第28話 まさに宝の山ではないか!
次の休日、ボクは乗合馬車で王都へとやってきた。
学園長と一緒ではない王都いきはこれがはじめてになる。
そしてそのまま、王城へ。
「シーアルドさまですね。お話はうかがっております」
執事さんっぽい人にそういわれて、中へと案内してもらう。
学園長にいわれた通りの受付へと向かうと、ちゃんと話は通ってた。
よかった。
途中で執事さんとメイドさんが交代した。なぜか護衛騎士さんっぽい人もメイドさんと一緒にいる。
この護衛騎士さんとメイドさんは知ってる。
特にメイドさんは掃除の魔法でびっくりした顔をよく覚えてる。
ふたりとも、女王陛下との私的な謁見の時にいた人だ。
護衛騎士さんはなんていうか……執事姿になっててすぐにはわからなかったけど、剣を腰に下げてたから思い出した。
……つまりボクの掃除の魔法のことを知っている人を選んだのか。
やっぱり女王陛下はできるだけボクの掃除の魔法を隠し通すつもりみたいだ。
今はそれで問題ない。ボクにとっても。
でも、その先は……?
……学園長や女王陛下はどう考えてるんだろうか?
女王陛下はまだまだ幼女枠だから、特に考えてないかもしれないけど。
この国の上の方の人たちがボクをどうしたいのか、か。
探れるものなら、探りたい。
……さすがに直接学園長に聞くのはダメだろうし、そんなことをしても教えてくれるとは思えない。
それに、ろくでもない扱いをすると決めたら、絶対に教えないようにするはずだ。
「……あの時以来ですね。あいさつするのははじめてになりますが、シーアルドです。よろしくお願いします」
「……覚えていたのか……」
「はい。陛下の後ろ、侍女さんの横にいらっしゃいましたよね」
「では、こちらの……」
「もちろん、覚えています」
「そうか……」
……これは、ボクが覚えてないっていう前提で動いてた?
まあ、あの時はめちゃくちゃ緊張してた上にそれを演技で大げさにしてたから、そういう風に思われても仕方がないか。
護衛騎士さんもメイドさんも、どっちもびっくりしてる。
ボクからしてみると……ふたりとも身分ではボクより上に思えるから、あの場では覚えなきゃダメだって考えてたんだけど。
メイドさんはあいさつを交わすような立場じゃないし、目礼だけでいいと思う。
でも、護衛騎士さんは立派なお貴族さまである可能性が高い。
ボクが名乗ってあいさつしたのに、名乗り返さないってことはかなり高位の貴族なのかもしれない。
……女王陛下の護衛騎士ならそういうものか。
「……案内する」
護衛騎士さんがそういうと、メイドさんと並んで歩き出した。
……本当の案内役はメイドさんの方で、護衛騎士さんは見張り、かな。盗んだりする気はないけど。
ボクは黙ってそのままふたりの後ろを歩いた。
「……本当に大丈夫なんだろうな?」
「はい。あの時、ご覧になりましたよね?」
護衛騎士さんの確認に、ボクはにこやかに返事をした。
そもそも掃除の魔法はボクが厳密に操ってるわけじゃない。
起句を唱えればカードが消えて魔法が発動する。それだけなのだ。
ボクにできるのは範囲指定くらいしかない。
すでに魔力視でこのふたりの魔力は確認した。
この魔力量ならボクの魔力がみえるとは思えない。魔力の本も、カードも、だ。
「だがこれは……新国王が即位する時に使う宝剣だぞ……本当に大丈夫か?」
「あなたの剣で一度、試してみてもいいですよ?」
ボクは今、ちょっとした宝物庫にいる。
お宝の掃除は大変なんじゃないかと思って……女王陛下への感謝の気持ちという表向きの理由で、ボクが掃除しましょうかって話を学園長に持ち込んでみた。
ほら、王城の宝物なんて、なんか魔法が使えそうなくらいすごいものっぽいと思うんだよな。
この宝剣なんて、シュッと抜いただけで斬撃が飛び散りそうな感じとかするし。
……あ、ピカピカしてる。
びっくりした。
いきなりピカピカしはじめるから。
護衛騎士さんとメイドさんは宝剣のピカピカに気づいてないようだ。
「……それならやってみせてくれ」
「はい」
ボクは宝剣のピカピカを気にしながら、護衛騎士さんの剣を受け取る。
ほうき1本のカードはセット済みだ。
頭の中に起句が浮かんで……この剣を範囲指定するイメージで……よし。
「『使用』」
光が剣を包み込むように動いてから、消えていく。
「お返しします」
「あ、ああ……すまないな……」
「どうですか?」
「あ、いや……おかしい……このあたりに小さな刃こぼれがあったはずだが……」
「……そこも綺麗になったのかもしれませんね」
「そんなバカな……」
……そんなバカな。ボクもそう思う。
刃こぼれを直すのはもはや掃除ではないのでは!?
いや、でも……今は好都合かもしれない。
「これなら宝剣も大丈夫だと思いますけど、どうでしょう」
「あ、ああ、そうだな……」
護衛騎士さんとメイドさんはふたりとも改めて驚いてる。
本当はボクも一緒に驚きたい。
でも今は……はい。新しいカードが手に入った。
わくわくしてくる。
宝剣からは剣を振って何かが飛んでいく感じの絵、か。
ボクのイメージ通りだな……?
「では、『使用』」
起句を唱えると、光が宝剣を包み込んで……鞘の小さな宝石までピカピカになった。
鞘まで綺麗にしたのは、カードをもらったから、そのお礼ってことで。
ありがとう! 宝剣!
「では、また。毎月というのは難しいかもしれませんけど、半年に1回くらいならお手伝いできますので」
「はい! ぜひ! なかなか難しい場所もありますからすごく助かると思います!」
そう明るく答えてくれたのはメイドさんの方だった。
なんかね、あれだ。
彫刻タイプの家具が備え付けられてる部屋とか?
ボクが泊まるこの部屋じゃないものすごく豪華な客室の方だ。
たぶん『雷撃の魔術師』なんかはこっちで泊まったんじゃないかな。
暖炉の中心に獅子の顔とかあるんだよ。もう意味がわからない。
でも、そういう彫り物の掃除は細かいし、難しいし……力を入れすぎると壊れることもあるらしい。
もうね、掃除の魔法が大活躍だよ。
お陰でメイドさんからの視線がやわらかくなって仲良くなれました。
宝物庫ではイメージしてた魔法のカードがいくつか手に入ったし。
魔法学園でも探してみた方がいいかもしれない。
まだ入ったことがない場所も多いし。
「……そういえば、いつもこの部屋を出る前に掃除の魔法をお使いになってますよね?」
「あ、バレました……?」
そう。
ボクはいつもの部屋……といっても3回目だけど……に案内された。メイドさんに。
どうやら泊まっていけということらしい。
これには……予定よりもいろいろな場所を掃除の魔法で綺麗にして、その結果として乗合馬車の時間に間に合わなくなってしまったという事情がある。
ボクは王都の宿屋に泊るっていったのに……どうしてこうなった?
「いつもありがとうございます」
「い、いえいえ。ボクはその……こんなところに泊ると緊張して、汚したら弁償とか怖いので綺麗にしようって思っただけで……」
「緊張なさらず、ゆっくり休めるといいのですが……ふふ、そういえば……」
「はい?」
「ベッドの天蓋についてお尋ねでしたね、あの時は」
「ああ、はじめてここに泊った時に教えていただきましたね」
そうだった。
そんなこともあったなぁ……今となってはもう懐かしい……ってほど昔の話でもないけど。
「では、ごゆっくり」
「はい。ありがとうございました」
……護衛騎士さんはすごく微妙な表情だったけど、メイドさんとは少し仲良くなれてよかった。
ベッドに腰かけて、ボクはにやりと笑う。
別にメイドさんと仲良くなって喜んでるわけじゃないからな?
お城の宝物庫で魔法のカードを手に入れよう大作戦が成功して嬉しいんだよ?
宝剣だけじゃなくて、盾、杖、それになんとか4世が仮面舞踏会でかぶった仮面なんてものからも新しい魔法のカードが手に入った。
予想以上の大収穫だ。
今回の王城での掃除が噂になって……ボクの掃除の魔法のことを知ってる大貴族からそれぞれのお屋敷の宝物庫の掃除の依頼とかが入れば……。
ますます魔法のカードが増えるかもしれない。
……でも、種類が増えすぎると、時間切れで消えてなくなるカードも増えてしまうのが問題だろう。
どういう順番で増やしたり、合成したり、分解したりするのか……もっと考えた方がいいのかもしれない。
どうにかしてカードの保管ができればいいんだけど、寮の部屋とかに置いたままにしておくとすぐに消えてしまうから持ち歩くしかないんだよな……。
まあ、いい。
今はできることから、だ。
ここでは本当に実験できないけど、今のボクには『試用』がある。
魔力の本の使い方もわかってきたし……。
それにしても、魔法が使えるいろいろなカード、か。
ボクの『なんとか魔術師』はきっと、『カードの魔術師』なんだろうな……。




