0011・【卑怯者】の【剛速球】
嬉しそうに敵を足蹴にするセナは横に「う!」置いておき、僕は師匠の家に移動していく。そこまでモンスターに襲われる事もなく移動した僕は、家の前に居た師匠に挨拶した。
「うむ、よう戻ってきたの。とりあえず<澱み草>を地面に置け、燃やしてしまうでな。それと、そなたらの武器を貸せ」
師匠がそう言うので<澱み草>を燃やした後に渡すと、どうやら修理して貰えたらしい。助かるが、よくよく考えたら石と木の武器なんてどうやって修理するんだ? 師匠の所に持ってくるしかないような……。
「まあ、そうじゃの。早めに自らの稼ぎで武器を買うんじゃな。とはいえ棍棒の方は安値で売っておるであろう。あれは新米狩人などが使う武器じゃからな」
「狩人、ですか……。もしかして、魔物を狩る仕事で?」
「うむ。魔物を狩る事を生業とする者は<狩人ギルド>に登録しておかねばならん。ギルドは登録者からしか獲物を買わんからの。怪しげな奴は門前払いという訳じゃ」
「まあ、分かりますけど……魔石を売る際にも狩人ギルドなんでしょうか?」
「いや? あくまでも獲物を持ち込む際には、ギルドに登録しておらんと買い取ってくれんだけじゃ。魔石なら適当にそこらの商店で売れば良いだけじゃよ。極小魔石など買い叩きすらせんじゃろ。そんな価値すら無い」
「酷い言い草ですけど、そんなに価値が無いんですね。といっても売る者は魔石しかないですから、それでお金を稼ぐしかないんですが。……とりあえず【乾燥】の練習をするか。2人はゆっくりしてていいよ」
「カタ」 「う」
「ふむ、体が綺麗だという事は腐った肉を食わせたか。ゾンビは体が綺麗かどうかで能力が変わるのでな、気をつけよ。攻撃も手足でさせると壊れるからの、手足で攻撃させるなら定期的に腐った肉を食わせて修復しておけ」
「………ふぅ、分かりました。しっかし、本当に集中しないとい成功しない。レベルが上がったから気持ち楽になったような気がするけど、気だけだなーこれは」
「練習、練習、練習。それしか上達する道は無い。誰しもが同じじゃ、そこは一切変わらん。その練習で挫折すれば先には進めぬ。ひたすら励め、それしか道は無い」
そう言って、師匠は家の中に入って行った。僕は1つ腐った肉をセナに渡すと、残りの腐った肉を全て【乾燥】させていく。なかなかに集中力と、繊細な魔力操作が必要になる。それにしても魔力の感覚っていうのをよく作れたな、このゲーム。
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サブ職業:錬金術師・見習いのレベルが上がりました
サブ職業:錬金術師・見習いのレベルが上がりました
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全部を【乾燥】させたらレベルが2つ上がった。上昇したのは2度とも器用だ。急に伸びたけど、器用が足りないと失敗するんだろうか? それは自分の手で錬金術を使う場合と同じなんだろうか? 若干疑問になってくるな。
スキルとして使った場合と、自分の手で【乾燥】を使った場合。それぞれで参照している能力が違ってたら大変だぞ。そのうえレベルアップ時に上がる能力はスキル基準とかになったら、手動の錬金術はいつまで経っても下手なままだ。
師匠の話し方だと、たぶん高位の錬金術は自力でやる必要があるんだろう。今の内からある程度考えて能力値を上げておかないとマズいな。でも参照している能力値が分からない、と。まあ平均的に上げてるし、そこまでメチャクチャな事にはならないだろう。
さて、そろそろ一度町に行ってみよう。お金を工面しなきゃいけないし、何か買っておいた方が良い物もあるかもしれない。それじゃそろそろ行こ「待て」うか……?。
「お主、また食事を忘れて動く気か? 何処へ行くのか知らんが、食事ぐらいしていけ。まったく、放っておくと自分のやりたい事だけする奴じゃの。当たり前の事ぐらいはせよ」
「あ、はい。すみません」
渇水ゲージと空腹ゲージは別に問題無いんだけど、普通の人と考えたら食事が必要なのか。ゲーマーとしたら警告が来たら食べる、という感じだけど……何だか罠が仕掛けられていそうな気がするな。繰り返すと力の能力値が落ちたりして。
師匠の家で食事を頂いた後、ログアウトして現実でも昼食を食べてから再びログイン。<レトロワールド>は現実の時間に準拠している為、ゲーム内で昼なら現実でも昼となる。これはゲーム中も現実を認識しやすくする為らしい。
じゃあ、社会人は夜中にしかゲームが出来ないのかと言ったらそうじゃない。このゲームには昼夜逆転のサーバーがあり、夜にしかログインできない人は、そちらのサーバーに入れば昼夜逆転のプレイは可能だ。
なので午前しかログイン出来ない人も、夜のプレイは可能となっている。なかなか親切だと思う反面、夜と昼では出るドロップに違いがあるんだろう。それをいつでも得られるのはありがたいが、レアや品薄を巡って騒動にもなりそう。
まあMMOあるあるだから仕方ないんだけどね。そんな事を考えながら歩いているが、ザコ敵がまったく出ない。森を抜ける道だからだろうか? ……お! 森を抜けた。確か師匠はゼット町は東って言ってたな。
つまり森を出てきた僕の左って事だ。そうと分かればさっさと進もう。そうやって道の上を進んでいると、地面の下からウサギが出てきた。何て言う名前のウサギか知らないが、【魔力感知】で位置はバレバレだっての。
「ギィ!!」
「うわ、気持ちわる! 何でそんな鳴き声!? ファル防御を固めて、セナは様子見」
「カタ!」 「う!」
初めての魔物だから慎重に立ち回らないとね。ウサギの魔物はキョロキョロしていたけど、ファルに狙いを定めるや突っ込んできた。もしかして噛み付きか? それなら!。
「ファル! 僕が合図を出したら、盾を構えて体当たりだ! ………今!!」
「カタ!!!」
迫ってきていたウサギに体当たりをしたファルは、「ガン!!」という音と共にウサギを吹き飛ばした。ウサギの魔物は倒れたが、体の上に黄色い星がグルグル回っている。どうやら動けなくなっているらしい。ピヨり状態かな?。
「ファル、ボコれ! セナ、ストンピングだ!」
「カタ!」 「う!」
後はいつもの必勝パターン、全員でタコ殴りだ。それであっさり勝利。出てきたのは<土ウサギの肉>だった。どうやら食べられる魔物らしいが、これも町で売れそうだな。高くは売れないだろうが、期待をしつつ歩き出すと今度は大きなネズミがいた。
カピバラぐらい大きいが、こちらに背を向けている為に気付いていない。僕は近くにあった石を拾い、思いっきり投げつけてやった。僕は投げるのは得意なんだよ、何回か見たらプロ野球選手の投げ方も真似できるからね。
投げた石は見事にネズミに直撃し、不意打ち判定になったのか一撃で勝てた。まさかの勝利方法に、何故かファルとセナからジト目を向けられている気がする。そんな事は無いと思「ポーン」うんだけ……。
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おめでとうございます。全プレイヤーの中で初めて不意打ちの一撃でモンスターを倒したので、称号【卑怯者】を獲得しました
おめでとうございます。全プレイヤーの中で始めて投擲の一撃でモンスターを倒したので、称号【剛速球】を獲得しました
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「………」
【剛速球】はともかく【卑怯者】はどうなのさ? 一応一撃でモンスターを倒してるんだよ? にも関わらず卑怯ってなに?。




