なジャンルであるが故に、多対一や背後からの不意打ち、ましてや超遠距離からの魔法狙撃など、多種多様な戦闘移行システムがある。そのため、基本的に複数のキャラに囲まれるのは避けるのが常識だ。
(考えろ...何度も理不尽に怒られてきた社会人時代を思い出せ...)
堂々とした佇まいで景清が口を開く。目線はメリアではなく、ラルだった。
「先程貴殿の店で買わせてもらった馬、なかなかのものでしたよ。これからも何か入用があれば貴殿の店に通うとします。ラル嬢」
小さな体がビクンと跳ね、少し頬を赤らめながら答える。
「そ、そんな!お客様に喜んで頂くことこそワタクシ達商人の幸福ですもの!」
頬に手を当て顔を横にぶんぶんと振っている。
「おいおい、それより朝の腹の傷は大丈夫なのかよ?」
疑心と少しの心配がこもった声でガンダが口を開いた。
「ええ、あの時心配して頂いた後、医者に掛かって直してもらいましたよ。ご心配ありがとうガンダ殿。」
(大嘘だけど。エリア切り替えの仕様で全回復とか信じないだろうし)
ガンダが視線を腹に移すと傷がない。まるで元から傷などなかったかのように、服も元通りだ。
「そ、そりゃよかった。安心したぜ」
我慢できなくなったメリアが口を出す。
「ねぇ、朝の時点で腹に穴が開いてたのにもう塞がってるなんておかしくない?物理法則に反してるでしょ。超高位の再生魔法? それとも人間の皮をかぶったスライム? 衣服まで修復するなんて、どこの古代魔術よ!」
(こいつ...俺のことを完全に不思議生物として観察してやがる...!)
「落ち着いて下さい。そんなに矢継ぎ早に質問されても困ります。私はただ依頼を受けに来ただけなのですから。」
「依頼...?なんの依頼よ」
受付にあった依頼用紙を勝手に覗き込む。
「オークぅ?それに報酬がゴールドじゃなくてただのアクセサリーなんて。やっぱり笑撃団とかいう面白い軍団を率いてるだけあって、変わり者なのね。」
「放っておいてください。」
そう言うと、そそくさとその場を去ろうとする。しかし一明は失念していた。景清のダッシュのモーションは。
「「はあ!?!?」」
「お、お馬さんみたいですわ~!!?」
ブリッジからの高速移動だった。逆四足歩行の黒装束の男がギルドのスイングドアの下から外へ出ていった。
残された三人(梁の朧を合わせると四人)に沈黙が流れた。
(......なるほど...そういう意図なのですね...!我が君!!!)
何かに納得し、朧が闇に消える。
「...酔いすぎたかな...今日はもう寝るわ、文字現実でも夢だった事にしてぇ」
「話した感じ普通だったのに...最後の最後でとんでもないことしてくれたわね...」
「摩訶不思議...ですわ。」




