Re:1 五か月前……
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朝倉と出会ったのは、今から遡ること五ヶ月前だったと思う。
――特別な丘で出会った、特別な友達……。
そんな、人間の姿をした宇宙人、ベガ。彼がこの星の人間として生活するようになってから、ひと月が経過した頃のことだ。当時まだベガは、礼儀こそあるものの、「世間体」というものをあまり理解していなかった。そのためとにかく活発やんちゃだった。今では考えられないよね。
生活には大分慣れてきたようで、近頃は何一つ躊躇せず、外へと出られるようになってきた。「今日は、何処へ行くんだ?」、「へへ、楽しみだ!」などと、むしろ外出を期待しているようで、僕としても嬉しい限りだった。
今回は夕飯を買いに行くだけであるため、特別な外出というわけではない。
「準備はできたか、なあなあ」
それでもベガは楽しそうにそわそわと、今か今かとじれったく、その時を待っていた。それを見ていると、小さな頃の自分を見ているみたいで、何だか懐かしい気持ちに駆られた。
「どうして、そんなに楽しみなの?」
「外に出る度に、新しい発見があるんだよ。毎日出なきゃ、気が済まないんだ」
勤勉というか、が好きというか。とにかく単純に、この星を好きになってくれたようで、僕はとっても嬉しくなった。
「それに何より……」
「んう?」
「ルイと一緒だと、もっと楽しくなるんだ!」
その澄んだ紅い瞳から放たれる、ほんわりと、あたたかい目線が、僕を優しく包み込んでいく。
「ほらほら、支度支度!」
ぼけぼけと、ベガに見とれてしまった。ベガに見惚れるのはこれが初めてのことじゃなかった。これの理由を考えてみたけれど、可愛らしい少女の面持ちであるから……というよりも、まるで家族のような存在であるがゆえ、なのかもしれないって結論になったんだ。僕は家族として、ベガが大好きなんだ。家族としてとらえ始めていたんだって、その時に実感したんだよ。恥ずかしいけど……。
「いーそーげーーー!」
「はーい!!」
今日もきっと、楽しい日になるだろう。
ゴムまりよりも弾む心を抑えつつ、僕は準備に入ったんだ。
――――――
「ちょっとまったぁ!!」
トモリが姉顔負けの声を上げる。煩いのは苦手だ。
「え、何。どしたの」
「ここからどうやって朝倉研究所に繋がってくの? どう聞いてもノロケ話みたいな何かにしか聞こえないけど」
ノロケ話とは失敬な。僕はそっちの趣味は持ってないよ。それに、単に話の入りだしを語っただけでそんな言い方をする方もどうかと思う。ちょっとせっかちすぎやしないか。ベガも何か反論をしてほしい。そう思い、見つめてみると、顔は真っ赤になってぼーっとしていた。
「ルイが……オイラのこと……ふへー……」
「わー違う!! 違うよ!? ベガ、これは単なる語りであってその、ね? 違うからね!?」
「そっかー……ほぁー……」
ダメだこれ、自分の世界に入ってる。大人しくて、結構説教臭いベガだけれど、こういう所はもう、男子というより女子のそれだ。完全に。
「ああ、ベガさんかわいい……うっとり、なの」
もうダメだこの子ら。早く何とかしないと。
ユメはどうしてこうも僕とベガをくっつけたがるのか。いまいち僕には理解が出来ない。
「もう少しで本題だから……。もうちょっとだけ我慢して」
こうして話は本題へと進む。
「それは、街中を歩いてる時のことだったかな……」




