PR 出会いは夢へと……進みすぎ……
「君は、何も覚えていないのかい」
「……名前ぐらいしか」
彼がそう言った時、私は少しだけ寂しかった。だが、同時に、彼には幸せに生きてもらいたいと心から思うようになった。
どうしてか……お前なら、分かるだろう?
いつだったかな……。
ああ、もうそんなに経ったのか。
……そうだな、憎い人間が居たものだな。
……おっと、すまない。こんな下らない話は無しだ。
……アルトとの会話の後、研究室に戻った私は、「もし、彼と、先日訪れたあの少女に関係があるとしたらそれは何の因果なのだろう」と考えていた。よく覚えている。これは運命のような何かが働いているのではないか。偶然だとは思えない、などとね。
だが運命は、これだけで止まることを知らなかった。
辺りをうろうろとしながら思考を巡らせていると、またまた波長計が、強い反応を示した。アラートも鳴り、前回以上に強く。故障でもしたのではないかと感じるほどだった。
本当に突然のことに汗がダラダラに流れて来て、本当に自分の身体なのだろうかと疑うほどに、不自然な感覚に陥っていた。
同時に自分でも不思議なほどのハイスピードで思考を更に巡らせた。これはアルトが何かをしたのだろうか。いや、恐らく違う。彼は身体をまともに動かせる状態ではない。ではこの波は何なのだ。どういうことなのだ。などと、使える頭と身体を兎に角利用し、様々なものをチェックした。だが、所内には特に変わりは無い様子だった。
念のためにアルトの様子も見に行ったが、心地よさそうに眠っていたため、起こすのは非情だと思い、それは控えることに。
では、外部でまた何かあったのではないか。もしやアルトの仲間が現れたのではと思い、外への扉を開いてみることに決めた。
時刻は午後二時。一番気温が高まる時間だが、今は秋。少々暖かい程度である。おまけに外が明るいため、探索も容易であるはずだと思っていたが、正にその通りだった。
扉を開けて辺りをじっと見回すと、遠くに赤色の何かがあったのだ。恐らくアレが原因だろうと思い、駆け足で向かった。
見ると中性的な顔つきというよりも、少女の顔だちをした者が倒れていた。これはアルトと似たような境遇であるが、決定的に違うことがあった。それは、彼女がセーラー服の姿をしていたことだ。それだけが理由ではないが、直感的にこの少女は異星人などではなく、人間だと感じた。
身体はアルトよりも酷くボロボロであり、介護が無ければ助かる見込みは無いほどだった。
「大丈夫かい」
声をかけてみると、身体が少しだけ動き、目を少しだけ開き、虚ろな目をしながらも言葉を発そうと生力を尽くしていた。
「……ト…………」
消え入りそうなその声は、そよ風ですらかき消されてしまうほどだった。私は耳を彼女の口元に近づけることで、ようやく聞き取ることができた。
が、彼女が絞り出した言葉に、私はとても驚いた。
「……ト…………モ………ヤ…………」
確かに、私の名前を呼んだのだ。一句足りとも聞き間違えたりなどはしていない。
「何故、何故私の名前を……」
だが、その言葉に返事をすることは難しかったようだ。声を持てる限りの力で絞り出したためか、彼女は気を絶ってしまった。
とはいえ脈や鼓動、息などは微弱ながら存在したため、まだ助かる見込みはあった。
私は急いで、アルトと同じ方法を用いて彼女を研究所に運び込んだ。
所内のリビングにあるソファーに優しく横たえさせ、必死に治療に取り組んだのだった。




