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転生したら戦闘民族オークでした。  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫


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9/9

09 求婚。




 あ、不機嫌だ。

 物凄い不機嫌なギンが立っている。

 どう見ても私に用があるだろうと思い、向き合うことにした。


「……どこのどいつだ?」

「ん? どいつって?」

「……」


 黒いまなこでギロリと私を睨み付けながら、ズンズンと近付いたギン。

 気圧された私が後退りをしても、ギンは近付くことをやめなかった。

 トン。背中に木。もう退がれない状況になったかと思えば。

 ドンッ!

 左右にギンの腕が置かれて、壁ドン状態になった。


「てめぇがお洒落してまで気を惹きたい野郎のことだ!!!」


 そして怒声。ドキドキの種類が変わる。

 一体何のことかわからず瞠目していると、ギンは盛大に舌打ちをした。


「人間の街か? 人間の街に行って出会ったのか? あん? その男と会うために着飾ってんのかよ? ああん!?」

「ひゃあ! 違うよ!? 違うんだけど!?」


 胸ぐら掴んできたので、悲鳴を上げたくなりつつも否定をする。

 イン店長さんが脳裏に浮かんだけれど、好きってほど知り合っていないし、私では彼には釣り合わないだろうし、とにかく気を惹きたい相手なんていないと伝える。


「じゃあなんで、なんでてめぇーはっ!! どんどん綺麗になっていくんだよ!?」

「……えっ?」


 その言葉に目を瞬く。


「誰のために綺麗になってんだよっ!?」

「……誰って……自分のためだけれど……」

「……はっ?」

「自分のために着飾ってるだけだけど」


 誰のためと言われれば、自分のためだ。

 好きで着飾っているだけ。

 そう答えたら、ギンはポッカーンとした。


「……他に男がいるわけじゃねーのか」

「うん……」

「……なんだよ……はぁー」


 木の幹に手をついたまま項垂れるギン。

 おかげで更に近い。ギンの白銀が私の顔に触れそうだ。


「……ていうか……」


 距離のせいなのか、頬が熱くなるのを感じながら、私は言う。


「……私のこと、綺麗だって思ってくれたんだね……」


 ここ数日生き生きしていただろう私のことを見て、そう思ってくれていた。

 そのことにときめきを感じてしまう。離してもらえた胸に手を当てて、そのドキドキを抑え込む。


「当たり前だろ」


 降ってきたのは、肯定だった。

 意外だ。ツンツンするのかと思った。

 ずらした視線を合わせて見れば、ギンは真っ直ぐに私を見つめている。


「好きな女なんだから、綺麗だって思うだろうが」


 あっさりと告げられる言葉。

 思い返せば、そうだった。口の悪いギンに弱虫と呼ばれても、ブスとか可愛くないとは言われなかったのだ。

 私が好きだから。

 それの響きが、ドクンと胸に染み渡った。

 照れすぎて、私は俯き袖で口元を隠す。


「……クソッ、なんだよ」


 悪態をつくから何かと思って視線を合わせてみれば。


「そんな顔をすんじゃねーよ。キスしたくなるだろうが」


 黒曜石の瞳は、熱情を帯びていた。

 そんな顔と言われても、鏡がないのだからわからない。

 セリフに余計ドキドキしてしまう。この距離だからなおさらだ。

 すると、ギンが離れた。ほっとしたような、残念のような。

 いや残念な気持ちになるのはおかしい。うん。


「決闘するぞ」

「え!?」

「オレが勝ったら」


 背を向けて離れていくギンが告げる。


「キスする」


 そして対峙した。


「えっちょ、ちょっと待って」

「おい、幻獣。お前審判役しろ」


 ウルくんに向かってギンは言う。

 テクテクと歩くウルくんは、ちょうど私とギンとの間にお座りをした。

 審判役やる気満々だ。


「三で始めるぞ。一、二、三!」

「早いよ!?」


 待ってと言う間もなく、ズインと距離を縮められた。

 反射的に右腕を突き出して「レモート!」と唱えたが、パシッと腕は払われて狙いが外れた。その腕を掴まれたかと思えば、背負い投げられる。宙に投げ出されたが、なんとか回って着地した。

 でも振り返ると同時に、肩を掴まれてねじ伏せられる。


「っ!?」

「オレの勝ちだ」


 ずるいと叫びたかったが、明らかに負けだ。

 ガクリと首を折るけれど、すぐに起き上がった。

 砂がついた着物を叩いている間も、頬に熱が集まっていることを感じる。

 キスだ。キスをするのだ。キスなのだ。


「……」


 心臓が爆発してしまうのではないかと思うくらいドキドキと高鳴っている。

 足元を見つめていた私の頬に、ギンの大きな手が当てられた。


「!」


 ギンにしては想像出来ないほど優しいキスをされる。

 大きな手で私の顔を包み込み、唇を重ねた。

 私はギュッと目を閉じてしまう。

 気を抜くとその場に崩れてしまいそうだ。でもちゃんと立った。


「……綺麗だ」


 なんて、最後にそんなことを告げて去っていくギン。

 私は耐えきれなくなって、その場に蹲って頭を抱えた。

 不意打ち、ずるい!!!

 しばし悶絶していたけれど、のこのこと帰っていく。


「あれ、あんた。ポタタを採りに行ったんじゃないの?」

「え? あー……明日にする」

「忘れたのかい。あんたって子は」


 ケラケラと笑われたが、言い訳する元気もなく私は自分の部屋に行った。

 そしてベッドにダイブをする。バタバタと悶えた。

 ファーストキス、奪われたのだ。

 異性とキスしてしまった事実。

 赤面が止まらない。

 この気持ちをどうしたらいい?

 叫びたいが家でそんなことをしたら、両親がすっ飛んできてしまう。

 ふっと思い出す。


「あ、日記があったんだ」


 私はたまに日記を書くことがあった。

 どこだろうと探してみれば、魔導書の下に発見。

 隠し場所は私らしい。


「ん? 待てよ。日記ってことは……」


 ギンに求婚された時のことを書いているのではないか?


「……」


 私はどう思ったのだろうか。

 転生の記憶を思い出す前だから、間違いなく最後に書かれているのはギンの求婚のはず。私の返事はどうなんだ。

 何故か開くことを躊躇した。

 自分の日記なのだから、開いてもいいではないか。

 思い出を忘れた時のために日記はある!

 意を決して、開いた。

 最後のページを捲る。捲る。捲る。

 そして見付けた。


「今日……ギンから求婚された。私は何も言えなかった。……答えなかったんかい!」


 自分の日記にツッコミを入れてしまう。

 幸い見ているのは、小さな狼の姿になったウルくんだけだ。


「そうだよね、虫除けに結婚しろって言われたんだもんね。答えることなんてできないよねー」


 なんて呟いて、続きを読んだ。


「嬉しかったのに、何も言えなかった」


 そう書いてあった。


「うれ、うれし、嬉しかった……?」


 いや待って落ち着け。

 あんなイケメンに求婚されたら、嬉しいと思う。

 そうだ。答えを急いじゃためだ。


「嬉しかった、だけ!?」


 それ以上のことは書いてなかった。


「どうなんだ……どういう意味なんだ、書いとけよ私」


 じれったい。


「……もう! ギンのことどう思っているか、読むからね!」


 自分の日記に向かって言って、読み漁った。

 先ずは最初のページを開く。

 一番最初に目標を掲げていた。


「私はいつかギンのお嫁さんになるっ……!?」


 私もギンのことめっちゃ好きじゃないか!!!

 好きじゃん。めっちゃ好きじゃん。好きなんじゃん。

 日記に書いてあるのは、ギンのことばかり。

 今日守ってくれたとか、また守ってくれたとか。

 今日は原っぱで一緒に昼寝をしたとか。

 ……ラブラブじゃないか!!!


「好きなのにフッちゃって、ごめん……」


 ベッドに倒れ込んで呻く。


「……」


 ギンに対して、申し訳なく思う。

 皆の前で決闘で負かしたし、フッちゃったし、泣かした。

 それでもまだ好きだって言ってくれる。

 嫉妬してくれて。

 好きな女だって言ってくれるし、綺麗とも。


「……好きに、なっちゃうよー……もう」


 ベッドに仰向けになって、唇に触れる。

 キスまで求められた。

 そして、キスをした。


「……キス、したぁ」


 思い出して、赤面する。

 ジタバタと悶えた。


「明日どんな顔をして会えばいいの……」


 どんな顔をして会えばいいのだろうか。

 ギンはどんな顔をするのだろう。

 会うと思うと、胸がキュッと狭くなった。


「どぅはぁああっ! 現金すぎるよ私っ」


 キスされて、こんな夢中になってしまって。

 現金だ。決闘で断っておいて、こんな。こんな。


「ずるいのは、私じゃない……」


 枕に顔を埋めて呟く。

 ずるいとはわかっている。

 でもナヒメが、いやーーーー私が好きなのだから、言わなくちゃ。




 翌日、私が記憶を取り戻した丘に横たわっていたギンに歩み寄った。


「ギン……あのね」

「あ?」


 起き上がったギンに、私は勇気を振り絞って告げる。


「わ、私と結婚して! 決闘とかはなしで……」


 震える手を握り締めた。


「ただ好き合った同士で……結婚しよう?」


 告白からプロポーズなんて、ハードルが高すぎるけれど、いつかは飛び越えなくちゃいけない。だから、私はプロポーズをした。

 問題はギンの方だ。

 ギンは私を見上げた。

 私の心臓は限界だった。

 ギンは立ち上がる。そして笑った。


「当たり前だろ」


 嬉しそうに、眩しいくらい、笑みを溢したのだった。




end




もう少し膨らませて書きたかったのですが、

これにて完結させていただきますね。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

20181021

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