0053・運営さん達03
2000年 7月31日 月曜日
「おお! 遂に弟君がクラスアップだ。見習い期間終了でデスペナが始まるねー。ついでにアバターの経験リセットも始まるんだけども。流石に初期からリセット地獄だと辛いから、見習い期間が終わるまでは許してるけどさ」
『プレイヤー<コトブキ>のアバターは既に相当の経験を積んでいます。もともと見習いの期間は意図的にアクティブスキルが使えないようになっていますが、見習い期間が終わってもスキルとして使用しないと思われます』
「だろうねえ。<破滅>が意図的にそちらの方向に誘導してたし、弟君も素直に受け入れて学んでたし。それにしても、本人も模倣力が高いって言ってたけど、尋常じゃないね。悉く一度で真似するんだもん、見てる方がビックリだよ」
『本人は全てを含めて模倣していると思われます。何度か確認している場合は、魔力や闘気の流れも確認して完璧な模倣にしています。あれは模倣というよりは再現に近いのかと思われます。下手なものを真似ると残念な結果になりますが、高いレベルのものを模倣すると……』
「達人になっちゃう訳ね。まあ、本人は模倣しか出来ないって言ってたから、あれはあれでいいでしょう。何より、文句を挟む必要の無いプレイヤースキルだもの。あれを規制するなんて発想をする方がどうかしてるわ」
『プレイヤー<コトブキ>がスケルトンを、スケルトン・クラフター・下級に進化させました。どういった意図かは分かりません』
「うーん………戦いもさせるみたいだし、自分の助手みたいな感じなんじゃない? 逆にゾンビは完全に戦闘系だし、馬は移動か踏みつけ? 馬として使ってないね。別に良いんだけど、普通は乗るでしょ」
『乗馬を知らない、あるいは鞍が買えないからでは? プレイヤー<コトブキ>は金銭を取り戻したところです。今までは金銭を持っておりませんでした。また、スケルトンホースを召喚できるようになったのは金銭を失った後です』
「あははははは! 何でグーラがあのネタ知ってるのよ。誰が教えたのあれ? もしくはいろいろな情報をネットから仕入れてる? まあ、どっちでもいいけど、不意打ちだったから笑っちゃった」
『プレイヤー<コトブキ>のメイン職業レベルが上がり、ゾンビドッグが追加されたようです。更にスケルトンホースがゾンビホースに進化しました。これで乗るのではないでしょうか?』
「多分ね。よく考えたら骨の馬って乗りにくいか。それなら今まで乗らなかったのも納得。……うん、町で鞍も買ってるね。良かった、良かった。馬の召喚モンスターが乗られないって、流石に不憫だし」
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2000年 8月1日 火曜日
「おっ、ついにサキュバスが出てきたか。それにしても、我々からすれば鼻の下を伸ばす輩の下に現れてほしかったが、そう簡単にこちらの想定通りにはいかんか。それもまた面白いところではあるんだが。さて、コイツが彼の仲間になった時のステータスは、と」
『プレイヤー<コトブキ>は【魅了耐性】を持つとはいえ、<狂性の悪魔>ラスティアが屈服するとは限りませんが……』
「何も問題は無い。彼が手に入れた時点で、間違いなくサキュバスの悪魔は屈服する。古代の悪魔の中で、無手での戦闘能力は一番低いからな。回避能力は一番高いとはいえ、それは制限されてしまっている。片手落ちでは彼には勝てんよ。圧倒的に負ける……ほらな」
『立ち上がらせる事もなく、滅多打ちですね。この戦い方は宜しいのですか?』
「構わないとも。むしろ我々としては積極的にやってくれというところだ。唯のイジメであれば問題だが、自分達より強い者に勝つ為にはアレぐらいするのは当たり前だぞ? あれはイジメと同じ事をしているように見えるかもしれんが、勝つ為の手段だ。決してイジメなどという下劣な行為と同じではない」
……
…………
………………
『プレイヤー<コトブキ>が魔法を自力で使い始めました』
「思っているより遅かったな。模倣するのが得意な彼なら、姉の方より早く始めると思っていたが………そもそも魔法系スキルを持ってなかったのか、召喚以外。それならまあ、納得ではある」
『古代の悪魔ラスティアが召喚モンスターの指導を始めました』
「それは想定内だから問題無い。結局のところ、スキルが早く覚えられるというだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。そしてこのゲームのスキルは、最終的に自力で使う方が強い。その為の雛形なのだからな」
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2000年 8月2日 水曜日
「報告は見たけど、彼も一気にスキルが進化し始めたなあ。ま、今までは見習い期間、本当の苦労をするのはここからだ。だからこそスキルレベルを意図的に表示してないんだし。彼や初心者はともかく、プロの諸君は嵌まってくれるだろうさ」
『スキルを繰り返し使用するだけでは、いつまで経ってもスキルレベルは上がりません。スキルを使用するだけでは頭打ちとなるように設定されています』
「オレ達がそう設定したからね。プロの諸君は脳死でプレイするだろうけど、それがプロと素人の運命の分かれ道だ。脳死リピートでは決して強くなれない。どんな奴も努力しなければ決して上達しない。無駄に<レトロ>と繰り返している訳じゃないんだよ? とはいえ……」
『監視対象<アポロン>は既に100を越えるプレイヤーキルを行っていますが、宜しいのですか?』
「それは既にイベントで決まっている通りさ。彼にはイベント後に地獄を見てもらう。イベント中に何もしなければ今までの事を、イベント中にやらかしたら、それも含めて叩きつける。彼らは大人しくなるよ、必ずね」
『<聖人の呪い>は聖人を裏切った者にしか付きませんが?』
「それ一つで彼らは萎縮するよ。アポロンなんて御大層な名を名乗ってる小物が中心のグループだ。あの小物がまともに続けられなくなれば、この世界から離れるさ。離れないなら更なる地獄に突き落とされる」
『イベント終了後の<善行度>と<悪行度>の実装ですね』
「そう。<善行度>が高い者ほど有利になり、<悪行度>が高い者ほど不利になる。オレ達がプレイヤーキルを最初の方に許していた理由だ。そしてキャラを作りなおしてもカルマは消えない」
『全てのゲームデータが開示される訳ではありません。そう利用規約にも書かれていますし、許可しなければゲームは出来ません。後で開示されたとしても、開示されていないデータに含まれますので』
「当然、奴等の文句など意味は無い。既に十二分なほどの<悪行度>を稼いでいるからなあ、連中は。そもそも<レトロワールド>内で悪事に関わりのある連中は、パーティーを組んでいるかに関わらず<悪行度>の加算がある」
『<善行度>と<悪行度>が解放されると、長い期間かけて奉仕活動をしないと禊にはならなさそうです』
「だからゲームをやめるさ。もしやめないなら盗賊化だろうな。それならそれでゲームの中に組み込むだけだよ、そういう奴等も居た方が面白い」
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2000年 8月3日 木曜日
「せっかく弟君が見られるっていうのに、イベントまでは無難にスキルの練習とかするみたいね。面白くない。やっとわたしの番が回ってきたのに。……姉の方も見てる分には面白いんだけど、あの体を見るとイライラしてくるのよねー。あれ本当に高校生なのかしら?」
『間違いなく高校生です』
「……まあ、そうなんだけどね」




