0012・ゼット町
何だかガックリくるものの、効果を確認してみると、名前の割には役に立つ称号だった。しかし【剛速球】じゃなく【卑怯者】の方が役に立つのが腹立たしい。
【剛速球】は投擲する物の速度が1割上昇するという称号だ。威力ではなく速度が上昇する。意外に優秀だと思うのは僕だけじゃないだろう。速度は威力に直結する。その速度が1割上がるのだから優秀だ。
しかし【卑怯者】は違う。【卑怯者】の効果は、卑怯な行動の効果が1割上昇する。ここで言う”卑怯”の定義が分からないが、おそらく僕のやっているハメ殺しや行動の強制キャンセルも含まれると思われる。
あれらの行動の効果が1割上がるとなれば非常に大きな意味を持つ。場合によってはダメージも1割上がるかもしれない。そう考えると、よりザコ敵を倒しやすくなったと言える。そのうえ、”初めて”とウィンドウには出ていた。
つまり、今後同じ事をしても称号は貰えない訳だ。つまり僕しか手に入れられない可能性が高い。………ふふふふ、これだからMMO系は堪らない。自分しか手に入れられない物がある。それを手に入れた時の嬉しさは堪らないね!。
「カタ……」 「う……」
何だかヤバい奴を見る目で見られてる気がする。とりあえず顔を戻して冷静に、落ち着いて深呼吸……よし。僕は冷静だ、それじゃあ町へ行こうか?。
「カタ……」 「う……」
今度はジト目になった気がするけど、気にする必要は無いね。そう思い歩いていると、再び地面の下から反応を感じた。しかしウサギは飛び出してこない。……もしかして気付いてないのか?
抜き足、差し足、忍び足………せーの、そぉい!!!。
僕はウサギの穴の上まで音をさせないようにして近付き、近付いたら穴の入り口近くに居たウサギに思いっきり槍を突き刺した。その一撃で死んだらしく、ウサギは消え耳だけが残った。……つけ耳?。
インベントリに収納すると、<幸運のウサギ耳>と表示されている。カチューシャの上にウサギ耳が付いているんだけど、もしかしてコレってレアアイテム? もう一度取り出して確認していると、何故かセナから引っ手繰られた。
「う♪」
セナは早速頭に着けて喜んでいるようだ。女の子だから着けたかったんだろうか? 変なアイテムじゃないし、運が良くなるぐらいだろうから別にいいや。僕が着けても似合わないし、能力値とかの為に似合わない装備を着けるのもね。
そう思いつつ、御機嫌なセナを連れて町まで歩く。この後はモンスターとの戦闘を数回するだけで町まで辿り着けた。
―――――――――――――――
召喚モンスター:ファルのレベルが上がりました
召喚モンスター:セナのレベルが上がりました
―――――――――――――――
町の前には衛兵が立っていたが、町に入るのにお金は要らなかった。良かったけど、何故か聞いたら、「田舎の連中が野菜とかを売りに来るのに困るだろう」と返された。ここ悪魔の星だよね? 何か凄くまともなんだけど?。
まあ悪魔だから悪じゃないといけない訳じゃないし、無法地帯ならプレイヤーが離れるだろうから、一定の治世は敷かれてるのかね? それか、悪魔の方が法やルールを守ると言われてるしなー。案外そっち系かもしれない。
町の中は普通であり、可も無く不可も無くといったところ。だいたいの家が木で出来ているのが、ベータ版の天使の星との違いかな? 向こうは中世ヨーロッパ風の石を積み上げた家が多かったからね。
違いを感じつつ町の人に店の場所を聞き、僕は雑貨屋に行った。ここなら極小魔石でも買い取ってくれるそうだ。店番をしている魔人のお婆さんに話し、魔石73個をカウンターに置く。
「何て量を持ってくるんだい、いちいち面倒な……うん? これもしかして<屍人の森>の魔石かい?」
「ええ、そうですけど……」
「成る程ねえ。極小魔石だっていうから面倒だと思ったけど、あそこの魔石なら別さね。少しだけ色を付けて買い取ってやろうさ」
「僕としてはありがたいんですけど、それは何故ですか?」
「知らずに行ってたのかい? あそこの森には<澱み草>という草が生えててね、それが怨念なんかを集めて勝手にゾンビやスケルトンを喚び出しちまうのさ。一説には天使の星のスケルトンやゾンビまで喚び出してるって話だよ。それを綺麗にしてるのが<破滅の魔女>様だよ」
「ああ、エンリエッタさんはその為にあそこに住んでたんですね」
「お前さん、<破滅の魔女>様に会ったのかい? ………まさか弟子入りしたんじゃ……」
「えっと、弟子入りしましたけど……何かマズかったですかね?」
「ああ、いや。弟子入りしちまったかい……。別に悪い訳でも何でもないんだけど、あの方は相当の面食いだからねえ。………お前さんの顔なら文句なく合格だろうさ。そのうえ、あの方は少年好きだから好みにピッタリか。お前さんも難儀な方を師匠にしたもんだ」
「は、ははははは………」
「ああ、あたしが言ったっていうのは内緒にしておくれよ。その分色を付けて買ってあげるから。<屍人の森>の極小魔石73個で1460デルだね。本来なら1個15デル程度でしか買い取らないけど、色を付けて20ってところさ」
「ウサギの肉もあるんですけど、これって買い取れますか?」
「あたしが食べるのに買い取るくらいだねえ。ウサギ肉をだしな。………うん、これならブロック1個で200デルだね」
「肉の方が圧倒的に高い。とはいえ師匠からは定期的に倒せと言われているから、少しの間はアンデッド狩りだなあ」
「そういえば弟子入りしたって事は、お前さんもネクロマンサーかい。ま、ネクロマンサーは召喚した連中に任せればいいから、お金の工面はしていけるだろう。武器持ちならメンテナンスだ何だで大変なんだけども」
「僕も武器を使うのでむしろ大変ですけどね。少しの間、町の周辺でウサギとか狩った方が良いでしょうか?」
「難しいところだね。あんまり狩り過ぎると狩人ギルドが文句言ってくるよ。狩り過ぎると居なくなっちまうからね。大量に狩りたいならダンジョンにでも行ったらいい。ここゼット町とは逆方向にダンジョンがあるよ。あそこなら幾ら狩っても怒られない。無限に出てくるからね」
「そうなんですか? それって魔物が溢れたりしたら危険なんじゃ」
「だから<破滅の魔女>様がいらっしゃるのさ。<屍人の森>の事もあるけど、ダンジョンスタンピードの為にもおられるんだよ。魔物が氾濫したらとんでもない事になるからね。神様も氾濫しないように作ってくれたらいいのに」
「ダンジョンって神様が作ったんですか?」
「そうだよ? 食べる物に不自由しないようにって作られたらしいんだけど、その食べる物が溢れるんだよねえ。まあ、中には野菜とかもあるから溢れる物だけじゃないんだけど。それでも魔物が溢れるのは何とも言い辛いよ」
「ダンジョンって名前は付いてるんですか? それとこの辺りの地方って何て言うんでしょう」
「変な事を聞く子だねえ……ダンジョンに名前何て無いよ。で、この地方はスカルモンド地方さ。領主様のお名前がスカルモンド伯爵だからね。ちなみにリッチの方だから、スケルトンを悪し様に扱ってると殺されるよ?」
「そんな事してませんよ。何故かジト目で見られてるって思う事は何回かありましたけど」
「……まあ、よく分からないけど、気をつけるに越した事はないさ」
世間話っぽく情報を聞き出したけど、地方名を聞いてもサッパリだなあ。まあ分かったから良しとするか。さて、次は武器屋に行くんだけど……たっか! 青銅の槍が1本で3800デルもするんだけど!? とてもじゃないけど買えないよ。
これは困ったな………うん? あれは……。たまたま見かけた木材の店で、色々な形に変えている錬金術師の人が居た。僕はその人に頼み込んで、とある物を作ってもらう。その結果、全財産が無くなったけど、端材で何とか作ってもらえたよ。
「う♪」
セナが喜んで振り回しているのはトンファーだ。ヌンチャクと迷ったんだけど、木材店だったのと木材のみで作れるこっちに決めた。
とりあえず素手で殴ると体が壊れる恐れがあるからね。武器は持たせないと。蹴りは……諦めよう。




