いよいよ潜入!
魔法学園に入学するには、後見人が必要である。貴族なら両親とかで充分だが、平民となると貴族の後見人が必要になってくる。そしてこれが一番重要なのだが、パパやママに親しい人間が後見人になってくれると、いくら変装して男装してても、一瞬でばれる。
だが魔法学園に入学する平民は毎年、少ないにせよ一定の割合はいる。貴族に縁のない平民も多い。そういう平民のために、その将来性を買って後見人になってくれる貴族もそこそこいる。あと、純粋に慈善でそういう後見人をやってくれる親切な貴族もいる。
一般的に外れと見なされる私の後見人になってくれそうなのは、慈善目的の貴族しかいないと思う。ある程度はパパやママもこっそり動いてくれて、その中でもお人好しと呼ばれる貴族の後見を取り付けることができた。ぎりぎり入学式に間に合う奇跡。ちなみに会ったこともないし、これからも会うことはないだろうペッパー子爵閣下。私が後見人になってくれませんかって手紙を出したら、面談することもなく許可してくれた。
『不遇属性だが折れることなく励んでいれば、光も見えるだろう。君の学園生活に幸多からんことを祈る』
という手紙つきで。平民にわざわざ自筆のお手紙ーーママが言ってたーーをくれるなんて、相当いい人っぽい。とはいえ、見知らぬ平民といきなり会うことはしないってのは常識らしい。身分違うもんね。その手紙を持参してきた子爵家の執事さんみたいな人と、軽く話して面談終了。執事っぽいと思ったけど、後から聞くともうちょっと下の立場の使用人だと思うってママが言っていた。見た目からじゃなんも分かりませんわ。
私が変な子じゃないってのを子爵に伝えてくれるらしい。変な子じゃないよ! 腐士なだけだよ!
そういうわけで、入学式の前日午後、必要最低限の持ち物を携えてやって来ました。男子寮!
「おぉ……これが禁断にして祝福された約束の地……!」
平民なので、乗合馬車でやって来ました王立魔法学園。
王都を出て、馬車で半時間ほどアーサーズ川を遡上した場所に、広大なーー雰囲気をぷんぷん醸し出しているーー学園がある。周り、森と川だけ。そこを背の高さくらいの塀が囲っている。囲うって、普通円形をイメージするじゃん? 違うのよ。ずっと延々直線の塀が続いてんのよ。たぶん地平線が真っ直ぐに見えてちょっと弧を描いてる感じで、この塀もいつかは曲がってくんだと思う。が、その前に森の中に消えてってる。これで一軒家分の敷地しかありませんとかだと笑う。絶対ないと思うけど。
乗り合い馬車は正門っぽいところに入ってからすぐ左に折れた。それまでの道もきちんと土を固める舗装がされていたのだが、学園内の道はさらに石畳でできていた。さすが貴族多数の学園。王都の下町じゃ、道は整えられていてもむき出しの土だったけど、ここは貴族仕様だ。大きな建物がいくつも並んでいるのを横目に馬車はゆっくり進み、十分ほどして止まった。これまでに見てきた建物と同じような、茶色の煉瓦でできた建物だ。一つ一つの建物は大きいのだが、この建物も同様に大きい。馬車で通り過ぎるまでに二、三分はかかりそう。
「はい、ここが男子寮だよ。戻った反対側に女子寮があるから、女の子は次で降りてくれよな」
そう言われて男子だけが降りていく。
私の直感は正しかった。女子寮と男子寮が、この広大な敷地の正反対に位置しているなんて、つまり受け君と攻め君の日常生活の大半が、遠目にさえ見ることができないってことじゃないか。潜入できる体でよかった。腐属性魔法万歳。
一緒に降りた数人の男子、つまり平民として数少ない色を賜った子ども達が寮の入り口に向かっていく。緑髪は私だけ。残りは赤色とか茶色とか。もう馬車の中でも序列はできていて、私が一番下の階級だってのは暗黙の了解で決められていた。そういう空気はちゃんと読める子なので、最後尾について行く。
入り口を開けると、そこは広いホールになっていた。入り口のすぐ横に受け付けみたいなスペースがあって、厳しそうな白髪のレディが立っていた。絶対にこの人には逆らっちゃいけないってオーラがすごい。




