0015・師匠の家に帰宅とログアウト
僕達は慌てて走っていき、ゼット町の門番である衛兵に説明をする。首を渡してお金を受け取りたい事、できればさっさと帰りたい事を話す。首を渡した衛兵さんは奥に行って、人相書きと照合するんだってさ。
「帰るって……確かに夕方が近くなっては来ているけど、報奨金で宿にでも泊まればいいじゃないか。それとも何か理由があるのか?」
「疑う気持ちは分からなくもないんですけど、早めに帰らないと師匠に何を言われるか分からないんですよ。僕も怒られたくはないので」
「………もしかして、君の師匠って<破滅の魔女>様?」
「ええ。僕の師匠はエンリエッタさんです。ちょうど師匠の家に戻ろうとしていた矢先に襲われまして、それで町に戻ってくる羽目になったんですよ。おかげで結構な時間になってしまってますし」
「流石に魔女様の弟子っていう怖い言葉は聞きたくなかったね。はいコレ、28万デルね。あの首は間違いなく<血斧のアセモ>だったよ。よく倒せたもんだ。キミのレベルで倒せるとは思えないけど」
「アセモじゃなくて汗疹って言って挑発して、斧をかわしてうつ伏せに倒したら、両足を抱えて持ち上げて仲間にボコボコにさせました。暴れるので股間を蹴り上げたりしましたけど、倒すまでに時間が掛かるし大変でしたよ」
「「………さすが魔女様の弟子」」
何だか妙な関心のされ方をしたが、僕は28万デルという大金をもらい、さっさと師匠の家へと走って行く。あれ程の賞金額だったという事は、やはり相当高レベルの盗賊だったんだろう。賞金首になるぐらいだし、よく勝てたな僕は。
ファルとセナに頑張って走ってもらい、やっと師匠の家に着いたのでノックをしてから中に入り、ソファーでログアウトをさせてもらう。慌てていると、食事をとってからにしろと怒られたよ。ログアウト中は停止するんだけどね。
「それで、妙に遅かったが何をしておったのだ?」
「何って言われても、ウサギを倒したりネズミを倒したりして、肉を手に入れて売ってました。あ、これも手に入れましたね」
僕がテーブルの上に<幸運のウサギ耳>を出すと、師匠の頬が「ピクッ」と動いた。欲しいのかな? と思って聞くと「たわけが」と言って怒られた。
「お主の配下も頭に着けておるという事は、少なくとも2つ出たという事であろう。数十年に一度見るような物を何故あっさりと2つも出すのだ。妾でも見た事が無いぞ、一日で2個も<神の贈り物>を得た者などな」
「いえ、ファルがネズミの尻尾を身に着けてますから3つです。ネズミを倒した際にネズミの尻尾みたいなアクセサリーが出たんですよ。確認する前にファルに引っ手繰られましたけど」
「カタ!」
「まあ、お主が渡したなら良いのではないか? しかしそれだけだと、遅れたにしては遅すぎる気がするがの?」
「いえ、その後、町の雑貨屋で<神の贈り物>について聞いたりしてたんですけど、戻る際に盗賊に襲われまして。<血斧のアセモ>とか名乗ってましたけど、起き上がれない様にしてタコ殴りにして倒しました。その後、町の衛兵事務所に行って賞金を貰ったりしてましたので……」
「成る程のう。しかし賞金首になる程度の実力はある相手に、よう勝てたな。今のお主なら負ける可能性の方が圧倒的に高い筈じゃが?」
「アセモと汗疹を掛けて挑発したら激怒しまして、何の捻りもスキルも使わず袈裟に振ってきたのでかわし、左足に足を引っ掛けて背中を押したんです。当然うつ伏せに倒れますから、両足を抱えて持って、2人に顔面を踏ませ続けました。後、僕が股間を蹴り上げたりして……結局、一度も立ち上がれずに沈みましたね」
「ほほほほほほ……! それは面白き事をしたのう。良き哉、良き哉。盗賊なんぞに慈悲は要らぬ、なるべく馬鹿にする形で殺してしまえ。害悪でしかないからの。それにしても、ぷくくくく……」
どうやら師匠のツボに入る殺し方だったらしい。僕としては割と必死だったんだけどね。ま、いいや。とりあえず食事して、さっさと現実に戻ろう。そろそろ洗濯物を取り込んだりとかしないと。
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師匠の家のソファーでログアウトした僕は、洗濯物を取り込んだりご飯の用意をしながら過ごす。どうやらシズはギリギリまでゲームをするつもりらしい。怒られても知らないと言いたいけど、まだ夏休み2日目だしなぁ。
そんな事を考えていると、2階からシズが下りてきた。あれ? 思ってるより早いね?。
「あれ? タマもログアウトしてたんだ? 私の方は師匠の無茶振りが酷くて一旦休憩。闘気を教わったのはいいけど、容赦無く扱かれてる。何か微妙にタマの師匠に対抗心燃やしてる感じ」
「僕の師匠は闘気を教えてくれたけど、それ以降は何も無いよ? 修行とかもつけられてないし。そう言っておいたら? 特に魔力と闘気を練り合わせるのは、お前にはまだ早いって言われたよ」
「ゲッ!? 何よそれ!? もしかして師匠が空回りしてるだけなんじゃないの? ……もう! サイアクー!! 夕飯食べたら文句言ってやる!!」
「今日はログインしないで課題やったら? 腹立たしいままログインしても碌な事にならないよ」
「あー、うーん……そうかも。面倒だけど課題やっといて、少し心を落ち着けようっと。そういえば友哉さ、妙な所から始まった所為で合流できないって。何でも巨人族の師匠に弟子入りできたらしいけど、代わりに山奥で周りに村もないらしいよ」
「それはまた……御愁傷様としか言い様が無いね」
友哉はユウヤの事で、本名は藤山友哉と言う。ちなみにナツは葛城棗、イルは五條椿という名前だ。幼稚園からの幼馴染であり、今も関係性は変わってない。
全国にチェーン展開しているディスカウントショップ、<FUJIYAMA>の会長兼社長一家の藤山家。こちらも全国展開している葛城建設の社長一家である葛城家。主に医療品や医薬品の開発研究をしている五條グループの総帥家である五條家。
何でこんな金持ち一家にウチのような庶民が? と思うかもしれないが、ここは何故か金持ちグループが集まる町なんだよ。白山町という何の変哲も無い都心から微妙に離れた田舎町。実際には都心の騒がしさが嫌いな、お金持ちの集まる町として知られている。
そんな町に住む宝家は古くから続く庶民の家だ。昔からこの町に住んでいるだけで、特に地主だったりする訳でもない。本当に運の良かった庶民の家でしかないんだけど……いや、古くは神主の家系だったかな? よく覚えてないけど、それはいいや。
「ナツもイルもタマに合流したいみたいだけど、肝心のタマの居場所が不明だからねえ。<屍人の森>なんて全く聞かないし、ゼット町? っていう町の名前も聞いた事ない。いったい何処に居るのやら?」
「えっと、確か……スカルモンド地方。スカルモンド伯爵が治める、スカルモンド地方だって聞いたよ。ゼット町の雑貨屋のお婆さんが、そんな事を言ってた」
「スカルモンド地方ねえ。このゲームって国が幾つあるかも分かってないから、どうにもならないのよ。私の居る国はサキュリアというらしいけど、サキュバスの女王が治めてるらしいわ」
「ふーん。僕の方はサッパリだね。町に行ったのも初めてだったし、レアアイテムが出るうえ、賞金首に狙われるしさー。最初からアクセル全開でイベントがやってくるってどうなの? って思うよ」
「賞金首?」
あれ? 賞金首って知られてないの?。




