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0709・美味しい魔物




 僕達は暑い溶岩地帯を進んで行く。

 実際に溶岩地帯と言っても、溶岩は遠くに見えているだけで近くには無い。

 ただし猛烈に暑いので溶岩の影響は確実に受けているだろう。

 二人は別の意味で熱いらしいが。



 「コトブキは食べた事が無いんでしょうが、<赤美味豚>は簡単に出会えるようなモンスターじゃないのよ。何たってダンジョン内には出現しないんだもの。ここは神の試練だから出てくるみたいだけど、天使の星でも悪魔の星でも出てくるダンジョンは無いのよ」


 「そうです! 危険な火山の近くに行かないと出て来ないうえ、この<赤美味豚>というモンスターはすぐに逃げる事で有名なのです。ここでは逃げずに襲ってきてくれますが、天然物はすぐに逃走するんですよ?」


 「おまけに昔の王侯貴族が食べたさに乱獲させたから、その所為で絶滅寸前なのよ。つまり<赤美味豚>は私達でも簡単に食べられない食材なの。そんなのを前にして、抑えろという方が無茶でしょ!」


 「本当にラスティアの言う通りです。絶滅させない為に、私達でさえ手が出せなくなった幻の肉。それがここでは狩り放題! ならば狩るに決まってます。当たり前の事ですよ!」


 「あっ、そう……。ま、出てきたら狩るって事で。皆、行こうか」



 僕は然してテンションも上がらないまま、皆と共に奥へと進んで行く。

 二人はいかに貴重な物か力説してくるんだけど、僕にとったら唯のモンスターだからね。

 二人と同じ感情は、申し訳ないけど持てない。



 「そもそも僕は食べた事が無いし、ここには幾らでも居るんだよ。だから貴重だとか言われてもねえ……」


 「ああ、そうでした。食べた事が無いなら分からないでしょう。あの蕩ける脂と肉のマリアージュは」


 「私なんて、いつ食べたかの記憶すらもう曖昧よ。ただ猛烈に美味しかった事だけは覚えているわ。それだけは忘れてないわね」


 「本当にここで出てくる<赤美味豚>が、二人が知っている<赤美味豚>とは限ってないけどね。肉質とか脂の質とかが違う可能性は高いし」


 「………うーん、どうなんでしょう。ちょっと冷静になりましたけど、確かに同じ肉質かは定かじゃないんですよね。仮に天然物と違うなら、そこまで感動する味ではないかもしれません」


 「えーっ………せっかく久しぶりの<赤美味豚>なのに、それは勘弁してほしいわね。とりあえず<赤美味豚>なんだから、一定の美味しさは絶対にあるでしょ。なら美味しい筈よ」


 「そもそもだけど、そういう記憶って昔を美化しているだけなのが多いから、そこまで美味しくないと思っておいた方がいいよ。もう一度食べてガッカリするっていうのは聞くしね」


 「「………」」



 二人とも何かを思い出そうとしている感じだけど、僕達はそれを無視して進んで行く。

 黒い土のような場所の上を歩きつつ、植物など生えていない岩だらけの中を進んでいるので、モンスターからはよく見えるらしい。


 その所為かは分からないけど、結構な頻度で僕達は襲われている。

 それでも強敵ではないので大した被害は受けていないし、簡単に勝利していく。



 「ヒートスライムは温度を上げてから倒すで正解だったね。<ヒートゼリー>と<ヒートスライムの抜け殻>が手に入ったよ。このスライムを使うと品質が更に上がりそう」


 「魔鉄系に使うのもいいけど、魔鋼系に使えばいいんじゃない? どっちかって言うと、そっちの方が強いのが出来そうよね」


 「そうですね。<錬金術師>であれば魔鋼を作るのも難しくはない筈なので、<破滅>殿に聞けば教えてくれると思いますよ。魔鉄よりはマシな装備になるでしょうし」


 「<鍛冶師>が作るとコストが掛かるんだっけ? <錬金術師>の場合は腕が問われる素材だった筈。そろそろ光結晶製も危険水域に来たし、魔鋼系を保険として作っておくのもいいと思うわよ」


 「ええ。今さら弱い魔鉄に戻るのも厳しいですからね。そこまで戻されるよりは、魔鋼系の方がマシです。コトブキは品質の高い炭も作っていましたしね。それなら質の良い魔鋼を作れるでしょう」



 うん?

 キャスティの今の言い方だと、もしかして炭の炭素を【抽出】しながら【合成】する感じかな?

 鉄と鋼の差なんてそんな物だし、可能性としてはありそう。

 その時にヒートスライムの素材を混ぜ込むんだと思う。


 とりあえず魔鋼は横に置いておくとして、モンスターが多いので真面目に戦いながら進んで行くかな。

 今は光結晶製の槍ではなく、重結晶製の棒に変えている。

 攻撃力としては落ちたが、代わりに破壊力が上がっているので然してダメージが変わってないね。


 <赤美味豚>の頭を殴ると昏倒するようになったので、そういう意味で戦闘はむしろ楽になった。

 ここは槍よりも棒で進むべき場所みたいだ。

 このままであれば。


 何故そんな言い方をするかと言えば、こいつが現れたからだ。



 ―――――――――――――――


 <赤足蟹> 魔物 Lv85


 真っ赤な色をした蟹のモンスター。陸生の蟹だが手足が大きく、そのうえ前の二本の足は鋭く尖っており、それを突き刺してくる。【火魔法】も使ってくる厄介なモンスターだが、最も厄介なのは甲殻や殻の堅さだ。弱点の水属性や氷属性で戦おう


 ―――――――――――――――



 「こいつは殻が堅く防御が高いタイプみたいだ。水属性か氷属性で倒そうか」


 「なら私とセスね」


 「カタ!」



 自分の出番だと分かったからか、張り切って【アイスショット】を放つセス。

 本当に気に入ったみたいだけど、そればっかり使われても困る。

 もうちょっと色々と使ってほしい。


 そう言うと【スタンボール】を何故か撃ち出すセス。

 それは効かないと意味が無いと言おうとしたら、一回で効き、崩れ落ちる<赤足蟹>。

 もしかしたらだけど、こいつ【雷属性】に弱いんじゃ……。


 ラスティアが【ブルーボム】で攻撃すると、気絶から回復したのか起き上がる。

 が、【スタンボール】を喰らうと再び失神。崩れ落ちた。



 「マジかー……。ここまで【スタンボール】に弱い魔物が居るとは思わなかったよ。まさか放てば確定で気絶するなんてさ。この状態を活かして簡単に倒せないかな?」


 「どうでしょうね? 気を失っているからチャンスではあるのですが、蟹ですしね……」


 「そもそも弱点って何処よ? 甲羅を剥がせば倒せるでしょうけど、そう簡単な事じゃないわよ。結局は弱点で攻撃した方が手っ取り早いんじゃない?」


 「そうだね。さっさと倒すとしようか」



 再びラスティアが【ブルーボム】を使って倒すも、得られたのは<赤足蟹のスカスカな足>だった。

 どう考えても美味しくなさそうな名前なので、絶対に失敗だろう。


 つまりは<赤足蟹>も<ヒートスライム>と同様に弱点を攻めて倒してはいけないモンスターだという事になる。

 流石に「スカスカ」と書いてある物が正しいドロップアイテムとは思えない。



 「まあ、流石にそんな美味しくなさそうな物は失敗でしょうよ。スカスカな物なんて美味しくないって決まってるしね」


 「スカスカな肉、スカスカな魚。どっちも美味しそうには聞こえませんね。となると失敗で確定でしょう。食べ物は美味しいのを手に入れたいですから、頑張りましょうか」



 食べ物に対して気合を入れているのは二人だけなんだよね。

 僕は食べた事が無いから分からないし、他の皆はそもそも食べない。

 なので張り切るのは二人だけでしかないし、僕に同意を求められても困る。


 僕も食べれば変わるのかもしれないけど、今のところは食事なんて出来ないから無理だ。

 なので食べたい二人に頑張ってもらおう。


 食べたい人が一番頑張るべきだし、二人もそのつもりで<赤美味豚>を狙ってたんだろうしね。


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