多網現る
『多網現る』
その日11時を過ぎた頃、家のチャイムが鳴った
玄関を開けると上から下まで黒色の服
まさに黒一色 髪は角刈り 目は細く 色白
まさしく多網が立っていた。
「久しぶり多網元気だった?」
多網は小さい声でフフッと全く返事の意味が分からない返事をして家にあがる。
正子が多網を見て「久しぶり」
多網はフフッと笑った
やっぱり変わってるなと冬馬君は思った
「お昼まだでしょ」と正子
多網は頷いた
この多網と言う男は何と言うか変わった?不思議な雰囲気の男である。
冬馬君は思った、多網は六年生、三年生の宿題なんて簡単に出来るだろう、この機に手伝ってもらおう
「多網二階に来てよ」
多網は頷いて、後ろからくっついて来た
「多網ちょっと宿題手伝ってよ」
冬馬君は苦手な数学を手伝ってもらおうと算数の宿題を出す
「この計算分かる?」
返事はなかったが顔を見ると、凄い得意そうな顔をしている。
そして何故そうしたか分からなかったが 両目を大きく見開いた カッ!!
そして何も言わずによっぽど得意なのかスラスラ答えを書き始めていった
こりゃ楽チンだラッキー
3ページくらいめくった瞬間多網の動きがとまる
顔を見るとこの世の終わりの様な顔をしている
そして暫く鎮痛な表情をして冬馬君を見つめ、そのまま下に下りて行ってしまった
冬馬君は思った、分からなかったんだな。まあ良いや少し出来たから
下に行くと正子が作ったお昼が準備されている
そうめんだ
「いただきまーす」
多網も何か言ってるようだったが聞き取れなかった
夏の冷たいそうめんは美味しい
「多網どう?」冬馬君が聞く
凄い笑顔を浮かべ頷いている、これは大満足だと表現してるようだ
「多網は夏休み何処か行ったの?」
「 ファ ミ レス い っ た 」
予想外の答えに冬馬君は笑った
「他は?」
「 う み」
あー良いな冬馬君は思う、そう言えば、まだ海やプールに行ってないな、多網はクロールで泳いでるジェスチャーをしている
「そう言えば多網は今日いつまで家に居れるの?」
「ヒ マ」
多分ヒマしてるから暫くは居れると冬馬君は解釈した
正子が多網に尋ねる「今日泊まって行く?」
多網は頷き
そしてムフフと声を出して笑い始める
冬馬君は多網も泊まれるの嬉しいんだと思った
そして夏休み、うちに誰かしら泊りに来てるなと思い嬉しくなる
「多網二階で遊ぼう」多網は頷きついて来る
「多網何して遊ぶ?」
多網は暫く考えてから言った
「ト ラ ン プ」
「良いよ何やる?」
「ババ抜き」
これは何故か即答だった
しかし、冬馬君は知っていた。二人でやる程つまらないババ抜きはないことを。
どっちがババを持ってるか絶対分かるしババ抜きの醍醐味が二人じゃ全くなかった
「他のやろうよ」
多網は暫く考え
「ババ抜き」
よっぽどやりたそうだったので仕方なくババ抜きをやる事に、トランプを配り終えカードを見ると冬馬君の所にババはなかった
多網はいかにも自分はババを持ってない様な顔をしている、いやばれてるから。
そして冬馬君が多網の所からトランプを引く時、あからさまに一枚上に飛び出てるカードがあった。
冬馬君は、あれがババだなと即効で分かったので、その隣のカードを引いてみる。
冬馬君の引いた後、多網はチッと舌打ちをした
二人だから引いたカードは必ず揃う
多網も引いて揃いまた冬馬君の番
まださっきのカードが変わらず一枚飛び出ている
冬馬君は仕方ないから引いてあげようと思い、そのカードを引いた
その瞬間多網は体をねじらせて
笑った
笑った
笑った
よっぽど嬉しかったらしい
そのカードは言うまでもなくババだった
冬馬君は今度は自分のカードにババを混ぜ多網の前に出した。
多網は必死に考えている、そして目を急に見開く、あのしぐさをしてカードをさっと引く
持ってったのはババ
ババ
よっぽど悔しかったのか、歯を食いしばっているではないか。
また多網のカードを見ると一枚だけ不自然に上にあがっている
もう早く終わらせようと思い上に上がってないカードを引く冬馬君
ババだった
「フフッ」
鋭い眼で多網は笑った
こいつ何者なんだ冬馬君は苦笑いである。
結局ババ抜きは冬馬君が勝ち、多網は次もババ抜きと言ったが、もうやらず、しばらく二人で部屋でくつろいでいると。
突然、ハッと何かに気付き多網は外を指差してゲラゲラ笑いだす
何だ?
見ると、あのテルテル坊主ではないか。
何がおかしかったのか全く分からなかったが何かツボに入ったらしく暫く横に倒れて笑っていた。
身体はねじれせんべいのようになっている。ねじれ多網せんべい
笑い終わっては、またテルテル坊主を見て横に倒れて笑い始める
それを見ていて冬馬君までおかしくなって笑いだす
下から正子が「今日の夕飯のオカズ買いに買い物行くけど行く?」
と訊ねてきた
冬馬君と多網は喜んで行く事に。
車に乗って出発
三人は近くのスーパーへ
「多網何食べたい?」正子が訊ね
「キュウリ」
正子は想像してなかった返事に笑ってしまう「他には?」
多網は特に思いつかなかったのか、冬馬君の方に顔を向けた
冬馬君は焼肉と即答で答える
「良いねそれ」
多網も頷いた
焼肉の材料、それにキュウリを買って家に帰り、子供達も夕飯の準備を手伝う事に。
冬馬君は野菜を洗い、正子がそれを切り、多網はお皿を準備する
そうこうしてるうちに隆も帰って来た「ただいま」
「あっ多網 久しぶり元気だった?」
多網はフフッと頷いた
「今日は焼肉か何だか美味しそうだ」隆も子供のように嬉しそう。
さあ準備も出来たみんなで食べよう
リビングに運び
そこで、焼いて食べた
「いやービールに合うなー、多網もまだビール飲むには早いもんな」
「飲めるようになったら乾杯しよう」と隆
「多網は酒豪だったりしてな」
多網はホホッとさっきとは違う笑い方で笑う
多網が一瞬オラウータンに見えた冬馬君。やはり、みんなで食べる食事は最高だ。多網も凄く楽しんでいる様。
正子が野菜を台所に取りに行き、隆がトイレに行った時、突然多網が隆のビールをぐびっと飲んだ
冬馬君は驚いたが、多網は冬馬君にピースをしている
多網が酔ったら一体どうなるのか冬馬君は興味があった。
しーっと多網はジェスチャーしている
「了解多網」冬馬君は笑う
隆は戻ってきたが、自分のビールが減った事は気付いていない。
暫くみんなでテレビを観ながら食べていると、突然多網が立ち上がり両手を天にかざし 首を左右に動かしダンスを始める。
冬馬君は生涯この奇妙な踊りを忘れる事はないだろうと、即確信する。
冬馬君はこの奇妙な踊りを多網ダンスと命名した
正子と隆は突然のこのダンスに一瞬沈黙したが、あまりの奇妙な踊りに大笑い。まさか多網が酔っぱらってるとは気づきもしなかった。リビングは笑いに包まれ
さすがの蝉も今日は多網ダンスに驚いたのか、いつもより静かな気がした。
大笑いした賑やかな夏の夜、リビングでは多網の舞いならぬ、多網ダンスがまだ繰り広げられていた。




