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恒星未来伝―Protect Your Eterein―  作者: くろめ
心優しき緑髪
23/64

その1 「わかげのいたり」、らしいです。

  ☆★☆★☆


 僕がこの研究所に運ばれて、一週間ほど経過したでしょうか。この頃には、朝倉さんによる懸命な治療があって、そして、美味しいお料理を食べさせてくださったお陰で、身体はとても良くなっていました。とっても嬉しかったですし、この日、感謝の気持ちでいっぱいだったのです。


 僕はスッと目を覚まし、いかにも研究所らしいその色合いの天井を、再び目の当たりにしました。再びと言っても、これはもう幾度目も判らない、再び、でした。

 僕はまず、自分の手のひらを見ました。なんてことない、普通の手でした。これを握ってみて、痛みが無くなっていたのがつい三日前です。

 今度は意を決して、挑戦的な気持ちで、身体を起こしてみました。もう、一週間前のような激痛もありません。ただ、患者さんが着るであろうその衣服—名前は知らないのです—に、ほんの僅かだけ違和感を覚えました。

 今度はその服をたくし上げ、手足の傷を見てみますが、既に塞がっているか、もしくは剥がれかけの弱々しい瘡蓋が、僕を必死に守っているかのどちらかとなっていました。

「ありがとう、なのです」

 僕はこの嬉しい気持ちを言葉にしつつ、今度は立ち上がってみることにしました。

 下を覗き込んでみると、左側にスリッパが一足、僕を待っていたかのように、向きを揃えて置いてありました。きっと朝倉さんが用意してくださったのでしょう。本当に気配りの素晴らしい方……なのです。

 このスリッパをベッドに座りながら履くと、少しだけ躊躇しました。ですが、ついに意を決して、そっと立ち上がってみたのです。

 ……痛みは、ありませんでした。

 まさか痛みが全く無いとは思わず、感動するどころか、むしろ驚きすぎて、拍子が抜けてしまったと思います。

 

 そして、そのワンテンポを置いたのちに現れた喜びは、何物にも代え難いものだったと思います。あまりの嬉しさに、心も身体もぴょん、ぴょんと飛び上がっていたと思います。

「えへへ」

 僕はそのまま駆け足で部屋を出ると、今までにない、大きな声で、朝倉さんを呼びました。

「朝倉さん、あーさーくーらーさーーん!」

 言ってわずか数秒。彼が来るのを待ちきれなかった僕は、すぐ下の見える吹き抜けを見つけました。自分の居た部屋が二階であることをちょっとだけ驚きつつ、下を覗き込んでみました。

 見ると、朝倉さんもこちらを見られていたようで、片手で研究途中の試験管をお持ちになりながら、もう片方のお手をこちらに向け、笑顔でグッと親指をあげられました。

 そして試験管を立て器具に入れ置くと、「降りてこい」と仰るような手招きをなさいました。

 そして僕は、何を思ったのか分かりませんが、ウキウキで吹き抜け手前に乗り上げました。

 朝倉さんは不思議そうなお顔をしてました。

「今そちらにむかいまーす!!」

 手を挙げながら申し上げると、朝倉さんは「えっ」とびっくりなさってました。ですが当時、このびっくりの意味すらろくに理解できませんでしたので、気にも止めていませんでした。

 そして僕は、何をトチ狂ったのか、乗り上げた凸面から思いっきりジャンプを行おうとしたのです……が。

「あっ……」

 しかしなんと、この瞬間、足を滑らせてしまったのです。不運なことに、頭から落ちていってしまいました。


 そんな時、すぐに迅速な対応をしてくださり、助けてくださったのは、朝倉さんでした。

「間に合えっ、水球(ウォーターボール)!!」

 彼がポケットから取り出した、小さな固形の物質。これは僕の方に投げつけると、直ぐに膨れ上がり、僕の身体を包み込んでいきました。形はまさに、球体(ボール)です。そして、包まれた瞬間にどういうわけか、落下速度がゆったりとしたものになりました。

 ふわふわ、と表現するのが正しいのでしょうか。そうして漂っている間に、気づいたら床と水球が接していました。「ポチュン」と音がして、球体から出ることができたのは、このすぐ後のことでした。


 事後、すぐに朝倉さんの所に駆け寄りました。

「あの……その……。ごめんなさい、なのです」

 ご迷惑をおかけしてしまったのですから、まずは謝るべきだと思ったのです。自分にとっても、相手にとっても悪い行いでしかなかったのですから。

 でも、朝倉さんは笑顔で言いました。

「若気の至りというやつだね。でも、無事ならばそれでいいさ」

 先日のように、僕の肩にその暖かいお手をポンと置き、優しく受け入れてくださいました。

 ……そのほわほわとした暖かさによって、僕の中で何かが弾けてしまいました。それは自分の記憶にもない、何か、でした。

「……う…う、………ふぇ……」

 ……何故泣いているのか、自分にすら、判りませんでした。

「おやおや、どうしたんだい」

「……う、あぅ……あ、さ……ひっぐ……」

 濡れてしまった僕の身体なのに、御構い無しに抱き締めてくださいました。

 冷たく濡れた服に、暖かな体温が、じわぁっ……と伝わって……。

「さあ、今は、好きなだけ泣きなさい。アルト……」

 その言葉で、耐えていた気持ちがもっと、もっともっと、溢れ出てしまいました。

「あ…はぁぁ…あざ、あさ………くっ…ら…ンン……さ……ン……えぅ……あっ」


 ——護ってくれて、ありがとう。


「あああああああああああああああああああああん!!!!!!!」


 何故か、全てが救われたと、そう感じさせたのでした。

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