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黒一の恩返し  作者: かずや


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30/45

人を見て我が身を知る

 食後のコーヒーを囲みながら月島さん親子と改めてテーブルを囲む

 宗馬は味わった事ない料理と良い経験をさせてもらった事に夢見心地でいるが、思い出したように席下にあった荷物を取る

「月島さんのお父様、こちらを」

(さとる)で結構ですよ」

「では…悟さん、快気おめでとうございます、こちらささやかですがお祝いと言う事で」

「私と桐生さんで選んだの、二人からって事で受け取って欲しいな」

 悟さんは困惑しながら受け取り見ても良いのか?と目で紫音さんに訊ねる

 もちろん、そう目で返した気がする

 言葉の要らない信頼し合う父娘らしいやり取りだ

 丁寧に箱を開け包装された袋を開けていけば中身が見えてきた


「これは…財布?しかも本革じゃないか?」

「お父さんがその革財布を長く育てるように、育てる身体が長くいつまでも元気で入れるようにね」

「革は手入れも必要ですが手を掛けて身に付けると年単位でその人のカラーが出ると聞きます、是非悟さんに育てて頂ければと」

 二人で想いを伝えている最中、悟さんは涙を流しだした

「ううっ…桐生さんに助けて頂いただけじゃなくこんな素敵な物まで…紫音も心配かけたな、ありがとう」

 紫音さんと目を合わせて成功したなとアイコンタクトを取るは

「桐生さん、私がお返しするつもりが貰ってばかりで本当に申し訳ない」

 悟さんが深々頭を下げて宗馬は慌てながら

「いえいえ快気されて僕に今日素晴らしい料理に体験させて頂いて感謝はこちらのものですよ」

 宗馬も深々と頭を下げる

「桐生さんには親子共々大変お世話になり感謝の言葉がありませんわ」

 間を置いて悟さんが語りだす

「…頭の痛みは感じながら我慢して仕事ばかり優先していました、あの日桐生さんに助けて頂いてなければ紫音を一人にしてしまったかもしれないし、この店も無くなった事でしょう」

 仕事にだけ打ち込んできたツケがきた、そう悟さんは語る

「今回の事で色々と決心も付きました、今キッチンにいるチーフはまだまだ修行中ですが後進を育てる事、紫音もまたこの店に深く関わってくれる事、大きな転換期のきっかけになったと思います」

 宗馬にも刺さる部分はあった、仕事に打ち込み長年一人でやってきたから知らない事、気付かなかった事を知ってきた

「桐生さん、重ね重ねありがとうございます、この革も育てこの先へと繋げて参ります」

「父とまた働ける事を大事に致します」

 何度目になるかわからぬぐらい頭を下げられる

 さすがにもうどう反応して良いかわからないまま頭を下げていた


 その後お店の事や悟さん、紫音さん、宗馬の事を談笑していれば時間も良い時間となり別れの時間となる

「素晴らしく美味しい料理感動しました!ご馳走様でした!」

「お気に召して下さり腕を振るえて良かったです、紫音駅までお送りしなさい」

「勿論、最後までエスコートさせて頂きますよ!」

「また良ければお店来させていただきます」

「是非!あ、名刺をお渡ししておきます、紫音は連絡取り合ってるんだな?」

「ええ、だからまたお誘い致しますね」

「ありがとうございます紫音さん、今度お茶でもしましょう」

「是非!この辺りはテナント多く父の店以外にも良い店ありますので紹介しますよ」

「まあウチが一番だがな」

「もうお父さんたら!」

 三人でひと笑いして解散をした


 帰り道、紫音さんと話しながらゆっくり歩く

「今日はありがとうございました、父はリハビリの辛さに落ち込んでたのですが久しぶりに楽しんで料理をする父が見れました」

「悟さんの動きは少し見ていましたが倒れたとは思えない元気さで安心しましたよ」

「あの、聞いて良いか迷うのですが桐生さんのご両親は…?」

「うちは徳島で農家やってるんで歳はいきましたが身体は強いですね〜今の所ピンピンしてます」

「ほっ、良かったです」

「でも紫音さんの立場になったらパニックになるでしょう、やはり親ですもの」

 自身の祖が脳梗塞で倒れる、考えたくないが人間何があるかはわからない

 しかし怯えてるだけでは生きていけない事実もある

 少し思っていると紫音さんが何か言いたげに見つめてくる

「どうされました?」

「あ!いや…桐生さんが私を紫音と呼んでくれるようになって嬉しいなと」

 そう言えばいつの間にか自然と呼んでいた

 店で悟さんが居たので苗字より名前の方が話しやすかったからだが

「…わたしも宗馬さんとお呼びして良いですか?」

 少し驚きはあったが特に拒む事もないだろう

「あ、勿論好きにお呼び下さい!僕だけ馴れ馴れしく下の名前で呼んでて申し訳ない!」

「うふふ、そんな謝らなくても、宗馬さんこれからも仲良くして下さい」

 ふわっとした笑顔で言われ時が止まる、綺麗な笑い方だな

「是非、宜しくお願いします」

 互いの名呼びに発展して今度はお茶しにいきましょうと次を計画し駅前で解散をした

 女性との交友経験が無いわけじゃないが、もう遠い記憶である

 情けなさを少し感じながら、これからだなと駅のホームへ入って行った


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