第41話 本当の気持ち
外はひどいありさまだった。平和だった町で使い魔と転生者が暴れまわっている。視界の端に逃げ惑う住民の姿が見えた。
乱戦。その一言に尽きるだろう。
俺達は戦いの間を縫うように駆け抜けた。目指すは戦いの中心部、マオが居るところだ。
マオは最初知らなかったんだ。自分が何者か。だから情報を集めた。
そして知ったんだ。自分がボスであると。そして主人が転生者だと。
自分が死なないと主人は転生できない。だから自分から死ぬ。そういう理屈なんだろう。
馬鹿野郎め。
俺にはこれがマオの本心だとは思えない。あいつが死んで良い理由なんか無い。何としてでもマオを止める。
マオを生かすという事は誰かの転生を阻止するという事だ。もしかしたら俺は今後ずっと、転生者全員を敵に回すかもしれない。
でも、それでも俺は……。
マオに近づくほど敵味方の密度が高くなっていく。
だが使い魔の動きが鈍い。そもそも連携が取れてない。だから乱戦なんだ。隊列を組んでマオを守るべきなのにそれをしない。明らかに手を抜いている。
しかもここは教会の前。死んだ転生者は10秒と立たずに復帰してくる。どんどんマオが不利になっていく。
「マオ!」
堪え切れず、俺は遠くからマオに呼びかけた。
「どうするつもりですか」
だがそこにケロンチョが割り込んで来た。
「今ならあのボスを討ち取れます。いえ、今ここ以外で討ち取るのは不可能です。私たちがどれほど手を尽くしても倒せなかったあの最凶最悪のボスを!」
「邪魔すんじゃねえケロンチョ!」
「あれに加担する気ですか。あなたたちもあれに殺されたくせに」
「関係ねえ!」
くそっ、こんな所で油売ってる訳には行かないのに!
「ミョンチー、ここは俺に任せて先に行きや!」
「ケムシン!? ……頼む!」
「行かせません。虹ビーム!」
「魔弾!」
ケムシンの魔導拳とケロンチョのビームが衝突した。衝撃が周囲に広がる。
「切腹!」
「ひゃっ!?」
無敵モードになったケムシンがケロンチョを抑え込む。取っ組み合いになる二人。
「今や! 行ってミョンチー!」
「応!」
俺は二人の横を通り過ぎマオのもとへと急いだ。
「GAAAAAAA!」
だが今度は熊が俺を阻む。
「邪魔だ!」
一閃。俺の大斧は熊の首を一撃で刎ねた。血を吹き出しながら崩れ落ちる熊。それを見もせず俺は走る。
邪魔な使い魔を倒し、もしくは誰かに押し付け、時には誰かの起こした爆風に吹っ飛ばされながらも、俺は前に進んだ。
転生者たちは方位を維持することを優先しているらしく、中心にいるマオへと迫る奴は少数派だった。俺は急ぐ。
そしてついに――
「マオ! 逃げよう!」
「……嫌です」
まだ少し距離はあるが、俺はマオの元へたどり着いた。
「死んで良いのかよ!」
「私はそのために生まれました」
「関係ねえ! お前の人生だろ!」
何が使命だ。何が存在意義だ。そんなもんクソ喰らえだ。
「死にたくないって言ってたじゃねえかよ!」
「それは……死んだらイベントが終わるまで復活できないルールで……」
「嘘だ。あれはお前の本心だ! お前がここで死ぬつもりだったなら、イベント中に死んでも問題なかったはずだ!」
「それは……ですが主様の役に立つ事が私の――」
「何のために生まれたかなんて関係ねえ! 他人が決めた生き方なんかに従うな! どう生きるかはお前が決めろよ!」
俺はマオに詰め寄る。マオは使い魔をけしかけてはこなかった。
「それでも……私は……」
「じゃあなんで泣いてるんだよ!」
「――っ!」
慌てて目元を拭うマオ。
「本当は嫌なんじゃないのか?」
「私は……でも………」
「いいんだよ。一緒に逃げようぜ」
「私は……私は……」
マオは目元を拭い続ける。だがいくら拭っても、マオの目からは涙があふれ続けていた。
ついには泣き崩れるマオ。
鼻をすすり、肩を震わせ、うずくまり、
それでもマオは
ようやく
「本当は……ミョンチー様のパーティーに入りたいです……」
本当の気持ちを言ってくれた。
「言えたじゃん。本当の気持ち」
そして俺は、マオに手を差し出したのだった。




