100 二位に見つかった
100話目です! ここまで読んでくださった方、ありがとうございます!
「ほら、こういった王都から離れた島は、王都の権力者がまとめて名づけたりするでしょう? 名称としては青翡翠島、赤翡翠島、黒翡翠島、白翡翠島が同時に誕生することもありえますわ」
説得力のあるウソだ。素晴らしい!
「違う島に来たってこと? まさかそんなポカをやらかすとは思えないけど……」
くせ毛の錬金術師が何か冊子のようなものを出した。
「卒業生の配属先リストもしっかりこの目で確認したけどな……、もう一度見るか」
げっ! なんでそんなものまで持ってきてるんだ! 卒業生の動向まで普通は確認しないだろ……。
それとも私がおかしいのか? 普通は友達がどこに赴任したかとか調べるものなのか? 友達いなかったのでそんなことを考えてなかった……。
「うん、フレイア・コービッジは青翡翠島の工房に赴任したことになってる。工房の錬金術師の定数も一人だし」
「へえ……そうなんですわね」
ナーティアの視線が天井のほうを向いた。それは少しわざとらしすぎる。
「ですが、定数一人だからといって二人以上の錬金術師が働いてはいけないというルールまではないでしょう? それは、さ、最低人数のことのはずですわ……」
「それはそうだけど、データでは冬の時点で島に錬金術師はいないことになってるわ。ナーティアさん、あなた、どこの学院卒ですか? それと、いつから勤務してんの?」
アルメリーゼがカウンターに身を乗り出した。
「え、ええと……去年から……。いえ、五年前……三十年前でしたでしょうか……」
ロック鳥の感覚なのか、範囲がガバガバすぎる!
「まっ、これはどうでもいいんだけどね。青翡翠島にフレイア以外の錬金術師が在籍してることには何の問題もない。ナーティアさんの言うとおり。でも、フレイアが本当にここの工房に所属してないなら大問題っしょ。三年の奉公期間を守ってないことになるしさー。資格を失うようなことを平然としてること。知っちゃった以上、あとで協会に報告しなきゃなー」
「ああ、もうよいよい」
ぱんぱんとリルリルが手を叩いた――らしい。隠れていたので見えなかった。
それから、さっと庭のほうに出てきて、私の腕を引っ張った。
「痛い、痛い! バカ力すぎますよ!」
「これ以上、ナーティアが困ってるのを見るのはしのびない! そなたが責任を果たせ!」
「せ、責任と言われても……!」
「もう煙に巻くのは失敗しとるんじゃ! 諦めんかい!」
店舗に引きずり込まれた私とアルメリーゼの目があった。
その瞬間からアルメリーゼの顔が明らかに変わっていった。
いわば、知ってる人間を見た時の反応……。
「フレイア・コービッジ! ちゃんと工房にいたじゃん! なんでしょうもないウソついてだまそうとしたわけ?」
「こうやって招かれざる客が来ることがわかっていたからですよ」
むしろ、これで居留守を使いたくないと思う人間なんているのか。
「同じ学院の卒業生らしいですけど、だからってどういう意図でわざわざ来たんですか? お世辞にも交通の便がいいところじゃないですよ」
船旅に数日かかるわけではなくて片道六時間半だけど、それでも最寄りの大陸の港に向かうだけでだるい。たいてい酔うし。
「あなたと勝負をするためよ。あなたのせいでワタシはずっと一位になれなかった……」
うわあ、本当にそんな理由で来たのか。理解できん……。
「ああ、学院で見覚えはありますね。顔を見ればうっすら思い出してきました」
「ちょっと! あおってるわけ? 眼中にないってこと!?」
しまった! 何かまずいことを言ってしまったらしい……。
「違います。舐めてるんじゃなくて、全部平等に……。私は同級生の顔と名前、原則誰も覚えてません」
「学年全部、相手にならないってこと!?」
どうして何を言ってもあおったことになるんだよ!
人間関係が稀薄なだけで悪人扱いされるのなんておかしい!
「ま、まあ、落ち着いてください。あなただけに興味がなければ差別ですが、誰にも興味がないならそれは平等ってものでしょ?」
「むしろ、フレイアも落ち着け」
「リルリル! 師匠のピンチなんだから助けてくださいよ!」
「助けなくても乗り越えられるピンチは、自分の身で乗り越えよ」
厳しい親みたいなこと言うなあ。親に心当たりがない人間が言うたとえではないか。
「えっ? 弟子がいるの? そりゃ、弟子に契約手続きはいらないけどさ、卒業直後にしては生意気すぎない?」
学院二位まで話を変に広げようとしてくる。それと、生意気って何だ。
「ナーティア、水を用意してもらえますか? いったん食堂に移動しましょう」
「いらないわ。あなたに勝負を申し込めればそれでいいから」
「いえ、こんなところで勝負だのなんだの言われると目立ちます。田舎の噂の拡散力、舐めないでください。食堂には移って!」
「そこまで言うなら……」
押したら要望は聞いてくれた。だったら、「帰って!」と百回ぐらい言い続けたら帰るのではなかろうか。試す価値はあるな。
でも、港でわんわん泣かれると、私が何かやったという噂だけ島に広がるな……。
水を飲ませたらアルメリーゼさんはだいぶリラックスしたようだ。
冷静じゃない人には水を飲ませよう。しょぼい薬草より効き目がありそうだ。
食堂のテーブルの向こうにアルメリーゼさん、それと彼女の隣にはナーティアに座ってもらった。暴れたら制圧してもらうためである。
リルリルは私の隣で肘をついている。足りない椅子はカウンターの後ろから持ってきた。
「あなたもご存じのように、ワタシは学院で二位だったんだよね」
別に存じてないぞ。
「田舎貴族の生活を送るのなんてまっぴらだから、ワタシは錬金術師の勉強を続けたの。でも、前にはずっとあなたがいた。どうあがいても、近づくこともできなかった……。追い抜けないまま、そのまま卒業することになった」
「ふんふん」とか合いの手を入れたりしていいのかもわからないので、私は黙って聞いていた。
「でも、このまま敗者のまま錬金術師として働くのはよくないと思ったの。そのために調査名目でここまで来たってこと! あなたを倒して、ワタシはもう一歩前に進む!」
「断りますっっっ!」
向こうと同じぐらい大きな声を出した。