0720・恋人になった日
「ふう………暇ねえ。コトブキも神の遊戯に行ってるし、部屋で【舞踏】の練習をしててもね。張り合いも何も無い。………そういえばキャスティはどうせ畑でしょ。ならせっかくだから揶揄いに行きましょうか」
そう言ってプレイヤー<コトブキ>の使い魔であるラスティアは、自身のプライベートルームから外に出た。
その日は何故か【舞踏】の練習をしている時用の、いつもとは違う薄い服装のまま畑へと向かう。
そして移動した先の畑では、いつも通りに【純潔】の天使であるキャスティが畑仕事をしていた。
その姿を見つけたラスティアは、近くに寄ると話しかけつつ【舞踏】の一つである【劣情の踊り】を舞う。
「今日も同じように農具を持って大変ねえ。暇だから見に来たけど、相変わらずやってる事は変わらないし、それって楽しいの?」
「楽しいですよ。ここでは一日で作物が出来ますけどね。まあ、私もスキルを使えばやってやれなくもありませんので同じですが、それでも色々な違いがあって面白いと思えます」
「ふーん………♪」
「それよりも何で今日に限って私の所に来て踊るんです? 何かありましたか?」
「単にコトブキが神の遊戯に行ってて、ここから出られないし暇なのよ。キャスティと同じでサブ職業のスキルを取り戻さないといけないけど、こうも同じ事の繰り返しだとねぇ……」
「気持ちは分かりますが、他所でやってもらえませんか? 私に踊りの効果が出たらどうするんです?」
「出るわけないでしょ。これは【劣情の踊り】よ? 既に悪魔の星じゃ使用は禁止されているでしょうし、おそらく踊れるのも私ぐらいでしょうけど、こちらに性欲を向けている相手にしか効かないもの。これ、オークとかに使う踊りよ? キャスティに効く方がビックリするわ」
「だとしても、近くで踊られても迷惑です。せめて訓練場で踊って下さい。私は畑を耕してる最中なんですから」
「いいじゃない。暇なんだし少しは付き合いなさいよ」
ドンッ!
ラスティアが軽口を叩いた途端、キャスティは鍬を地面に叩きつけた。
いきなりのキャスティの豹変に驚くラスティアは、何か怒らせる事があっただろうかと考える。
その考える時間が良かったのか悪かったのか、ラスティアは次のキャスティの行動に対して反射的に動く事が出来なかった。
「んぅっ!? ………ん、チュッ………キャスティ?」
「先程の【劣情の踊り】が私に効いていないと本気で思っていたのですか? 貴女は【色欲】の悪魔です。そんな事はありませんよね?」
抱き締められながら、そう真剣にキャスティに問われたラスティアは、少し顔を赤くしながら横を向いて話す。
いつもとは違い、とても小さな声で。
「効くというのは分かってたわ。でも、どれぐらい効くかは分かってなかった。まさかそこまで効くなんて……。効けばいいな、ぐらいにしか思ってなかったから」
「つまりラスティアは私に効いてほしいと思っていた、という事ですね?」
「それはま、あっ……んっ、チュ……あむ………」
「はぁ……んむ、チュ………んん……」
二人のキスは優しいものから段々と情熱的なものへと変わっていく。
そして唇を離したキャスティは、おもむろにラスティアを抱き上げると、お姫様抱っこで移動を始める。
「えっ? ちょ! キャスティ、急になに!? 別に嫌じゃないけど、急にどうしたのよ?」
「私に【劣情の踊り】を使ったのですから、しっかりと責任をとってもらいますよ!!」
そう言ってキャスティはラスティアの部屋へと、お姫様抱っこをしながら連れて入る。
実はその光景はセナとセスが目撃していたのだが、二人は事が終わるまでそれに気づく事は無かった。
…
……
………
一回戦が終わって事後、暴走していたキャスティも大分落ち着いたようで、ベッドの上で若干凹んでいた。
とはいえ、それは後悔とは全く別種の思いである。
「勢いに任せてやってしまったのは失敗でした。これでは【純潔】の天使として情けな過ぎます。もうちょ、あん! 何処を触ってるんですか、ラスティア!」
「えーっと、大きな膨らみの頂点? いやぁ、大きいのは分かっていたけど、本当に大きいわねえ。それっ」
「きゃっ、ちょっとラスティア、顔を埋めないで下さい。貴女は子供ですか?」
「んー、これを味わえるなら子供でもいいかも……」
「いったい何を言ってるんですか、貴女は……」
そう言いながらも、優しい手つきでラスティアの髪を梳き、頭を撫でるキャスティ。
そこには悪魔を目の前にしているとは思えない、本物の慈愛が篭もった眼差しの天使がいた。
「それにしても、貴女とこんな風になるとは思ってもいませんでした。きっと大天使様との繋がりが、ここでは無いからでしょうね」
「私もそう思う。今日あんな大胆な事をしたのは、きっと大悪魔との繋がりが無いからだと思うわ。もしあったら、きっと私は【色欲】である事を優先してた」
「でしょうね。私だって今まで【純潔】としての立場を優先し続けてきましたし、貴女と何度も殺し合いを続けてきたのです。ここが天使の星でも悪魔の星でも、きっと私達はこうなれない」
「ええ。……チュッ! 貴女は私が最も殺そうとし続け、最も殺し合いをしてきた相手」
「そうです。私にとっても同じ、最も殺そうとし続け、最も殺し合いをしてきたのが貴女」
「だからこそ、私の次に最も私を知るのはアナタ」
「同じく。私の次に最も私を知るのがアナタ」
「私達は最も近く、最も遠い存在でしかなかった。……今までは」
「ええ。最も理解していながら、最も離れた存在でした。……今までは」
「ここならば大天使にも大悪魔にも見られていない」
「ここならば大悪魔にも大天使にも聞かれていない」
「だからこそ、素直に言える」
「だからこそ、本心が言える」
「愛しているわ」 「愛しています」
「「誰よりも」」
真剣な表情でお互いに語る天使と悪魔。
そこには長い戦いの果ての、怒りも怨みも憎しみも何も無かった。
あるのは互いに対する好意と愛情。
本心でないものを削ぎ落とし、残ったのが二人ともそれだけであったのだ。
「………ぷっ! あーあ、遂に言っちゃった!」
「ふふふ。ええ、言ってしまいましたね。本当の想いを」
「私達いつからこうなったのかしら? 気付いたら愛していたのよ。自分でも分からない間に」
「きっと殺し合いの果てにそうなってしまったのでしょう。お互いに、お互いを知りすぎたが故に」
「そうかもね。お互いの知られたくない事も知ってしまっているもの。今さら相手に隠す事も隠せるものも無いし」
「ええ。私が初めて好きになった男性に手酷いフラれ方をした所為で、【純潔】を貫く決意をしたのもバレてますしね」
「【純潔】を貫く理由が超俗っぽいのよねえ。でもそれで良かったわ、今は私のものだし!」
「あんっ。もう、ラスティアは甘えん坊ですね」
「ここなら甘えても許されるもんねー」
「だったら私も甘えさせてもらいましょう」
「あんっ。もう、キャスティもヤる気じゃない。【色欲】の私に勝てるかしら?」
「こちらの戦いなら幾らでも受けますよ、ラスティア。ですので、お互いの立場での争いは、もういいでしょう?」
「ええ、私も争う気なんて無いわ。そんな真剣な顔をしなくても大丈夫よ」
「その言葉、信じますよ。私の愛する人」
「ええ、決して違えないわ。私の愛しい人」
二人は再び重なり合い、何度も何度も愛を紡ぐ。
そうしてこの日、悪魔と天使は恋人となった。




