0054・運営さん達04
2000年 8月6日 日曜日
「やっと始まるわねー、第一回のイベント! まあ、最初だからこの程度のイベントに留めてあるのと、この時の映像を元にPV作る予定だから仕方ないんだけど。大掛かりなイベントは次に持ち越しだからねー」
「仕方ないさ。大掛かりなイベントはそれだけ失敗が起きやすい。AIが見直しをしてくれているが、そもそもテコ入れの為に前倒しにしたからな。これぐらいの規模がちょうどいい。なにより、まだプレイヤーは3000人しかいないしな」
「盛り上がったうえで第二陣を入れる……前評判は良かった筈ですよね? 何でもうテコ入れが必要なんです? まだそこまで評判が落ちる事態にはなってないでしょうに」
「プレイヤーを2つの星に離しているのと、種族や職業で開始地点をバラけさせているからだな。これ自体は間違いなく正しい。普通のゲームみたいに全員同じ場所から始めさせると辻褄が合わなくなる」
「そんな大量のプレイヤーを受け入れる場所は無いとか、そんなに宿の部屋は多くない問題ですね。まあ、どこのゲームも、”ゲームだから”という一言で終わらせてますけど。でも<レトロワールド>はリアルから敢えて離れてますよね」
「だからだよ。情報収集の場であり、雛形なんだからしっかりしなきゃいけない。だが、それが災いして初期は3000人に抑えざるを得なかった。その結果、第二陣の傾向に若干の翳りがある……と上は数字を見て判断した」
「数字だけ見て判断されても……とは思いますけど、仕方ないですか。とはいえ、そんなアバウトな数字を元に判断されても困りますけどね。待たされれば冷める人も一定数はいるでしょう。熱を維持するなんて無理ですよ」
「上もそこまでは考えていないだろ。ただ新規参入の時に翳りが見えるのは宜しくないってところだ。つまり、熱がまだまだある内に第二陣を入れたいという事だな。仕事量が増える時が来たが仕方ない」
「ところでPV用の映像撮れますかね。一応その為に大人数での戦争なんですが……まだアクティブスキルも揃ってないんですけどねえ。下級までランクアップしたプレイヤーは多くありませんし」
「まあ、魔法があるからどうにでも出来るだろ。セントラルに任せれば、しょっぱい映像でも綺麗に大迫力にしてくれるさ。事実は事実だから、詐欺じゃないしな」
『あまり誇張したものは後でクレームの元になりますので、そこまで誇張する事はしない方がよいと思われます。おそらくは観察対象か監視対象を混ぜれば、十分なPVを作成できるでしょう』
「具体的に言うと、弟君とアポロンとかいうチンピラか……まあ害悪と言い換えてもいいが。確かに連中なら弟君を怒らせそうだな。虐殺も認めよう、彼が暴れ回るなら放っておく方がいい」
「いやいや、虐殺ってなんですか!?」
「知らないのか? 彼は姉がストーカー被害者になった際、ストーカーを殺し続けて引退させた過去がある。出会い頭に殺す、イベントで見つけたら殺す。ログインして近くに居たら殺す。全ては姉の方にストーカーをしていた奴が悪いんだがな」
「それ知ってます。事件の風化を狙って一月後に訴えた奴でしょ? 碌に動かない運営の所為でストーカー被害が野放しにされたってんで、当時話題になりましたからね。ストーカーは当時のストーキングの様子を全て公開され、更に被害者のバックには何故か超有名企業2社とグループ1社が付いてた、と」
「あれは金持ちしか住めない所の繋がりだったと言われてるな。具体的な名前は出さないが、超有名な所だ。挙句、他の企業のトップも裏に居たと言われている。金持ちのネットワークは怖ろしいからなぁ」
「ストーカー君は超スピード判決で有罪、高裁は控訴を棄却して決定。ストーカーは目出度く実刑を喰らいましたとさ、おしまい」
「エゲつないですね、何という暴力。まあストーカーが悪いと言えばそれまでですけど。でも殺し続けたって問題なんじゃないですか? 引退に追い込んでるんですよね?」
「被害を何度も訴えていたにも関わらず、運営は動かなかった。だからこそ”正当防衛”だと認められたんだよ。運営はゲーム内では警察のようなものでもある。警察が動かないのでは自衛するのは仕方がないという判決だ。そもそもの話、この後で運営会社も訴えられている」
「………まあ、それは仕方ないでしょう。法律でも、運営会社はゲーム内の定められた秩序を守る義務がありますからね。それを怠った以上は訴えられても……。何より、大会社でお金持ちが相手とか怖すぎる」
『第一回イベントが開始しました。現在両軍は中心地点に向かって進軍中。両軍の大将は初期位置から動いていません』
「おっと、くだらん話をしていないで、イベントを成功させる事に取り組まないとな。普通にきちんと対処していれば、金持ちや大企業に目を着けられる事も無い。今は成功に向けて尽力すべきだ」
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「割と暴れ回ってるのがチラホラと居ますけど、プロゲーマーは慎重ですね。ま、彼らは乱戦の怖さを知っているでしょうから、当然でしょうけど」
「まあ、そうだろうな。乱戦だと死亡確率が上がる。よりポイントを稼ぐには死なない事が大事だし、当然のように配信しているしなぁ。それが彼らの仕事なんだけど、戦わないとしょっぱい結果になっちゃうよ~?」
「私達のように全体を俯瞰して見ていると、彼らが大した動きをしていないのは丸分かりですからねえ。適当に戦ってるだけで、活躍しようとはしていませんね。大物狙いでも考えているんでしょう。ポイント変わりませんし」
「意図的に変わらないようにしてあるからなあ、プロゲーマーを倒しても10ポイントだ。普通なら係わり合いにならないだろうし、そうすると避けられてプロゲーマーの方が逆に埋没するからな。所詮10ポイントなら無視されるし、プロも無駄死にする事は無い。結果的にしょっぱい事になる」
「我々の予想通りの結果だな。挙句に弟君にあっさり殺されてるぞ。英雄アーサーじゃなかったのか? おいおい、英雄クーフーリンが頭をカチ割られてどうする?」
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「弟君がちょこちょこ怖ろしい動きをしていますけど、ある意味で彼の普段通りなんですよねえ……。おお、アーサーよ、股間を潰されるとは情けない……。って、クーフーリンはリンチで終了かー。なむなむ」
「相変わらずだけど容赦の欠片も無いなー、流石は<BUSHIDO>愛好家。頭がおかしい。ついでにグーラの学習も色々おかしいけど、アレはいったい何を目指してるんだ? 未だに方向性が分からないな」
『プレイヤー<仁王>が<ラスティア>に一騎討ちを挑みました。プレイヤー<コトブキ>が入れ知恵していたので受けると思われます』
「少し前に魔法陣を学んでいたが………おそらく彼は敵陣を止める気だな。あの魔法陣は多分だが範囲魔法だろう。彼は正しく自分の力で行うという事を理解しているな。そう、我々運営が用意したものだけじゃないんだ。手札はな」
『監視対象である<アポロン>が一騎討ちに横槍を入れましたが、<ラスティア>は腕で防ぎましたので死亡していません』
「これで弟君の読み通りになったっぽいな。彼が暴れる大義名分が出来た。だか、あーあー……これは酷い。【ダークウェーブ】で一気に範囲攻撃。しかも2発で足を止めて……見事! 跳躍して頭をカチ割ったな」
「あれ? そのまま前に……って、あらら、これは酷い。リスポンしての即キル。しかも満面の笑みで殺してるうえに、何あの叫び声。というか聞いてるこっちまで、何だか怖いんだけど?」
「まさか、ここまでだとは思わなかったな。彼は間違いなく<BUSHIDO>の世界の人間だ。我々が苦心して再現した、あの狂気を身に宿している。アレこそが戦う者の狂気であり、かつての戦場にあったモノだ。だからこそ一部の武術家に絶賛されたのだからな」
「「「「………」」」」
「やっぱり、変人を作るゲームっておかしいですよ」
「失礼だな。それはともかくイベント後のアップデートはしっかりと準備出来ているな? 次は一気に7000人が入ってくる。更に様々な所に細かく飛ばさねばならんし、過疎地と過疎地を結ぶ事もな」
『全て完了していますし、シミュレーション上は一切問題は出ていません』
「よし。弟君は放っておいていい。我々は我々の仕事をするぞ」




