0592・第五回公式イベント その16
武器が上から振ってくるけど、僕はそれに見向きもせず調べる。とにかく重要なのは、お仕置きモンスターの位置と黒チームの位置だ。聖人か魔女かなんて見た目じゃ判断はつかない。だからこそ近付かない事こそが最も大事な事となる。
とりあえず近くのお仕置きモンスターである羽の生えた蛇から遠ざかり、距離をとって周りを確認する。誰も彼もが入り乱れた乱戦であり、周り全てが敵でしかない空間。そんな中において安全を確保するのは無理だ。
安全を求めるのではなく、危険を排除し続けるしか道は無い。だからこそ僕は攻撃してくるプレイヤーに対し、遠慮なく管槍での突きをお見舞いした。乱戦だと突くだけの方が都合が良い。
「ぐぶぇ!?」
「くそっ、またやられた! あそこまで輝いているんだ! おそらくネクロ氏は1死もしてない! 皆ばぁ!?」
「言ってる傍から殺られやがって! ポイントの無いヤツは集まれ、何としてでもネクロ氏を倒すんだ! 数の暴力で攻めれば勝てる!!」
「まあ、数の暴力ほど厄介なものは無いけどね。でも数を使ってくるなら逃げるに決まってるじゃん」
僕は敵となるプレイヤーを殺しつつ、空いたスペースに踏み込みつつ逃走する。お仕置きモンスターに殺されている者も多く、確実に乱戦模様となっているのは僕にとってプラスだ。流石に周り全員から攻められたら死ぬしかない。
とはいえ全員が全員ポイントが無い訳でもなく、当然結構なポイントを残している人も多い。結局、誰かを引き摺り倒すより、自分のポイントを守る人の方が多数だ。その事には感謝しかないね。
攻撃してきたプレイヤーの槍を弾き上げて、最速で首元に突きを喰らわせた。右のプレイヤーが剣で切りかかってくるが、左に跳んで回避する。僕としてはこうやって時間を潰せばいいので助かるよ。
「破滅の弟子かえ? ちょうど良いところに居るわ。我が少々腕を確認してやろうぞ!」
いきなり鋭い突きが飛んできたので、慌てて半回転してかわす。見た目は黒いゾンビだけど、この声は間違いなく深淵の魔女であるク・ディヴォラさんだ。何で僕の近くに居たのか知らないけど、ちょっとマズい。向こうも槍とはいえ、突きが非常に鋭かった。
やっぱり魔女っていっても普通のゲームとは違い、この人達なんでも出来るよね? 魔女って普通は魔法とか錬金術とか薬学でしょうよ。何で槍持ってあんなに鋭い突きを放ってくるんだか。魔女の枠に留まってないよ、絶対。
「ふんっ! はっ! ぬん! せいっ! はぁ!!」
「ふっ! ほっ! よっ! はっ! ほいしょ!」
何とか槍の穂先を防ぐものの、まだまだ余裕があるようで嫌になる。それでも弾いたり流す事は問題なく出来るので、この突きを続けられるだけなら殺される事は無い。しかし、それは周りの連中が居なかったらだ。そろそろ……っと、来たか!!。
右から剣で切りかかってきたヤツに対し、僕はそいつの右肩を突き刺す。当然それを好機と見たク・ディヴォラさんは僕を突きに来た。使える者を全て使うのは当たり前の事。それは当然の事であり、僕も何ら変わらない。
だから僕は肩を刺した相手を左に引っ張り体を傾ける。突っ込んできていた男は更に左に伸ばされるように倒れていき、ク・ディヴォラさんの放った槍の穂先が体に突き刺さった。
「チィ! 愚か者が邪魔をしおって!! 余計なこ」
「遅い!!」
僕はク・ディヴォラさんが穂先を抜いて態勢を立て直す前に首を突き刺して捻り、その一撃で止めとした。他にも向かってくる者が居るので残心をしている場合じゃないが、確実に殺れた筈だ。
「あっはははははははは!! 見たかサイン。あの阿呆がコトブキに殺されよったぞ! それも見事に首を狙われ一撃じゃ!」
「見てたけど、相変わらず容赦が無いわねえ。深淵もアレだけど、その深淵をあっさりと殺す彼も十分におかしいわよ? あいつ近接戦はそこまで強くないにしても、それでも色々な武器をそつなく使い熟すヤツではあるもの」
「くくくくくくくく! それではコトブキに届かんわ。アレは一種極まった存在ぞ。成長の余地はまだ残されておろうが、それでも極みに近き生き物。それがアレ程度に殺される筈があるまい。1対1ならばもっと楽に始末されておる」
「まあ、そうでしょうね。……それで、私は邪魔者を排除していればいいの?」
「うむ、その通りだ。邪魔など居ったらつまらんからな。さてコトブキよ。その腰の刀を抜くがいい。妾と共に本気の殺し合いじゃ」
「………はぁ。ここで師匠とか勘弁してほしいんですけどね」
そう言いつつ、僕は管槍を捨てて太刀を抜く。それを正眼に構えると師匠に相対する。その師匠はスケルトン型を選択しているようだ。何かしらの不利はあるんだろうけど、代わりに速さなどが高そうだ。余分な肉が付いていないからね。
ちなみにサインさんは何故かタイツ型を選択しているみたいだ。サキュバスだからだろうか? あれ、明らかに本来の体のラインが出てるんだけど、気にしていないんだろうなぁ。
師匠は剣を持って構えているけど、長さ的にはバスタードソードぐらいだろうか? いわゆる片手半剣と呼ばれる程度の長さとなる。中途半端とか言われる剣だけど、僕は何処が中途半端なのか分からない。
あの剣は、剣の中では両手持ちで振り回すのにちょうど良く、少々の長さは錘として使えるのだ。つまりバスタードソードとは重さで圧し切る為の剣だと言える。そこを分かってないと使えない剣として扱われてしまうのだろう。
あれが十分に振り回せるなら、小さい事なんて考えずにブンブン振り回せばいい。そこに位置取りや剣の振り方などの基礎が乗れば、十分に使える剣として扱われるのにねえ。勿体ないと思う。
そしてそれを知らない師匠じゃないだろう。間違いなく重さでぶった切りに来る、そんな予感は十二分にしているんだよ。
師匠がにじり寄ってきて、僕もまたにじり寄る。周りのプレイヤーは誰も動かない。何故なら師匠も僕も殺意を全開にしているからだ。師匠からも濃密な殺気と殺意がぶつけられているし、僕も師匠にぶつけている。
「………このまま殺意をぶつけ合うだけでも楽しいが、そろそろ始めようかぁ!!」
師匠が間合いに入ったと思ったら肉薄していた。踏み込みに無駄が無い為に最速最短で振り下ろしてくる。僕は素早く流しつつ半身になってかわし、そこから切り上げようとするも師匠の方が速かった。
流しが甘かったからか、全く止まらずノンストップで僕の方へと切り上げてくる。振り下ろしで止まらず切り上げてくるって、どんな技術をしているんだと言いたくなるけど、それって天兵さんも普通にやってた事なんだよね。
僕はその剣に逆らわず、防ぎながらも自分から跳んで距離を置く。構え直す暇も無く師匠が襲ってくるのを回避し、突きへの反撃として右下から切り上げる。しかし師匠は背を逸らせて回避した後、頭上からの振り下ろしで脳天を狙ってきた。
僕は足を踏ん張る形に移行させ、全力で師匠の振り下ろしを右に滑らせる。腰の辺りで自分の刀を止め、そこから師匠へと水平切りを行う。しかし師匠は強引に鍔で止めると、そこから蹴りに来た。しかも狙いは股間だ!。
僕は背筋に恐怖を感じると、一気に後ろへ跳躍して距離をとる。さすがにシャレにならない。確実に潰す気で蹴ってきたよ、このヒト!。
「かかかかかかかか! もうちょっとで上手くいっておったんじゃがのう。上手く避けられたか!」
「シャレになってないんですよ、まったく。本気で潰されるかと思ったら体が先に反応してました。っていうか、反応してなかったら潰されてたじゃないですか」
「ははははははは! それは潰される方が悪いのう。さて、もう残り時間も無さそうじゃ。次で最後となろう。……では、いくぞ!!」
再び師匠が攻めて来る。今度は走って突撃してきたうえ、そのまま袈裟切りに来た。それも走りこみと全身の連動をも使った全力の袈裟切りだ。もうここまでに至るとフェイント云々の話じゃなくなるんだよね。僕もそうだけどさ。
天兵さんも言ってたけど、速さが一定を超えると駆け引きにならなくなるんだ。最速最短で斬れば済むという、脳筋思考の戦いに切り替わるんだよね。実際、僕と師匠がやっているのは正にその領域となる。
僕は師匠の斬撃を全力で回避し、脇構えから師匠の足を狙って斬り上げていく。しかし師匠は袈裟切りの態勢のまま僕に体当たりをしてきた。流石にこれは予想外であった為、僕は後ろに倒されてしまう。
師匠は素早く僕の首を突きにきたが、僕はギリギリ刀で師匠の剣を逸らす。その師匠の剣が白い地面に当たって「ガキッ!」という音が鳴った瞬間、「ピピー!」っという笛の音が聞こえ、イベントの終了となった。
危ない、危ない。もうちょっとで殺されるところだったよ。それにしても師匠の反射速度と反応速度がおかしい。尋常じゃないくらいに速く、ほぼ間違いなく鬼一法眼を超えてるよ。
流石にこんな相手は初めてだ。




