*第66話-報告-
バルバリア島に冬がやって来たわ! 今年は色々あったけど、それでも私たちは無事に7回目の冬を迎えることができた。
私たちは冬が来る前に3つの大仕事を達成したの。
まず1つ目は先日、私が直接参加したアグル大同盟当主会議よ。私たちにとってあの会議は、1国でもダネア族側に寝返らないよう圧力を掛けることが最大目的、ユートレー遠征を主軸に北方へと介入するのが次点の目的、ミシア国のノーズィリア国併合を敢えて追認することが第3の目的としてあって、私はそれを全て達成することができた。ジョンがそれ以外のことも色々と話を通してくれて、大成功に終わったと言っても過言ではないわ!
2つ目はカルロ将軍によるノルウィック解放作戦。これは、今まで押されっぱなしだった戦況を盛り返すための第1段階なのだけど、それだけじゃない。パトリリーバーという町までの道路整備という目的もあったの。
かつてバルバリア島を支配したロマーラ帝国は、州都ダウニウムを中心にきめ細かな道路網を整備していた。けど、空を飛ぶことのできる妖精種へと支配者が変わったことで道路の整備はおざなりとなり、七大国それぞれの交易路に適さないものから朽ちていった。かつてダウニウムとユートレーを結んだ最重要幹線――エルミン道路もその1つ。
カルロ将軍率いる遠征部隊はノルウィックに向かう際、直線的に向かうのではなくて、敢えてパトリリーバーまでエルミン道路を修繕してから向かった。それはユートレー遠征への布石であり、ノルウィックやリッドカルといった北東の都市に私たちが影響力を持つための地盤固めでもあるわ。
私たち妖精種はそこそこの距離を飛べるし、バルバリア島の周囲には海がある。移動だけなら空路を、積荷の輸送には海路を使っていた。けど、ダネア族に海を脅かされたことで陸路、荷馬車を復活させる必要に迫られている。だからこそウェスーク国が先んじてその道路網を整備し、利権を押さえてしまおうと考えたの。
目論見は今のところ順調よ。カルロたちは道路を使って1ヶ月と掛からずにノルウィックから帰って来れたし、ゲント人商人が道路を独占使用する代わりにゲント国から使用料を纏めて支払ってもらう契約も取り付けられたの。最高ったらないわね。
最後の3つ目に関しては、今日の国務卿会議で説明してもらうことになってるわ。
――――――――――
「全員が揃ったのは何時ぶりだァ?」
「ルーナがゲント国に行って以来じゃないかな」
「ってことは最初だけだったのかよ。ンでもそうか、そうだよな確かに」
「緊張する……」
「ルーナ様、大丈夫です。皆様お優しい方ばかりですよ」
ノルウィック遠征からカルロが帰ってきて、冬ということでルーナが帰ってきて、そしてミシア国でひと仕事終えたジェファーも帰ってきて、随分と賑やかになったわね。
「久々に国務卿が全員集合ね。今週の会議を始めるわ。今日のトピックは2つあるけど……どっちからにする?」
今日はアラーナとジェファーの2人から報告が上がっていたわ。
「私は後でお願いします」
「では僕から始めるね。僕は今回、ミシア国であったことを報告しようと思う」
そう言って立ち上がるジェファー。彼は秋の間、とある目的のためにずっとミシア国で活動していたの。
もちろんアグル大同盟当主会議に向けた根回しもあったのだけど……。
「皆も知っていると思うけど、僕がわざわざ直接ミシア国に出向いた目的は『魔竜様に仕えるドレイツ長老会議』に関する動向を調査するためさ」
当主会議の1月後、今からだと2週間程前にミシア国首都のタモースでドレイツ長老会議が行われたんだけど、それを事前に知ることができた私は予め彼に調査を命じていたの。
「これは、ダネア族との戦いで戦死した先代覇者に代わる新たな覇者を指名するために開かれたものだ。候補に上がったのは3人……たったの3人だけ。デルニス当主のオズワイン様か、ミシア当主のエクフィズ様か、僕たちの当主様か」
他の妖精種の有力者はアトゥス教に改宗しちゃってるから、これだけというのも仕方のないことね。
「とはいえ、ミシア国支配下に置かれたデルニスの当主を覇者とするのはどう考えても無理があるし、僕たちの当主様だって覇者に指名する前にまず彼らはウェスーク当主として承認しなくちゃいけない」
多くのドレイツから嫌われてる私の承認はまず間違いなく通らないわ。
「実質、1択しかなかったんだ。いや、そうなるように仕向けられていた」
「仕組んだのは対ウェスーク好戦派?」
「いや、好戦派と融和派のどちらも噛んでいたと僕は思うね。この件に関して言えば、好戦派を率いる当主第1子――ベルトリーク様と、融和派の第2子――キュネル様は手を組んでいる」
キュネルが関わっている件といえば……あれしかない。
「オズワインとの婚姻……」
「おッ! 当主様、それ大正解! オズワイン様とキュネル様の婚姻を根拠に、ミシア国は死に体だったノーズィリア国を併合した。融和派としてはこれでウェスーク国から好戦派の目を逸らせるし、好戦派としても国が大きくなることは大歓迎。ドレイツ教勢力にとっても権威に従う権力を1本化できるチャンス。デルニス当主の叔父という微妙な立場にあったオズライクもノーズィリア卿として実権を認められて万々歳。エクフィズ様からすればノーズィリア獲得と覇者の地位で2度美味しい。『全方よし』とはこのことだね」
それに、妖精種のドレイツと半魚種のドレイツ、その間で結ばれた「ダネア族はミシア国に侵入しない」という約束もあって、ノーズィリア領域でのダネオラウの拡大は落ち着いているらしい。であるなら――
「私たちにとってもこれは良い事と捉えていいのかしら」
「良い面と悪い面、両方ある」
「というと」
私の問いにジェファーは肩を竦める。
「ダネオラウの拡大を抑止できる、これはもちろん僕たちにとって良い事だよ。反面、ミシア国とドレイツ教勢力が1枚岩になれば僕たちが介入することも難しくなってしまう」
「だが、それは一時的なものだ」
ジョンの言葉にジェファーは頷く。
「うん。権威と権力が集合することは、果たして彼らにとって本当に良い事なのかな。最初こそドレイツ教勢力はミシア豪族に対して好き勝手できるかもしれないけれど……あの狡猾なエクフィズ様のことだし、そう遠くない内に彼はドレイツ長老会議を逆に乗っ取ってやろうと試みるだろうね」
「そんなこと可能なの?」
「充分に可能だろう。随分と財布が軽くなったドレイツどもを支えているのは、今やミシア国の地方に点在する領主、部族長らだ」
2人の言わんとすることが分かった。それって……。
「うん、ミシア豪族の権力はあくまで地方の領主らとの間に結ばれた別個の主従関係で成り立っているからね。これで影響力の堂々巡りが完成だ」
祭司が豪族に、豪族が地方の有力者に、地方の有力者が祭司に影響力を持つ三角関係。こんな状態では誰が責任を取れると言うの。
「そんなの、不安定過ぎます……」
「アラーナの言う通り、この体制はいずれ暴走するか分解するだろう。僕の調べた限りでは、ミシア国内の有力者らはいずれ3つの陣営に分かれると予想している」
ベルトリーク(エクフィズ第1子)陣営
・反ウェスーク/抗ダネア
・北部の領主や部族長が中心
・ドレイツ教勢力と癒着関係
キュネル(エクフィズ第2子)陣営
・親ウェスーク/抗ダネア
・当主補佐のサイラスやバズム市長が中心
・ドレイツ教勢力とは距離を保つ
エックフリス(エクフィズ弟)陣営
・親ウェスーク/従ダネア
・ブリクストーウ市長や商人が中心
・ドレイツ教勢力にある程度の寄付
「キュネル様とはレンデラムでお会いしたんだよね」
「ええ。私たちに好意的なとても良い子だったわ」
「それは良かった! なら、僕の次の目標はエックフリス様に接触することだね」
エックフリス陣営の基盤になるのはブリクストーウ市と説明があった。そこはバルバリア島西部最大の港町で、ミシア国の海運の拠点。
そこで支持を集めている「航海の安全のためにはダネア族の軍門に下るべき」という主張はアグル大同盟と相容れないものだけど……大丈夫なのかしら。まあ、ジェファーなら上手く事を運んでくれるに違いないわ。
「これで僕の話は以上だよ」
ちょっとした質疑応答の後、ジェファーの報告は終了した。
「ファルフレド・パウト(完璧な計画)」にも密接に関わってくるだけに、これから冬の間は対ミシア戦略で持ち切りでしょうね。
「一旦休憩よ。その後はアラーナ、お願いね」
「はい……」
今日はアラーナからも報告があるという。けど、彼女の表情は暗い。
……一体、何があったのかしら。




