終わりのようです。
舞踏会の主催者への挨拶が一通り終わると音楽が流れ最初にエスコート役と始まる。それが終わると二曲目からは各々が踊りたい者へダンスを申し込むのだけど、なぜか私のところへ多くの人がダンスの申し込みをしてきた。
十曲目を踊り終え、さすがに踊り疲れた私は壁側に設置されている休憩用の椅子へと歩み寄った。その進路上に一人の少女が立ち塞がる。
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「あの、私に何かご用事かしら」
「…なたの」
「?」
「あなたの、、、あなた、、、のせいでっ!」
俯きながらぶつぶつ呟いていた少女がこちらへと走ってくる。その手には料理を切り分けるためのナイフが握られていた。
「お嬢様!」
そのことに彼女の一番の従者は一番最初に気付くが生憎彼女との距離は遠く、決して少なくない人数の会場内では思うように動けない。
「クローディア様!」
ここが公式の場であることも忘れて、大声で叫んだ二番の従者は突然の出来事にただ叫ぶことしかできない。
「心配ないわ」
そしてその凶刃の矛先となった彼女は既に防御魔法を張り巡らせ、自らの従者に心配させまいと声をあげた。
きっと一番の従者がダンスの申し込みをする者すべての相手をしようとする律儀な主に呆れて彼女の傍を離れなければ結果は変わったかもしれない。二番の従者がすぐに行動を起こし身を挺して主である彼女を守れば結果は変わったかもしれない。彼女自身が魔法を使えることに慢心せず、その場から逃げ出せば結果は変わったかもしれない。そして、、、
凶刃は何・の・抵・抗・も・な・く・彼・女・の・胸・を・貫・い・た。
「え…?」
自分の防御魔法が簡単に破られたことに彼女は動揺を隠しきれない。そしてその原因について考える時間もなく、
「ごふっ」
口からおびただしい量の血を吐きながらその場に倒れた。口からか胸からか、彼女の身体を中心に血だまりが広がり、そのドレスを鮮やかな赤色へと染める。徐々に身体からは体温が奪われ、意識は遠のく。意識を失う前に聞こえたのは、
「どうして?どうして?あなたならこのくらい簡単に防げたはずですわ!どうしてどうしてどうしてどうしてどうし…」
狂ったようにどうしてという問いを繰り返し続ける少女の声だった。
リデラ歴942年王家主催の舞踏会中に公爵令嬢が伯爵令嬢の凶刃によって殺害されるという前代未聞の事件が起きる。これにより舞踏会主催者である王家の信用は失墜。国全体が不安定な暗黒期へと突入する。伯爵令嬢はその場で衛兵により無抵抗のまま取り押さえられ後に公爵令嬢殺害という重罪で処刑される。噂によれば彼女は処刑されるその瞬間まで誰かに謝罪の言葉を呟いていたらしい。公爵令嬢に仕えていた従者については両名ともに雇用先である屋敷を去って行方不明。彼女の葬式は外聞もあり細々としたものであったが、なぜか参列者の話は周囲で知られていた彼女の酷評とは別物であったという。
なお、彼女に致命傷を与えたと思われる凶器については未だ発見されていない。