第46話 誘拐
「石なんか投げやがって。殺されたいのか?」
クソ神父が居なかったので教会を出たら、先ほどの少年が転生者の男2人組に捕まっていた。どうやらあの少年、俺たち以外にも悪さをしたらしい。
「はっちゃん、この子どうする?」
「やられたらやり返すのが俺の流儀だ。世の中平等じゃないとな」
「なるほど!」
「って事でしっかり押さえてろよネーム」
「わかった!」
はっちゃんと呼ばれた転生者はやせ型の男。少年に見せつけるように指を鳴らし始めた。ネームと呼ばれた方はレスラーみたいな体系。少年を掴んで逃げないようにしている。
「転生者は出ていけ!」
捕まったまま少年が叫ぶ。
「知ってるか? 撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ」
「このクソ野郎!」
「ふっ、口だけは達者だな」
「転生者は消えろ!」
「何とでも言え。俺は気にしな――」
「バーカ! 負け組! ダメ人間!」
「……殺す!」
ナイフを召喚するはっちゃん。いやマジかよっ!
「サウンドボール!」
俺はとっさに魔法を放った。手から飛び出した音の砲丸がナイフ男の頭に命中。ボン! と爆音が広がり男は1メートルほど吹っ飛んだ。
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多才な奏者(ランク5)
音系能力詰め合わせ。
物理法則から乖離するほど消費魔力上昇。
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マオが調べた結果、このスキルは本当にいろんな事が出来ると分かった。武器に振動を付与したり音で遠くから切りつけたりと、漫画やゲームに出て来るような音系能力は一通り使える。
が、ダンジョンではまだまともに使った事が無い。なぜなら魔力の消費が激しいから。マオの声を出すだけならともかく、魔力☆2の現状では、1番消費が少ない攻撃のサウンドボールでも2発が限界だ。
「な、なに!?」
もう一方の転生者がこっちに気づいた。ハンマーを取り出したその男に俺はもう1度サウンドボールを撃ち込む。
ボン!
ハンマー男に命中。だがよろめいただけだった。ナイフ男もいつの間にか起き上がって俺らをにらみつけている。
敵意が完全にこっち向いたな。
「あ、お前、イベントの時のTSっ娘!」
「ボスに洗脳されてた可哀そうな人!」
俺そんな風に認識されてんのか。てか可哀そうとか言うな。
「一体何のつもりだ! 俺は被害者だぞ!」
「そーだそーだ!」
ナイフ取り出して被害者アピールって、お前それでいいのか?
「どないする?」
「とにかく子供の安全を優先で」
「了解っス」
とはいえどうしよう。俺が今セットしてるスキルは『多才な奏者』と『心のホットライン』。そしてもう魔力が無い。
ケムシンはクワと鎧だ。さすがにクワで切腹はできないだろう。
一旦教会に入ってスキル変えてくるか? いや、その間に少年が殺されたら目も当てられない。
『肉壁となり足止めをしている間に少年に自力で逃げてもらうのが一番確実です』
マジか。やるしかないのか。肉壁。
「私が相手っス!」
そう言って飛び出したのはシリルさんだった。
「速度☆5キーック!」
「アベシッ!」
飛び蹴りを喰らいナイフ男がまたしても吹っ飛ぶ。
「シリルさん!?」
「はっちゃん!? このっ!」
ハンマー男が攻撃。だがシリルさんには当たらなかった。
「私と戦うには速さが足りないっスね」
ハンマー男の後頭部に蹴りを入れるシリルさん。凄い。一瞬で背後に回りこんだぞ。
『加速系スキルの反応を検知。速度☆5を完全に凌駕しています』
マオがそう言う間にもシリルさんは男2人をスピードで翻弄。そして蹴る。蹴る。蹴りまくる。
「私が戦ってる間に子供を連れて逃げるっス!」
少年はシリルさんの近くで尻もちをついていた。驚きのせいか硬直している。
「ケムシン行こう!」
「了解や!」
少年に向かってダッシュ。先に着いたケムシンがお米様抱っこ。そのまま逃走!
「な、なんだあんたら!?」
抱えられた状態で少年が暴れる。その声にハンマー男が反応した。
「あ、逃げるな!」
「行かせないっス!」
シリルさんがハンマー男のあごを蹴り上げた。だが耐久が高いのか大して効いて無いっぽい。
「私のスピードなら1人で逃げ切れるんで先に行くっスよ! 後で追いかけるんで!」
「了解や!」
「お願いします!」
俺たちは戦闘音を背後に聞きながらその場を逃げ去ったのだった。
「ふう、ここまで来たらすぐには見つからんやろ」
「シリルさん大丈夫かな?」
「あの感じなら平気やろ……多分」
町のはずれに来た俺たち。
「降ろせー!」
「ちょ、静かに! 追いかけて来てるかもしれないだろ!」
「人さらいー!」
「人聞き悪い事言わんといて!?」
暴れる少年。抱えられた状態でケムシンの頭をポカポカ叩いている。ケムシンすっげー嫌そうにしてるな。
「お、落ち着いて!」
「はーなーせー!」
「こんなとこ誰かに見られたら誤解されてまうで!」
「ほう、誤解なのですかな? 私には誘拐の現場にしか見えないですぞ?」
え?
声のした方へ振り返る俺たち。そこには
「何をしているのか、納得できる説明はあるのですかな?」
「「クソ神父!」」
もはや見慣れてしまった修道服のジジイ。そしてその隣にはもう1人、いかつい顔のおっさんが居た。
「「誰!?」」
「……俺の倅に何をしている」
お父様でしたか……。




