101 断固断る!
「断りますっっっ!」
向こうと同じぐらい大きな声を出した。
ついでに席を立った。
こんなの、じっくり腰を落ち着けて聞いてられるか!
「ちょっと! わざわざ船酔いしてここまでたどりついたんじゃん! 船だけで片道六時間もかかってるんだよ! あっさり断んないで!」
向こうも立ち上がった。
「知るかー! 船酔いはあなたが船乗ったから起きたことでしょ! 私は人生で一度もあなたに船乗れなんて言いました?」
近づいてしゃべるか迷ったけど怖いので間にテーブルはさんだぐらいの距離感がちょうどいいな。このままいこう。
「さっきから一応は聞いてましたけど、徹頭徹尾、一から十まで全部そっちの都合じゃないですか! あなたがどんな理由でこっちに対抗心やらコンプレックスやら抱いたところで私には何の関係もないでしょ! 結局、私に降りかかるのはただの迷惑でしょ! 迷惑かけて、なんで偉そうな顔してるんですか! あなたは足踏んできた奴が偉そうだったらそいつを許します?」
人差し指伸ばして告発してやったら、少し相手がひるんだ。
「だいた、い田舎貴族の生活が嫌だから~とか理由もベタすぎるでしょ! 自分語りするのはいいけど、エピソードが弱い!」
まだまだしゃべれるぞ!
「それって田舎貴族の一員ってことに我慢すれば三食のごはんは用意されるってことでしょ? こちとら帰る故郷すらないんだっての! 錬金術師になれなかったら本当に帰る場所もないの! 人生かかってるんだから、そりゃ真剣に勉強もしますよ!」
アルメリーゼさんがちょっとたじろいだ。
話し合いとしては最悪だが、感情には感情をぶつけるのが正しいらしい。
人間の戦争がいつまでも終わらない理由はこれか。
「私は順位争いが目的じゃなかったんだから、そりゃ二位も三位も興味ないですよ! もし十五位とかまで下がったら成績上げなきゃと思うけど、自分より成績が下の人の勉強法をまねようとは思わないし、自分より成績低い理由を分析しだしたら、あまりにも性格終わってる人でしょ?」
しゃべってて自分でも止まらなくなった。
「二位をバカにする奴だったからリベンジしたい――これはわかります。二位で終わりたくないからリベンジしたい――これはおかしいですよ!」
「わ、わかるけど……」
「それに私にも事情ってものがあるんです。実家が太いとか細いとかじゃなくて、ないんです! 錬金術師にならないとごはんが食べられないんです! 自己実現とかけじめとか、そんな高次元な悩みの前に、飢えたら死ぬという低次元の悩みでこちとら懸命にやってたんです! 成績はそれでついてきただけです!」
アルメリーゼさんがその場にへたりこんだ。
「あの、汚れてはないですけど、椅子あるんで、椅子に座ったほう――」
「うわあ~~~~ん!」
なんか泣き出した!
そんなにすぐ泣けるものかと思ったけど、涙はにじんでるぐらいでほぼ声だ!
泣き声で誤魔化してるな!
「そうかもしんないけどさ、言ってることもわかるけどさ……対決受けてくれてもいいじゃん……。バカ、バカァ……」
「バカではないです。一位です! あなたより上の順位なんだからバカにしないでください!」
ここで謝罪してはいけない。
謝罪すると私が悪者になってしまうからだ。
客観的事実として私は絶対悪くない。
理不尽な勝負を挑まれて拒否したら、相手が泣いただけ。
理不尽な勝負を挑まれた時点で被害者は私だ。
「王都の工房で勤務してるんでしょ? そこで実績出したらいいじゃないですか。学院の成績が何位だろうと過去のことですよ。むしろ卒業後に自分が学院で何位だったとか言いだす奴は確実に痛い奴だし、ほぼ確実に無能なわけで……」
このままへたり込んでるままにもできないので、順位にこだわるなんて無駄だよという流れにスライドさせる。
正論しか言ってないと思う。卒業後に在学中の成績でマウント取る奴は今の仕事が上手くいってない証拠だ。
「さ、さあ、帰って有能錬金術師の力を見せつけてやりましょう。ねっ、自分の価値はこれからの行動がすべて決めるわけですから。勤務地では島より王都のほうが絶対人気あるわけですから!」
我ながらいいことをしゃべっている。反論の余地などないはず。
「うぅ……うぅ……そうだね……。っく……今が充実してるのが……一番かも」
「でしょ? 私たちはまだ若いんだから前を向いてけばいいんです」
「けど、せっかくだから戦う……戦ってから帰る……」
「もったいないからやっとくみたいな発想はおかしいです! 島に来たんだから観光でもして楽しんで帰って!」
観光地あったかな? でも、何もないことこそが観光資源ですみたいなキャッチコピーをどこかで聞いたことがあるし、島でのんびりするだけでも価値があるのではないか。
「フレイア、勝負してやれ」
リルリルまで椅子から立ち上がった。
「えーっ? 本当に意味がないじゃないですか。勝っても負けても点数がつくものじゃないし……」
「気持ちの問題じゃ!」
リルリルは私のほっぺたを両側からぎゅっと押した。
ぐうぇっ!
「にゃ、何するんでふ……」
「対戦してフレイアが大損することでもなかろう。負けて職を失うわけでもないじゃろ。やってやれ」
そんなことより、ほっぺたを押さえつけないでほしい。




