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『腐』は腐女子の『腐』!  作者: ヒロ猫
世界の中心でハッピーエンドを叫ぶ
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擬態は完璧……よな?

   

「そこの生徒……私たちのクラスでも君は有名だよ。パーシヴァルは二年生では最も優れた生徒になるだろうと言われていたけれど、その彼を君は負かしたからね」

「アシュリー様っ!」


 美少年がなんか言っているが、お母さんは聞いてない。むしろお母さんの言うことをよく聞いて、ビッチ落ちはやめてくれ。


「たぶん方向性が違うんですよ! 火の弾を出すとか水ではじき飛ばすとかそういうのじゃなくて! もっと人を救う力だと思うんですよねっ!」


 アシュリー少年の前で力説すると、美少年がびっくりしたように、やけにゆっくりと瞬きをした。こらー、そういう表情するからモブがわんさか湧いて出るんじゃないですかやだー。


 それにしても睫毛の先端まできらきら銀色って、これは下のーーげふんげふん。初対面の少年相手に繰り広げるには、ちょっと腐士としての礼儀に反していた。そういうのはもうちょっと仲良くなってからだな!


「……人を、救う……?」


「属性ってほら、髪の色とイメージが重なるじゃないですか。火の色だから赤い髪とか。で、アシュリー様のは綺麗な銀髪でしょう? 銀色って、月の色みたいじゃないですか。あと、光の色。そういうのって、なんだか神聖な、人間にとって優しいものであるような印象があるんですよ。火の弾みたいな攻撃用の現れ方じゃなくて、もっと違う使われ方があるんじゃないかって、僕そう思うんですけど」


「もっと、違う使い方……」

「どっちにしたって、ものすごい貴重な力なんでしょうね!」


 人を癒やすような聖魔法に一票。ちなみにエリクサーはあるけど、治癒魔法はこの世界では、聞いたことがない。つまりそれだけ珍しいということでは。


 それか、光魔法。閃光魔法とかかも。こっちはいずれ、レーザー魔法に進化しそうな気配。目からビームとかロマンだよねぇ。


 見開いているアシュリーの目は、澄んだ冬空みたいな、淡い水色。あれ、もしかしたら氷魔法って可能性もあるのかも?


 少年の目をじっくり観察しながらそう考察していると、その水色からぽろぽろっと水滴が滴り落ちてきた。ザ・涙。


「ぇ、えぇぇっ!?」

 慌てて遠ざかる。

「り、リオン君っ」

「ぼ、僕、泣かせちゃったかな!? 処刑? 処されちゃう感じ!?」


 平民が大公家のご子息を口撃で泣かせたら。……よくてむち打ちとかかな!?


「あっ、アシュリー様っ! リオン君に悪気はなくてっ! すごくいい子なんです! ちょっと突拍子もないことをいきなり言ってくるからびっくりするかもしれないんですけどっ!」


 私の前に立って、ユージーンが庇ってくれる。嬉しい……のだが、そうか。いきなり突拍子もないこと言っちゃうと思われてるのか……これでも空気を読める系男子の自覚があったのだが。前世でも空気を読んで一般人に擬態できている自負があったのだけれども。






 偏差値六十五オーバーの化け物といえば、姉貴後輩先生がそうだった。


 あ、薬剤師同士はお互いを先生呼びするのだが、学生の時はなんで? と思ったものだ。先生呼びするのは医師というイメージがあったからでもある。薬局に勤務して先生と呼ばれた時、くすぐったかったのと同時に、違和感も覚えていた。だけど、そのうちに気づいたのだ。なんで先生呼びなのか?


 それは、薬で人の体を損なうことが、できるからだ。薬局で薬を手渡す、最後の砦が私たち薬剤師なのだ。医師が指示を間違うこともあるけれど、患者が重要な情報を伝えていなかったことも多い。そういう情報をキャッチして、併用禁忌の薬を見つけ、処方をストップできる最後の砦が、私たちなのだ。お前にはそれだけの責任があるんだと、先生という呼び方で、私たちはいつもそれを再確認している。


 で、姉貴後輩先生。彼女も化け物の一人でねぇ……一ヶ月どころか二週間くらいで、薬局内の薬、商品名と一般名を覚えるというチート技を披露してくださったのだ。大学で教わる薬物名は一般名がほとんどだからね。商品名を覚えるだけではなく、一般名と一致させるなんて普通はすぐにはできない。


『え!? 嘘、もう覚えたんですか!?』

『あの、完璧に、じゃないんですけど。時々あれ、これなんだっけ? みたいなのもいっぱいあるんですけどっ』


 百パーセント大丈夫、なんて思われちゃったらどうしよう。そんな追い詰められて切羽詰まった表情の姉貴後輩先生。


 薬学部に来る悲しき高偏差値モンスターは、自己評価がえげつなく低い人が多い。なんとなれば偏差値七十オーバーの医学部を諦めてこっちに来た人が、けっこうな割合で混ざっているからだ。よくは知らないのだけど医学部の受験科目の理科では、生物と化学の組み合わせで受験できる医学部はたいてい偏差値が高いとかだそうで……物理と化学の組み合わせじゃないと受験できない医学部も多いらしい。そして物理の苦手な女子は多いんだよなぁ。私? 物理なんて選択するわけないじゃないですかやだー。


 医学部に行けないなんて、なんて無能。そう思い込んだ高偏差値モンスター……。医学部に行けるのが普通で、行けなかった自分は劣っているなんてバグった価値観を持つ、悲しきモンスターである。もうちょっと下を見て! っていうかあたしを見て!!


 で、私は言っていた。


『先生……人生何周目ですか……っ?』


 言った後、あっ、て思ったんだよね。案の定、姉貴後輩先生は首を傾げた。


『じんせい……なんしゅう……?』

『えっ、あっ、いやあのっ』

『あ、ごめんなさいっ! 私、お笑いとかそういうの? 疎くって! 朝のニュースは民放見てなくって、流行もよく知らなくって!』


 あたし知ってる! それだけ真面目に色々勉強してきた人だって、あたい知ってる!!


『あっ、そっか。ごめんね、いきなり変なこと言っちゃって……えへへ……三歳差だもんね。ちょっと昔のネタなんて知らないよね……へへへっ』


 お笑いか流行語のナニカ、と思われた誤解を正すことなくへらりと笑う私。ごめんね、姉貴後輩先生。オタバレは死活問題なんや……。


『先生……私、一浪してるから二歳差……』

 そうだった! 姉貴先生は一年浪人生活を過ごしているから二歳年下なのだ!

『いやぁ、二歳も三歳も変わらないよ! へへへっ』


 若干の挙動不審みはあっただろうが、姉貴先生は水に流してくれたようだった。ふぅ、凍った空気の解凍法、危うくSNSで募集を求めそうになったぞ。大喜利が始まるまで秒読みカウントダウン始まるところだったわ。たぶん『いきなり水をぶっかけましょう』とか、『むしろ熱いオタク語りすることで解凍おけ!』みたいな返事が湧いて出るわ。面白いけどそれやったら即死だからな!?


『それにしても、もう覚えたんだね! 早い!』

『いえ、あの、ほんっとーに完璧じゃなくて』

『いや、普通は三ヶ月くらいかかるんで、びっくりしたんだよ』

『三ヶ月……え、そうなんです?』


 さすがに話盛ってるやろ、という目では見られたものの、姉貴後輩先生は落ち着いてくれた。ちなみに盛ってなくて経験上そう言っただけである。これが高偏差値とごくごく一般的な一般人との差である……。





 ……一般人に擬態できていた自負しかなかったけど、もしかして時々きわどい場面もあったかもしれない……いやいや、オタバレしようとも、腐バレまではしてない……んじゃないかな? たぶん。


 漢方薬で葛根は受けか攻めかどっちだろうとか悩んだことはあっても、口に出したことはなかったはず。ステロイドの塗り薬でもベタメタゾンは受けか攻めかで悩んでたことあったけど、そっちも口には出してなかったはず! ……ないはず! いやでも自信のある時ほどヤバいって聞くし、ちょっと己を省みて警戒した方がいいかもしれん。この世界で腐バレしたらどうなるんだろう。あんまりこっちの世界で、同性婚とか聞いたことなかったような。かといって禁忌って話も聞いたことないんだけど。


「……私こそ、情けないところを見せたよね」


 すっとアシュリーが懐から取り出したハンカチ。まず少年という属性でありながらハンカチがすぐ出てくるってところが、ジョンなんかとは違う。やつはハンカチは持たない主義っぽいしな。そしてそのハンカチがレースで飾られた、純白のハンカチっていうところも違う。たぶん本物のお母様が準備してくれたのであろうハンカチ。どうしよう。身分差えぐい。


「すみません、不躾なことを言ってしまって」

「ううん、嬉しかったよ」


 ハンカチで涙を押さえ、それからポケットにしまった少年は、はにかんで微笑んだ。隣のユージーンが、そっと体を寄せてくる。慰めてくれてるのかと思って礼を言いかけると、ユージーンの顔がむくれているというか、拗ねている顔なのでずっきゅん、と胸が締めつけられた。なんだ? なにに拗ねてるんだ!? 可愛いぞもっとやれ!


「また寄らせてもらってもいいかな? 私の参考にもなるし」


 私の顔を覗き込む、あざとい仕草をかましてくるアシュリー。そしてユージーンは私の腕をぎゅっと胸元に抱いてきた。可愛いぞもっとやれ! じゃなくて! なんでそういう反応なんだ、ユージーン君。君が妬くべきは正ヒーローに言い寄る当て馬にだぞ? 友人その一にそういうサービスはしなくていいんだぞ?


「もちろんかまいませんけど……えぇと、イーノック先輩?」

 先輩にお伺いを立てず、返事をしていいものかどうか戸惑って先輩を見ると、なんだかじゃれ合う子猫を見るような目つきで頷かれた。


「歓迎します、アシュリー様。……これまででしたら、ご遠慮申し上げていたところでしたが……このように立場が変わったことを、リオン君には感謝したいよ」

「はぁ……?」


 あれか? パーシヴァルに勝ったから腐属性の地位が上がって、それで大公家のご子息が遊びに来るのを立場上断らずにすむようになった、とかか? でも、たかが一年生の練習試合やぞ? そんな小さい試合で挽回されるような地位なのか……?




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