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種族チート持ちなのに無双できないヒロインは、静かに居場所をつくる  作者: 東雲 小百合
第一章

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34. 私の組み紐と、彼のーー

どのくらい、そうしていたのだろう。

ーーゴーン、と三限目の終了の鐘が響いた。


曖昧に溶け合っていた時間から、現実に引き戻される。


我に返って、自分の顔にこっそり《洗浄》をかける。


そしてーーリュカは、大切な問題がまだ残っているのを思い出した。


「組み紐・・・」


リュカがつぶやいた瞬間、アランがものすごく申し訳なさそうな顔になった。


「組み紐のことは、本当に・・・すまなかった。

ユミア王女に渡したものは、祖母が持っていたものなんだ」

「持っていた?」

「ああ・・・なんでも昔、色々あってノーヘイン王家のために作ったものだから、イールワード家からユミア王女への婚約祝いにふさわしいだろうと・・・」


どういうことなのかよくわからないが、少なくともユミア王女のために作られたものではないらしい。


「イールワード家からの、婚約祝い・・・」

「くれぐれも、俺個人ではなく、イールワード家からの贈り物だと強調しろと・・・。

だから、渡す時もちゃんと、イールワード家とノーヘイン王家の親交の証として、お手元に置いていただければ・・・と伝えたんだ」


それで、とアランが言葉を続ける。


「リュカの組み紐は・・・実はもう、準備してある。ただ、その・・・どうやって渡せばいいかと・・・」

「・・・?

この前言ってた故郷の組み紐だよ、って言ってくれたら、ちゃんとわかるけど・・・」

「いや・・・その・・・」


これは最近の、言葉をよくにごすアランだ、とリュカは思った。


「・・・その、恥ずかしいんだが・・・一通り、見てくれるか?」


一通り?と聞き返す前に、アランは制服のポケットから二本の組み紐を取り出した。


一本は、リュカの瞳のような深い紅が美しい組み紐。


もう一本は、リュカの髪を思わせる、光沢のある白銀色の糸の中に、ちらちらと淡いピンクや水色、オレンジが現れる、可愛らしい組み紐だった。


「これ、ひょっとして・・・」

「・・・・・・リュカの目と、髪をイメージして()()()んだ」


リュカは瞬間、自分の耳を疑った。


「・・・組んだ?」

「ああ。材料を送ってもらって、俺が魔力を込めて作った。

技術では専門の職人には遠く及ばないが」

「・・・えっ、アランの手作り!?」


思わず組み紐を手に取って、まじまじと見る。


たしかに、アランの強い魔力が込められていた。


とても手作りとは思えないほど綺麗に作られており、素材からも溢れ出しそうな高い魔力を感じる。


「私をイメージして、アランが作って・・・組んでくれた、組み紐」


なんだか呆然と組み紐を見つめてしまう。


今日は感情が忙しすぎて困る。


こんなにうれしい贈り物が、世の中にあったとは。


ーー知らず知らず、ため息が漏れた。


「っ、その、気に入らなければ他にもある!」

「えっ!?いや、違

「これと、これも・・・」


次にアランが出してきたのは、水色の組み紐と、ピンク色の組み紐だった。


絶妙に色の違う糸で組まれた紐は、艶やかでとても美しい。

どちらも、リュカの好きな色だ。


「わ、どっちも可愛い・・・」

「よかった・・・すごく、迷っていたんだ。リュカがどんな色を好きか、わからなくて」


アランが安心したように笑った。


「あの・・・さっきの、私をイメージして作った組み紐も、すごくうれしかったんだよ。

なんか感激して、思わずため息が出ちゃっただけで」

「・・・そうか」


リュカの言葉を聞いて、アランは嬉しそうにーー本当に嬉しそうに、微笑んだ。


(う、わ・・・今の笑顔、めちゃくちゃ、可愛い・・・)


「喜んでもらえてよかった。

・・・実は、最初はこんなものを組んでいたんだ」

「ん!?」


アランはポケットから、さらにもう二本を取り出した。


一本は黒の中にわずかに藍色がのぞく組み紐。

もう一本は、アランの瞳を思わせる、淡い水色や青、藍色のグラデーションの組み紐である。


「あっ、この黒いのって、アランがつけてるのと同じ・・・?」

「っ、あ、ああ・・・」

「こっちの青系グラデーションは、アランの瞳のイメージ?」

「ああ・・・」

「わぁ!アランとお揃いとか、アランの瞳の色とか・・・どうしよう、すごい、うれしい・・・」


リュカが目を輝かせているのに気づいたらしく、アランがまた首を傾げた。


「・・・うれしいのか?」

「もちろん!・・・だって、好きな人とお揃いって、なんか素敵じゃない?

それに、恋人同士でお互いに相手の色の物を持つのって、エオルテではすごく・・・」


言いながら、リュカは段々と自分の顔に朱が昇ってきたのを感じていた。


(好きな人・・・こ、恋人・・・)


「・・・エオルテでは、それが流行っているのか?」

「あ、えっと・・・なんか、お互いを大切に想ってる、って意味で・・・すごくラブラブな恋人同士が、よくやるの」

「ラブラブ・・・」


神妙な顔で「ラブラブ」とつぶやいているアランが、なんだかおかしかった。


「マナでも、お互いを想い合う恋人同士は、相手を連想するようなものを身につけるそうだ。

・・・祖父はいつも、祖母の髪と同じ色の石を身につけている」

「おじいちゃん、おばあちゃんのこと大好きなんだね」

「ただ・・・恋人にそれを強いると、独占欲が強過ぎると言って・・・嫌われるらしい」


一瞬、英雄バルダシルが愛する妻に怒られているイメージが脳裏に浮かんだが、リュカは頭を振ってそれを振り払った。


「恋人ならともかく、親しい友人の関係性にすぎない想い人に、自分の色のものを贈るのは・・・その・・・だから、別のものを組んだんだ」

「そっか・・・・・・でも、どれか一本選ぶんだったら、私はこのどっちかがいいな」


お揃いの黒にするか、アランの瞳のような青にするか、とても迷う。


そしてふと、自分のポケットの中身のことを思い出した。


「あっ!・・・あの、実は私もプレゼント・・・お返し?があるんだ」


リュカはポケットから、簡単なラッピングが施された小箱を取り出した。


「組み紐がいくらくらいのものか全然わからなかったから、もし高価なものだったらって・・・師匠にもらった“とっておきの魔石”なんだけど」


そっとアランの方を見上げると、彼は少し顔を赤くして、口元に手を当てていた。


「・・・俺もラッピングすればよかった・・・」

「えっ・・・そんな、全然気にしないで!」

「いや・・・ありがとう。開けてみていいか?」

「うん!」


小箱を手渡すと、アランは緊張した面持ちで開封し始めた。

包装紙とリボンを丁寧に折りたたんでポケットにしまい、中に入っていたケースをそっと開ける。


ケースの中に入っていたのは、黒っぽい石のついたピン型のブローチだった。


「この石は・・・それに、すごい魔力が・・・」

「《守護》のお守りにしてみたんだ」


ポケットの空間拡張魔法や、ケースにかかった魔法効果でごまかしてあったが、ピンーー石に込められた魔力はかなりのものだ。

リュカ自身、なかなかがんばって《守護》を込めたと自負している。


「師匠が、小粒だけどすごく魔力の強い良い石だから、好きな魔法を込めればいいよって」


《守護》の魔法を使いながら、石の中の魔力を自らの魔力で包み込んで誘導すると、石自体の魔力が《守護》の魔法に染まる。

リュカにとっては、石に同じ魔法を使ってもらうよう、お願いするイメージだ。


「・・・やはり、ブラックオパール・・・しかも、遊色効果もある・・・」

「あれ?珍しい石なのに、知ってたんだ」


リュカは少し恥ずかしくなった。

石のことを知っているなら、自分が密かにそこに込めた意味もわかってしまうかもしれない。


「えっと、この石をもらったのは、学園に入学するより前で・・・」

「・・・角度を変えると、水色や青や・・・赤、が見えるんだな」


普段はほぼ黒っぽい石で、少し青だけが出ているはずだが、オパールの遊色効果を知っているアランはすぐ変化に気づいたらしい。


「俺の目の色と、リュカの目の色だ・・・」


一瞬で気づかれてしまった。


どんどん恥ずかしさが増していき、アランの顔をまともに見られない。


「あ、あの・・・」

「それに銀色の金具は、リュカの髪の色みたいだ」

「そ、それは!加工してもらう時に、黒い石なら銀色がいいだろうってオススメされただけで・・・わざとじゃ、ないんだけど・・・」


全身から火が出そうだった。


準備していた時は素晴らしい思いつきのような気がしていたのに。


よくよく考えれば、なんて独りよがりで重たい物をお返しにしようとしていたのか。


「その、ごめ

「ありがとう・・・すごく、うれしい」

「ん?」

「毎日つける」


リュカが顔を上げると、アランがケースを大切そうに胸に抱いているのが見えた。


「・・・つけてくれるの?」

「ああ、もちろんだ。すごく、気に入った」

「そ・・・そっかぁ・・・よかった」


とりあえず結果オーライということだろうか。


リュカが胸を撫で下ろしていると、アランが神妙な顔をして言った。


「これほどの魔石には、組み紐六本じゃつり合わないな・・・」

「えっ!?」

「俺も故郷から魔石を送ってもらうか・・・」

「え゛っ!!?待って、待って!!・・・あの、組み紐、六本ともくれるの?」


リュカが思わずアランの腕に手をかけると、彼はうれしそうに微笑んで、その上から自分の手を重ねた。


「ああ、リュカさえよければ、六本とももらって欲しいが

「本当に!?・・・やったぁ!!」


リュカが満面の笑顔になると、アランはまた少しだけ首を傾げた。


「うれしい、のか?」

「もちろん!全部素敵だから、一本だけ選ぶの迷ってたし・・・全部もらえるなら、本当にうれしいよ」

「そうか・・・それなら、よかった」


アランはホッと息をつくと、リュカの手をそっと撫でる。


「俺の魔力で作った組み紐なら、リュカには簡単に切れてしまうかもしれないな・・・切れたらまた新しいのを組もう」

「切らないよ!?・・・えっ、もしかして、ものすごく切れやすいとかある?」

「いや、使用者の方が魔力が高い場合は、素材の強度そのままだ。

そんなに簡単には切れないと思う」

「よかった・・・」


ふと、沈黙が落ちた。


二人ともなんとなく触れ合ったまま、見つめ合う。


「リュカ」

「ん、なぁに?」


いつもよりちょっと甘えたような声で応えてしまい、少し恥ずかしくなる。


「俺と・・・付き合ってくれるか?」

「っ、うん!」


食い気味に即答してしまって、余計に恥ずかしさが増した。


アランはと言えば、やはりとろけるような目でこちらを見ている。


「・・・あの・・・《よろしく、お願いします》」

「ああ・・・《これから、よろしく、頼む》」


うれしさを噛みしめるようなアランの言葉に、段々と実感がわいてくる。


(うわぁ・・・両想いなんだ・・・付き合うんだ・・・)


見つめ合っているととても幸せだが、同時にとても恥ずかしい。


なんだか体が熱いような気がする。


アランのとろけるような視線からつい目を逸らすと、彼がリュカの手をそっと撫でてきてーーものすごくドキドキする。


(えっと・・・)


うまく回らない頭で必死に考え、ようやく伝えるべき言葉を思いついた。


しっかりとアランの目を見つめて、言葉を紡ぐ。


「あっ、あの・・・今度、《デート》しよう!アランは《そのピンつけて、私は組み紐つけて》・・・私もカフェとか、行きたい」

「!!!」


つい言葉がごちゃ混ぜになってしまったが、通じただろうか。


私も、というのは、少し嫉妬っぽかっただろうか。


ーーそんなことを考えていると、アランの顔がパッと赤くなった。


「ああ・・・その、《たくさん、デートする》・・・しよう」


アランは言い終わると口元を手で覆い、目線を逸らしてしまった。


彼もどうやら恥ずかしいらしい。


それから、自分はアランのカタコトの魔法言語もツボらしいと気づいたリュカだった。


「・・・うん!」


心からの笑顔でアランを見つめると、彼はこちらに視線を戻して、リュカをやさしく見つめ返した。


つないだ手も、アランの眼差しも、全てが真っ直ぐにリュカへの想いを伝えている。


リュカはアランの手に指を絡めると、そっと彼の手を握り返した。

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