大丈夫!
寮に帰ると、入り口付近で待ち構えていた寮監のカニンガム夫人に捕まった。
「リオン、その顔はいったい……!」
「えぇと、ちょっとこけちゃってーー」
「火属性の上級生に蹴られて殴られたんです!」
ユージーン君……私の穏便に済ませようって気持ちはどうしてくれるんだね? あ、ごめんそんなに泣きそうな顔でこっち見ないで!
「こんなに可愛い顔になんてこと!」
あ、可愛いですか? そう? えへへ。
「ジャックが教えてくれたのですよ。どうにも火属性の上級生の様子がおかしいと。それから今日の出来事を教えてくれて、あなたのことが心配だと……あぁ、来ましたね、ジャック」
カニンガム夫人の言葉とほとんど同時にジャックの
「リオン!」
という声がした。カールやジョンから口々に呼ばれる。
「リオン君……痛そう」
カールの方がよっぽど痛そうな顔をしている。ジョンはなんだか悔しそうな顔をしていて、ジャックは罪悪感がありありと分かる表情をしていた。
「やあみんな」
あえて、だ。あえて普通に挨拶してみたら、ジョンに、
「やめろよそういうの」
と、重めの声で叱られた。解せぬ。
「見た目ほどひどいわけじゃないんだよ。カニンガム夫人もお騒がせしてすみませんでした。僕がちょっと目立っちゃってたみたいで、それで少しお叱りを受けていただけです。大丈夫、ちゃんと対応は考えています」
「リオン……ですが……」
カニンガム夫人が心配でならないみたいな顔で、自分の両手を握りしめている。
「男の子ですから、こういうことは珍しくありませんし、そうたいした怪我でもありません。大丈夫です。明日からはもっとうまくやりますから」
にこっと微笑むと、カニンガム夫人が息を吐いた。
「そうですか……確かに、わたくし達があなた方平民にしてあげられることは、そう多くはありません。教師を通じて叱責するのは逆効果でしょうし……リオン。本当に大丈夫ですか?」
「はい、もちろんです」
「……いいですか、無理だと感じたら、必ずおっしゃい。わたくしなりの最善を尽くしましょう」
カニンガム夫人の気合いの入った顔がちょっと怖いが、頷いておく。
「ありがとうございます。カニンガム夫人」
けどまぁ、頼ることもないかと思っている。
「寮にも医務室があります。平民と貴族では行ける医務室が異なりますが……案内しましょう。みなも部屋に戻りなさい。ゆっくり食事ができる時間には、まだ早いようですよ」
「カニンガム夫人、僕も一緒に行きたいです。お願いです。リオン君が心配なんです」
「夫人、僕も行きたいです」
ユージーンとカールがそう訴えて、ジョンとジャックも夫人をじっと見ている。
「……では、一人だけ付き添いを認めましょう。リオン、誰に付き添ってもらいますか?」
え、私が選ぶんですか? あ、はい。当事者が選ばないと駄目ってことですね、分かりました。
「じゃあジーン、悪いけど一緒に来てくれる?」
「っ! うん!」
ぱぁぁっと光り輝くユージーンの顔と、がっかりしたようなカール達の表情。すまん。
「みんな、心配してくれてありがとう。でもちゃんと加減してもらったから、たいしたことは本当にないんだよ」
ちょっとお腹が痛いかなってくらいで。ほっぺは熱いだけだし。
「ご飯、待ってるから」
カールの真剣な顔に、おお、とおののく。このカールが食事を待てるくらいひどそうに見えるのか。医務室の先生には目立たないですむような小細工を教えてもらおう、そうしよう。




