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0020・破滅の魔女




 ここはブラッドキャッスル。悪魔の星の大陸、その中央部から少し東にあるブラッディアという国にある王城となる。女王の名はマリアトゥーラ・ファーストブラッド・ヴァージニア。吸血鬼の原初にして永遠の処女であり、吸血鬼の母と呼ばれる者である。


 彼女こそが吸血鬼を一大勢力にした者であり、アンデッドを生かし、アンデッドを救済する者である。彼女の救済とは即ち滅び。アンデッドを永遠の眠りにつかせる者でもある。


 魔星の五大美女の一人とも言われる彼女の美貌が、現在酷い皺を眉間に作っていた。



 「えっと……別の国に引っ越すから、後は知らないという事かしら? ………何故急にこんな事を言い出したの? 貴女の条件は飲んできたし、特に不満を持っていたとは聞いてないんだけど……。それにおかしな条件でも無かったのに、急に城に来たと思ったら」


 「今の妾にとって、この国が如何になろうが興味も無い。何百、何千、何万死のうが、野良アンデッドが蔓延はびころうが知った事ではない。というより、むしろ死ね」


 「……それは聞き捨てならないんだけど? 私の国に対して喧嘩を売っているのかしら?」


 「妾に喧嘩を売ったは、うぬらが先であろうが……! 滅ぼされたいなら、今すぐ塵にしてやるぞ」


 「えーっと……ちょっと待ってくれる? 本気で理解できないんだけど……いったい何故そんなに怒ってるの? 流石に私には何の情報も上がってきてないわよ」


 「この国の一部の阿呆がアンデッドを毛嫌いしておるのは知っていよう。妾にとっては阿呆の戯言ざれごとであったが、そうも言っておれなくなったのだ。マリアよ、<神の贈り物>は知っておるな? その中の1つに<幸運のウサギ耳>がある事は?」


 「当然知っているわ。新たな眷族たる子供が生まれれば、少しの間着けさせてあげるもの。歳をとっているかは関係なく、子供は皆子供。私はファーストブラッド、吸血鬼族の母だから当然の事よ」


 「ほう、ならば分かろう。妾は新しく弟子をとった。稀人じゃがな、妾の子供のようなものじゃ。その妾の子供を襲い、<神の贈り物>だけでなく武具から道具から金銭も含めて、殺して全て奪ったゴミがおる。これは妾に対して明確に喧嘩を売っておる事にならんか?」


 「は? ……殺して、奪った?」


 「そうじゃ。そしてそやつは、スカルモンドから妾のおる地方を任されておるバカンドとかいう子爵らしい。そやつは貴族じゃ、つまりこの国が妾に対して喧嘩を売ってきたのじゃろう? ならば受けて立つまでよ。そこまで殺されたいのならばなあ、望み通りブチ殺してやろうぞ……!」


 「ちょ、ちょっと待って! そんな話聞いてないんだけど!?」


 「それはそうじゃ、殺されて妾の家に戻ってきたからのう。知っておるか、マリア? 稀人は殺しても復活するからな、口封じは出来んのだ。今までも似たような事をしてきたのであろうが、誰に喧嘩を売ったか全く理解しておらんようじゃ。だから教えに来た。マリア、選べ。お前達が滅ぶか、妾の溜飲を下げるか。妾はどちらでも構わん」


 「そちらはそうでしょうけど、私達が困るのよ! それよりバカンドとかいうゴミを含めて、すぐにスカルモンドを呼びなさい! 今すぐに!!」


 「は、はい!!!」



 執務室に居たメイドはエンリエッタの怒気にあてられており、硬直していたが、女王の一言ですぐに復帰して部屋を出て行った。少なくとも反応出来ただけ優秀ではなかろうか?


 女王であるマリアは動けない程ではないが、それでもエンリエッタの本気の怒気は厳しいものがある。この悪魔の星の<八魔女>と呼ばれる者は、他の強者と比べても桁が違う。星を治める天使や悪魔と本気で戦えるほどの強者なのだ。


 そしてその<八魔女>の中でも更に頭一つ抜けているのが、目の前に居る<破滅の魔女>ことエンリエッタなのである。この魔女の持つ称号である<破滅>は、文字通り敵対者を全て<破滅>させてきた事に由来している。


 その<破滅>を支えているのは圧倒的な実力であり、単騎で国を壊滅させるネクロマンスにある。召喚術系統は術者1人ではない、圧倒的な軍勢を持って戦えるのだ。なので危険度の桁が、他の魔女に比べて1つ以上は上がってしまう。


 その災厄とも言える実力は現在、自分の方に向いているのだ。午後からは庭園に出て花を愛でようかと暢気のんきに考えていた自分を、地獄の底に突き落としている人物。如何にファーストブラッドたる自分でも、目の前の怪物には絶対に勝てない。


 そもそも何故この怪物を激怒させるような事をするのだ!? そんな喚き散らしたい感情を抑えつつ待っていると、転移魔法で2人が連れられてきた。


 スカルモンドは冷静で優秀な人物なのに、何故こんな事に……。そう思いながらもソファーに座らせ、該当のクズは立たせたままにする女王。



 「スカルモンド伯爵。貴女は<破滅の魔女>ことエンリエッタ殿との契約はしっかり守られている、そう報告していたわね?」


 「はっ! もちろんでございます。バカンド子爵に任せておりますし、しっかり1月ごとの報告もさせております。何も問題はないかと」


 「………報告を聞くだけにして、何も調べていないという事かしら? それとも今回の事だけなのかしら?」



 女王はチラリとエンリエッタを見つつ話している。スカルモンドもチラリとエンリエッタを見、即座に魔女が激怒している事を理解した。しかし、自分に何か落ち度があったとは思い出せない。そして自分の後ろにはバカンド子爵が居る。


 流石に頭の悪くないスカルモンド伯爵は、呼び出された理由をすぐに理解した。



 「バカンド子爵。ワシはそなたを信用して調べておらなんだが、本当に報告通りなのだな? 事と次第によっては、そなたの一族郎党を処刑するぞ。正しく、正確に、答えよ。本当に報告の通りなのだな?」


 「も、もちろんでございます! 私は何もやましい事などしておりませぬ! この潔白の身をお疑いならば、如何様いかようなお調べもご自由になさって下さいませ!!」


 「そうか、ならば今すぐ死ね」



 そう言ってエンリエッタが不可視の魔法を放つが、女王が何とか相殺する。まさかすぐに殺そうとするとは思わず焦った女王。ギリギリ間に合って良かったが、<破滅の魔女>をなだめないとマズい! と気を引き締める。



 「ちょっと待っていただける? 流石に証拠も無く、首を刎ねる訳にはいかないの。お願い、こっちの顔を立ててちょうだい。後で優遇措置を出すから」


 「………」



 エンリエッタに睨まれながらも、かろうじて首の皮1枚繋がった事を理解した女王はすぐに話を聞いていく。



 「スカルモンド伯爵。最近エンリエッタ殿はね、お弟子さんをとられたそうなのよ。そのお弟子さんは稀人でね、何処かの子爵が<神の贈り物>欲しさに襲って殺したそうよ。ついでに装備も道具もお金も全て奪われたんですって。いったい何処の盗賊かしらね?」


 「………」



 スカルモンド伯爵はリッチである。そのリッチの眼窩に憤怒を示す赤黒い炎が灯り、凄まじい怒気がバカンド子爵に叩きつけられる。


 既にバカンド子爵は卒倒寸前だ。今頃になって、あの子供が手を出してはいけない相手だと知ったのである。完全な手遅れでしかないが。



 「ようも妾の弟子を殺してくれたのう! ようも妾の弟子にアンデッドなど穢らわしいと言うてくれたのう!! ………覚悟は出来ているな、ゴミ虫。簡単に死ねると思うなよ?」



 エンリエッタの言葉に怒りのオーラを撒き散らす女王とスカルモンド伯爵。バカンド子爵は魔人でありアンデッドではない。しかし、この国はアンデッドの国であり、女王もアンデッドである。


 つまり、あの一言は女王すら否定したのだ。それをこの一番のタイミングで口に出すエンリエッタは、流石としか言い様がない。


 こういう意味でも<破滅の魔女>なのだ。既に失神しているものの、腹を蹴り飛ばされて無理矢理起こされるバカンド子爵。


 イケメンであり、顔だけしか取り得がなかった者の末路などこんなものであろう。女王がバカンド子爵家の取り潰しと、コトブキを殺した騎士全ての処刑を命じ、スカルモンド伯爵はこれを了承。


 女王に一言断りを入れ転移、領地へと戻って即座に動き始めた。それを見たエンリエッタは「優遇措置を期待しておる。それとコトブキの装備は返してもらうぞ」そう言って転移。家へと戻って行った。


 バカの所為でしなくてもいい出費をする事になり、頭を抱える女王。踏んだり蹴ったりである。


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― 新着の感想 ―
いきなり殺そうとしたのは死霊術で縛り嘘を吐けなくしてから尋問するつもりなのかと。まさかの単純な怒りw
頼りになるママやなぁ……… まあこのゲーム世界の民度はこんなもんだから、後ろ楯も含めて自衛はちゃんとしようねっつー話よね
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