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7 ホラーな世界にようこそ

7 ホラーな世界にようこそ


 夢の中、何かモヤモヤしたものが見える。地面はなくて、私とモヤモヤは中に浮いている。モヤモヤに手招きされた気がする。行ってみようかな?と思ったら風の子ちゃんと火の子ちゃんが手を引っ張った。


「行っちゃダメなの?」


 そう言った時、目が覚めた。私はカイリーの部屋にバスローブ姿で寝かされて、しばらくもそもそしてから起き上がるとカイリーが入ってきた。


「気がついたんだね。良かった。どこか苦しいところは無い?」


「ええ。大丈夫よ。あれ?えーっと、あの?カイリー様??」


 いつもと随分感じが違う。本当に心配そうだし、なぜか顔が赤いし……


「昔のようにカイリーと呼んで。君がルーアだったなんて幸せすぎて夢のようだ。ごめんね。君だと分からず、酷いことばかりしてしまったね。」


 カイリーが私の手をとって彼の額に押し付けた。


「私、寝言でルーアだって言ってたの!?」


 それを信じるカイリーもどうかと思うけど、別に良いわ。私がルーア・エインだって分かってくれる人がいる。それがカイリーだなんて、それこそ夢のよう。


 カイリーはさらに顔を赤くして答えてくれた。


「違うよ。あの、匂いで分かった。」


「え??」


「肌の匂い。髪の匂い。ずっと大切にしていた思い出だ。木から落ちた僕を君が受け止めてくれた。女神のような君の姿と優しくて爽やかな君の香りを一生忘れない。君が寝ている間に大神官にも確認したんだよ。本当に嬉しかった。」


 大神官、実家以外にも情報漏らして良かったの??いえ、ここは素直にありがとうと言っておこう。


「じゃあ、私、子供を産んでも神殿に帰されたりしないのね?」


「聞いてたの?!いや、その、もちろんだ。君と僕はずっと一緒だよ!」


「ありがとう。私も黙っててごめんなさい。信じてもらえないかもしれないと思ったら言えなくなって。子供の頃、私は2回死んだことになる意味が良くわかっていなかったの。怒ってる?」


「うーん。そうだね。確かに、2回目の婚約の時に知らせて欲しかったな。」


 カイリーは突然、顔をくっ付けてきた。


 こうなるまで、全然気にしてなかったけど、カイリーも私もバスローブ!!こ、これは、これは!!いや、でも、婚約者だし!!

 と、一人盛り上がったのに、カイリーは軽いキスをして、スッと離れてしまった。


「ああ、キスってこんなに破壊力あるんだ……。」


「カイリー??」


 カイリーの顔が、茹でたてのタコ並みに赤い。


「君はここに居て。後で侍女が来るから。」


 カイリーはいそいそと寝室から出て行ってしまった。私はポカンとカイリーを見送った。


 この顔じゃダメだった?色々無理ですって感じ??


 でも、その後、カイリーはやたらと私と行動を共にするようになり、私の寝室はカイリーの部屋に移され、私を正妃にしたいと陛下に相談したらしい。陛下は、公爵家と禍根を残さぬようにとだけ答えた。


 そして、今日エリアの父上、エスリン公爵が、やってきた。私を部屋から出したがらないカイリーが、珍しくついておいでというので、ほけほけついて行くと、謁見室で、公爵がいてびっくりした。睨んでる?睨んでるよね?!


「元聖女様もおいででしたか。近頃の殿下は元聖女様と殊に仲良くなさっておられますな。聖女の血をわが国にもたらす元聖女様が大切な方であることは重々理解しておりますが、しかし、私の娘を第一妃とするとされながら、元聖女様を王子の部屋に住まわせるのは、あまりに世間体が悪く、娘が哀れで。」


 公爵は、わざとらしく泣き崩れる。エリアの父上だけあって、なかなかに綺麗な顔。ドレスを着せればお母様でも通りそうだ。


「ああ、その事で相談なのだが、私はルーアと結婚するので、エリア嬢はグリーンエイジの王妃になってはどうだろう?」


 カイリーは、笑顔でサラッと言った。公爵が固まる。


「は?と、突然何を仰います。娘はこの国の王妃になるはず……」


 グリーンエイジの王妃ってことはセルアの妃?


「グリーンエイジは小国だが、歴史もあり、強い戦士や術士も多い。私がグリーンエイジの王女と婚約していたが、果たせなかった。その代わりに王とエリア嬢の婚姻で縁を深くしたい。国王陛下にも申し上げるつもりだ。」


 私がその王女だと公表するのは神殿との関係上まずいので、世間的には私は孤児の元聖女のままだ。


 公爵は青くなって、プルプル震えている。


「む、娘が何か致しましたか?元聖女様を差し置いても第一妃にとお望みいただき感激しましたものを。今から婚約破棄、小国の王妃では娘の名誉が……」


 小国で悪かったわね。グリーンエイジは豊かで、神代から存在すると言われている国なのよ。エル王国より歴史が古いんだからね!


「そう言うな。私はルーアを愛しているし、エリア嬢はセルア王を慕っているのだ。」


「な、なんと、エリアが?!」


 公爵はポカンとした顔になり、それから見る見る青くなった。


「ご、御前失礼致します。エリアに確かめねば……」


 まあ、公爵には寝耳に水。カイリーが私と仲が良くても婚約者なんだし、本来咎めることは難しい。それを押して苦情を言ったら、自分の娘の方が別の男に入れ上げてると言われてしまった。それが本当なら、皇太子にとんでもない無礼をしたことになる。


 ……大丈夫かな?エリア、怒られて鞭で打たり……


「カイリー、エリア嬢がセルアを好きだって言ったの??」


「はっきり聞いたわけではないけど、間違いないよ。彼女は僕じゃなくて、セルアに恋をしている。セルアが訪ねてきていた時、会ったみたいでね。エリアのことは気がかりだったから良かったよ。」


 カイリーは自信満々でウィンクしてきた。

 まあ、確かにエリアはセルア狙いだけど、そんな適当な……


「公爵様とエリアは仲が良いの?放っておいてもエリアは大丈夫なの?」


「ん?さあ、どうだろう?」


「エリアのところに行くわ。」


「え?そう?じゃあ、行こうか。」


私はカイリーと一緒にエリアの部屋に向かった。


「エリア!この恥知らずが!!」


 部屋の外まで公爵の声が響く。


 カイリーが一緒なので部屋にはあっさりと入れるのがありがたい。エリアはムチで打たれていた。展開早くない?!こんなの、来てすぐに体罰じゃない。話聞く時間あった??


 あ!足元にペンダントが転がっている。セルアの絵が入っていて、女性の中で昔から流行っている片思いの人と結ばれると言うペンダントだ。これを見てこうなったのね。


 公爵はカイリーを見てムチを下ろす。


「殿下、申し訳ございません。娘がこのような不心得者とは……」


「公爵、やめてくれ。彼女はグリーンエイジの未来の王妃だ。粗末に扱うな。」


「ありがたきお言葉でございます。」


「エリア、大丈夫?」


 私はエリアに走り寄って助け起こした。


「ラン、ラン思い出した。ああ!!」


 エリアは目に涙を溜めていた。


「エリア、大丈夫よ。貴方はグリーンエイジの王妃になれるようにみんなで協力するわ。泣かないで。早く手当てをしましょう。」


「では私たちはグリーンエイジと我が国の婚姻について相談しよう。ルーア、エリアの話を聞いてあげて。」


 カイリーは優しく笑って公爵を促した。二人が出て行ってから、エリアをベッドで休ませようとするけど、エリアがなかなか動いてくれない。


「ルーア、ルーア!!思い出したの!思い出したの!思い出したのよ!!皆さがって!!下がりなさい!!二人にして!」


 侍女に怒鳴りつけながらエリアはガタガタ震えていた。主人の癇癪に、侍女たちは急いで部屋を出ていく。


「エリア、落ち着いて。何を思い出したの??」


「ラン、私たちがいるのは乙女ゲームの世界じゃなかったの。ホラーゲームなのよ!」


「はい?」


アビスからのレクイエム。鏡と書いてアビス!地獄の底よ!!」


 美女が髪を振り乱すのって、絵的に凄いわ。


「落ち着いてよ。まあ、鏡の向こうは奈落っぽかったわね。魔物やら悪魔やらたくさん相手をしたわ。」


 エリアはイライラしたように叫んだ。


「違うの!!ジャンルが!!乙女ゲーム系ホラーゲーム!!メインがホラーなのよ!!」


「そ、そうなんだ。」


「分からない?!私、全部思い出したつもりでいたけど、そうじゃなかったの。セルア様と真のエンドで結婚したら、セルア様は悪魔と同化して世界征服して、私は真の王妃の依代にされるの!私の体だけど、本当に愛する人の魂を入れる入れ物よ!しかも、場合によっては世界が滅びる滅亡エンド!!」


「真の王妃??」


 セルア、好きな人がいるの??しかも、そこまでする人??


「そこじゃないでしょ!!」


 確かに。


「ごめんなさい。えーっと、じゃあセルアとの結婚やめる??」


「やめる!!やめるわ!!そうだわ。貴方の言う通り、日本に戻りましょう!こんな世界、もう嫌よ!!」


 えーっと……私、カイリーとうまく行くきそうになってきたんだけど……


「首吊りよねやっぱり!!いや、体を残さない方が良いわ。何に使われるか分からないもの。飛び降り?いや、炎の中にダイブ!!」


 うわ、苦しそうな死に方……


「まあ、待ちなさいよ。攻略対象は放っておいてゲームと無関係な人と結婚すれば良いじゃない。」


「そう、そうだわ。メインキャラと関わらなければきっと助かるわ。そう、そうよね。そう、メインキャラ以外、メインキャラ以外。」


「とにかくカイリーを止めないといけないわね。」


 私はドアの外にいる私の侍女に、エリアが混乱しているからセルアとエリアの事は少し待って欲しいと伝言した。


「さ、これでとりあえずは良いわ。」


 エリアはメインキャラ以外とつぶやき続けている。


「エリア、お茶でも飲む?」


「ラン。」


「はい?」


「メインキャラ以外なんて、私分からない。だってて、記憶が完璧じゃなければ、その人もメインキャラかもしれない。」


「え、ええ。」


「ランは言ってたわ。突き落として欲しいって。」


「う、た、確かに言いました。」


 目が怖い。でも、綺麗だからタチが悪い。紫の瞳に吸い込まれそう。


「ハーブを間違って飲んで死にたいって、日本はパラダイスだって。」


「え、ええ。あの、ちょっと思い詰めてて……」


「あなたの気持ちが良くわかったの。ここは地獄。私達は地獄の一丁目にいるの。これから転がるように地獄が始まるの!死にましょう!!早く一緒に死にましょう。」


 私は逃げ出した。エリアの部屋を出て、自分の部屋に駆け込む。心臓がバクバクしている。エリアの花のように綺麗な顔とクリスタルのように澄んでいるのに狂気に溢れた目、蠢いているように見えた乱れた金糸の髪。


 うっかりそうしましょうと返事をしそうだったわ。私も、もともと死にたかったから。


 でも、カイリーが思い出してくれた。それに、セルアも助けたい。エリアも友達だから幸せになって欲しい。死んじゃダメよ!今更だけど!

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