0019・真剣になる珠
「くっそぉぉぉーーーー!!!!!」
僕は師匠の家の前で絶叫する。昔の貴族はああだったと聞くが、<血斧のアセモ>より盗賊じゃないか!! くそっ! ふざけやがって!!!。
「なんじゃ、コトブキ。騒々しいぞ。………うん? お主、何で服しか着とらんのだ? ウサギ耳や革鎧はどうした?」
「えっ!? ………ま、マジで……装備品が全部無い、おまけに金も無い! ……あんのクソ貴族ぅーーーー!!!」
「クソ貴族? ………コトブキよ、詳しく話せ」
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師匠が詳しい話を聞きたがったので、僕は事のあらましを説明する。怒りに塗れているものの嘘を吐く気はないので、深呼吸しつつ淡々と伝えた。あのバカンド子爵という奴のネクロマンスに対する暴言を聞いた瞬間、師匠のオーラがとんでもない事になったけど、それは仕方がないと思う。
「スカルモンド如きから1地方を任されている程度で随分な奴よのう……。どうやらこの国は妾に対して喧嘩を売りたいらしい。ならばよかろう、受けて立とうではないか。<八魔女>の1人として容赦はせんぞ」
何だか僕の怒りより遥かに怖ろしい怒りが渦巻いている……どころか、凄い風が巻き起こってるんですけど?。
「スケルトン・クラフターを置いていく。料理などはこやつに任せるがいい。妾はちょっと用があるので行ってくる。調子に乗っている阿呆どもに現実というものを教えてやりにの」
師匠がそう言った瞬間、足下に魔法陣が輝き、師匠は一瞬で消えた。おそらくは転移系の魔法だと思うが、やはりあったらしい。それは希望が持てて嬉しいが。マジで全部を失った。何があったのか分からないが、装備も金も道具も何も無し。
水筒も飴も、初期装備のローブすら無くなっている。もちろん装備の全てが無くなっても裸にはならず、魔人の男はシャツとトランクスとズボンは必ず着ている。これが正真正銘の装備無し状態だ。
いやー、マジかー……今思えば、やたらにレアアイテムが出たりするからおかしいと思ったんだ。あれってレアアイテムを含めて貴族に奪われるってイベントじゃないの? 今ならそんな気がしてくる。
あきらかに今じゃ勝てない強さの騎士だし、ファルやセナまで一撃でやられたからなぁ……。仕方ない、とりあえずファルとセナを呼び出そう……うん? スキルが増えてる? 【身体強化】ねえ……騎士がそんな事言ってたような……。
とりあえず2人を呼び出したものの、めっちゃキレてる。とはいえ、僕にキレてる訳じゃないみたいなので良かった。とりあえず、装備はないけどモンスターを倒しに行こう。
「カタ!」 「う!」
師匠の家を出発し、裸足で歩く。正直に言って石を踏んで痛いけど、泣き言は言っていられない。手頃な石を拾って歩き、魔物を見つけたら投げて先制攻撃をする。流石に武器が無くても投石で十分なダメージが出るらしい。
寄ってくるものの、数回攻撃すれば倒せるので最初より楽だ。そうやって倒しつつ、ウロウロしながらモンスターを探す。中層に行きかけたら戻り、昼になったので師匠の家に戻った。
スケルトン・クラフターが昼食を作ってくれていたのでありがたく食べ、一旦ログアウトして現実でも昼食を食べる。シズは下りてこなかったので、冷凍のナポリタンだと書いておき、再びゲームへと戻る。
手に入れていた腐った肉を1つセナに渡し、残りを錬金術の練習に使う。最後の1つを【乾燥】させるとレベルが上がったのか、ウィンドウが目の前に表示された。
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サブ職業:錬金術師・見習いのレベルが上がりました
新たな錬金術スキル【変形】を習得しました
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【変形】ねえ……もしかして師匠が石と木の槍を作るのに使ったやつかな? とりあえず出発して、ちょっと木の枝を折ってみよう。手に入ると良いんだけど……。
師匠の家を出発して少し離れたら、木に登って枝を折ろうとするもビクともしない。これはどう考えても無理だな。そう思い、諦めて森に入り魔物を探す。スケルトン犬などを倒していると骨を入手するが、これを武器に……無理か。
諦めてファルに渡し、石を拾って魔物を探す。再びウロウロし続け、夕方前には師匠の家に戻った。相変わらずタコ殴りにすれば勝てるので、この森で負ける事はないだろう。あくまでも上層では。
腐った肉を1つセナに渡し、広範囲を歩きまわって得た肉を全て【乾燥】させた。
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サブ職業:錬金術師・見習いのレベルが上がりました
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全て終わらせたらレベルが上がったものの、今日は散々な日だったと思いつつ、スケルトン・クラフターの作ってくれた食事をとってログアウト。
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現実に戻った僕は雑事をやった後で夕食を食べ、部屋に戻ったら課題をせずに<BUSHIDO>を始める。良い悪いは別にして、このゲームこそが僕の戦いの基本だ。久しぶりに真剣にやって、合戦の感覚を取り戻す。
合戦の、殺し合いの感覚があれば、あんなマヌケな負け方などしなかった筈だ。VRMMOだと思って、何処か緩んでいたんだろう。昔の人はこれほどまでに真剣に殺し合いをしていたというのに。僕はぬるま湯に浸かってしまっていた。
血が冷たくなるような、それでいて沸騰しているような戦場に身を置くべきなんだ。2度と負けない為に……そして、敵は必ず殺す。
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2000年 7月27日 木曜日 AM8:23
今日も<レトロワールド>にログインするが、昨日の<BUSHIDO>ブートキャンプは実に良かった。久しぶりに殺し合いの無慈悲さと無価値さを感じる事が出来た。死ねば唯のゴミでしかない、あの感覚は合戦でしか学べないからね。
ログインするとファルとセナも起き上がった。何故か僕の近くの床で寝ていたらしい。適当に過ごしていいって言っておいたのに。とりあえず朝食をいただいて、今日も森の中の魔物を狩ろう。流石に装備も無しじゃ中層に挑戦する気にもならない。
再び森に行こうと思ったら、師匠のスケルトン・クラフターに連れて行かれた。そこには木靴と木の棒が置いてあった。何故か棍棒と盾とトンファーもだ。どうやらスケルトン・クラフターが作ってくれたらしい。
こういう優しさは心に沁みるね。頭を下げて感謝し、木靴を履いて木の棒を持つ。これだけで随分感覚も変わるなあ。ちょっと心が上向いた気分だ。もう1度スケルトン・クラフターに感謝し、僕達は森に入っていく。
石を踏んでも足が痛くない事に感謝しつつ、昨日何度か試していた【身体強化】を使う。スキルとして使うと、かなりの魔力や闘気を使用するんだけど、騎士との戦いじゃもっと長く使えてた筈なんだ。
つまりあの時僕は自分で発動してたんだと思う。あの時どうやって発動していたか分からないけど、何となくで試行錯誤するしかないな。僕自身あまり心を動かす事はないんだけど、昨日のアレは流石にブチギレるほどの出来事だった。
盗賊と変わらないうえに、他のレアアイテムも全て奪われ所持金すら無い。他のゲームでPKに襲われて倒された時だって、全部奪われるなんて事はなかった。幾らなんでも理不尽に過ぎる。
これがイベントだったら諦めもつくんだけど、イベントかどうかすら分からない。師匠も帰ってこないし、とりあえずは一旦忘れて、戦闘に集中しよう。




