Re:4 夢へと進みし……③
「――なのです! ぶがいしゃは立ち去ってください、なのです!!」
「それを知って、立ち去れる奴はいないな」
良く知る声と、聞き知らぬ声。この二つが論争を始めようとしていたときに、僕は目覚めた。
「てきになのる名はない、のです! ただちにここから出て行ってください。さもなくば、自分のみがどうなっても知らないのですよ!」
パッと目を開くと、そこには、なにやら殺伐とした雰囲気を醸し出した、ベガと……どこから現れたのか、緑髪の少年がいた。ベガは構え、そして緑髪は……なんとサスマタを持っていた。
「ああ、ルイ。目が覚めたか」
「うん、ベガ。ねえ……一体何が起きてるの?」
「……ルイ。よく聞いてくれ。オイラたちはもしかしたら、とんでもない所に来てしまったかもしれない」
ベガは相手に背を向けぬよう、構えながら言う。こんなに真剣な表情をみたのは、指折り数えられるほどかもしれない。
「それってどういうこと!?」
「この奥に研究所がある。そしてその中に、朝倉という男がいるはずだ。そいつは宇宙の研究を、ひっそりと行っているらしい。もしかしたらオイラのことが分かるチャンスなのかもしれないってことだ」
ベガが求めているもの。それは、自分の記憶と身分だ。自分が一体、どういった存在だったのかを知ること。その手がかりになる「何か」を、もしかしたら持っているかもしれない人物とコンタクトを取れるのであれば、これ以上のチャンスは存在しない。
「ルイ、分かってくれるな。こいつはオイラが足止めする。だからその間に、お前は走って、研究所へ……!!」
「わ、わかった!!」
「そうは、させないのです!!!」
僕の行く手を阻もうと、緑髪はこちらに駆け、遮ろうとする。だが、それはベガによって静止させられた。
「わっ……はなせ、はなすのです!!」
「悪いな……こっちは音速なんだ」
ベガは緑髪に足を絡め、もつれさせ、そして押し倒した。これで相手は動けまい。
……ベガならきっと大丈夫。きっと勝つ。それを信じて、僕は研究所に向かって、走り始めた。
目を覚まして間もない僕にとって、走ることは辛い動きだった。今なら友人の命をかけて走り続けた男の気持ちが、少しは理解できるかもしれない。
フラフラとする身体に鞭を入れながら進むも、視界は段々とぼやけるばかりである。
というか、何て広さだ……この土地は……。
目標が見えないからこそ、余計に疲労を感じさせる。それでもベガのため。大切な友達のために、僕は走った。
そして、ついに目標がみえてきた――。
だけど、そこからの記憶は全く無かった。僕はまた、そこで一歩及ばず、倒れてしまったのだった。
その後のことは、あまり覚えていない。
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「……イ。ルイ、起きろって」
――この声……べ、が……?
「ああ、大丈夫か? どこか怪我していないか?」
――怪我なんてしてないよ。大丈夫。
「よかった……ルイ。わたしはお前にもしものことがあったら……」
――わたし……? それに、何だか改まったみたいな言い方だね。
「ごめんよ、気にしないで。きっと水分を欲してるんだ。ほら、飲むといい」
――あ、ボトル……ありがとう。
「……よし、大丈夫だな。さあ、行こう!」
――うん!
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それから、ふと気が付いたら、研究所の入口手前で立っていた。それまでに何があったのかは、さっきも言ったけれど、覚えていないんだ。もしかしたら、僕の潜在意識が勝手に、僕自身を操作して、ここまでたどり付いたのかもしれない。けれど、そんなのはあり得ないだろうし、あまり信じられない。まあこんなことを考える暇は、当時なかったんだけどね。
僕は、目の前にある目標を達することに全ての意識が向いていたと思う。僕は意を決して扉を開こうとした。
けれど、それよりワンテンポ早く、内側から扉が開かれた。
「やあやあ、君が『夜天 流衣』君だね」
「……えっ」
僕は突然のことに、頭が真っ白になる。それは、扉が開かれたことよりも遥かに衝撃的だった。
「……どうして、僕の名前を……!?」
「フフッ……」
こうして僕は、朝倉に招かれるままに、研究所へと足を踏み入れた。




